電撃FCI The episode of SEGA 2
Stage2 伝説の龍と輝く花束
東京某所にある、欲望と暴力の渦巻く街、神室町。
電神ドリームキャストと絶無の戦いは、あの伝説の極道、堂島の龍と呼ばれた最強の男も呼んでいた。
その男の名は、桐生一馬(きりゅうかずま)といった。
一馬は、電神に呼ばれ、絶無に対抗するために戦っていた。そして今もまた、絶無がいなくなり、電神の休養期間にもこの世界に止まり、毎日のように戦いを挑まれては相手を打ちのめしていた。
もとの世界でも一馬は、似たような生活を送っていた。
喧嘩慣れした血の気の多いチンピラを相手にしては、見事に返り討ちにしていた。
しかし、この世界での戦いは少し勝手が違っていた。
もとの世界では圧倒的力によって、戦いを挑んでくる敵を沈められたものであるが、何故かこの世界での戦いでは一撃のもとに敵を倒すということができないのだ。
さらに妙なことに、この戦いにおいては、どれほど痛め付けようとも血を流すことも掠り傷一つとして付かない。
体力のバロメーターのようなものが出現し、それがなくなると相手は倒れる。そうそれはまるで。
「なんや、格ゲーみたいやないか桐生チャン? こりゃ一体どないな設定やねん」
一馬のサポートキャラクター、真島吾朗(まじまごろう)は、みょうなルール化された戦いを前にして言った。
吾朗のようなサポートキャラクターは、戦いの時には一定周期でしか出現できず、話せる機会はこうした戦いにいない時だけであった。
「真島の兄さん、俺にもこの世界の事は分からない。ただ、いつもの神室町と違うということは確かだ」
「なんや、ゾンビの時を思い出すなぁ」
一馬も同感であった。
街の人間は事あるごとに戦いを求める。その様子はまるで、ゾンビ化した神室町の人間を思い出させる。
そして今、更なる戦いが起ころうとしていた。
「こんのぉ!」
少女の怒号が聞こえてきた。
「この声は……!?」
一馬は思わず声のした方へと駆け出した。
「ちょっと待ちいや、桐生チャン!」
吾朗も後へ続く。
一馬が声のした方へたどり着くと、ゆるくウェーブのかかった髪型をし、赤いブレザーに紺のスカートという女子高生と思われる出で立ちの少女が、神室町のチンピラを圧倒していた。
「むかつくむかつくむかつく……!」
電信柱に追いやり、少女は超連続的な蹴りを放っていた。その威力は、比喩でもなんでもなく、電柱にひびを入れて倒壊させるほどであった。
「むかつくんじゃあぁぁぁ!」
少女は止めにドロップキックを食らわせた。これにより男は再起不能になった。
「そのまま寝てな!」
少女はピクピクと気絶するチンピラに一言浴びせ、その場を立ち去ろうとした。
「遥!?」
一馬は去っていこうとする少女に呼びかける。
「あん? 何よオッサン?」
少女は振り返る。かなりふて腐れている様子である。
「あ、いや、すまない。人違いだったようだ……」
姿形は丸きり違うが、その声だけは一馬のよく知る子と酷似していたために、声をかけずにはいられなかったのだ。
「柄の悪いオッサンね。私は逢坂大河(あいさかたいが)、以上よ」
少女は自らの名を名乗る。一馬にとっては、大河という名前さえも聞き覚えがあった。
妙に一馬にとって、不思議な縁を感じる少女であった。
「何よその顔、何か文句でもあるの? あったとしても一切受け付けませんが!」
「いや、別に文句はないのだが……」
「おい桐生チャン、いきなりどないしたんや?」
吾朗が追い付いてきた。
「ああ? なんやねんこのチビ? 桐生チャンとこのガキか?」
吾朗の言葉は大河の逆鱗に触れてしまった。
「だぁれぇがぁ、チビですって!? だぁれぇがぁ、手乗りタイガーですって!?」
手乗りタイガーというのは、大河にとって屈辱的なあだ名である。しかし、その素性を知らない二人にとっては、彼女が一体何を怒っているのか分かるはずがなかった。
「手乗りタイガー? 嬢ちゃんどっかの組の者なんか?」
「だぁかぁらぁ、私をその名で呼ぶなぁ!」
吾朗の性格上、歯に衣着せぬ言葉は、大河をどんどん怒らせていくのだった。大河はかなり喧嘩腰である。
「真島、少し黙っていてくれ。大河といったな? 別に俺達はお前を馬鹿にしているわけじゃあない。ここは穏便に済ませてはもらえないか?」
大河の機嫌は悪いままである。
「この場を穏便に済ませてほしかったら、何かよこしな。あの駄犬、竜児(りゅうじ)とはぐれてからロクなものを食べてないのよね……」
ふと、大河の腹の虫が鳴る。大河が終始ご機嫌斜めだったのは空腹が原因のようだった。
「なんだ、そう言うことなら……」
一馬は神室町にあるコンビニ、ポッポでいつものように携帯食を買っていた。
一馬は、クラブハウスサンドと鮭のおにぎりを差し出した。その瞬間、大河はそれらを引ったくり、封を開けるとすぐに食べ始めた。
「あむっあむっ……!」
大河はよほど空腹だったのか、すぐに一馬が渡した食料を平らげてしまった。
「もうないの?」
「すまないが、それが最後の商品だったんだ。仕入れができないとの事でな」
「まだ足りないってのに、全く……。まあ、一応お礼は言っとくわ、ありがとう」
大河はいまいち、歯切れの悪い礼を言う。
「それよりあんた達、なんでこんな所にいるの? あんた達も野試合するつもり?」
「野試合?」
「そう、野試合よ」
大河によると、この神室町で野試合なるものが開かれているらしかった。
それは、神室町の劇場前広場で行われているらしく、腕に覚えのある者達が戦いあっていた。
「野試合……ストリートファイトか? もしかしてそこやったら桐生チャンと戦えるんか!?」
吾朗は興奮する。
「眼帯のオッサン、あんたサポートキャラでしょ? メインキャラみたいには戦えないわよ」
「なんやてー!?」
野試合に出られる者はやはり、この世界の理の例に漏れず、メインキャラクターが主であった。
この二人組のうち、メインキャラクターは一馬の方である。吾朗はどれほどやる気があっても、野試合に出るには一馬と一緒でなくてはならなかった。
「けど、大して意味のない戦いだったわね。勝ったら何か貰えるかと思ったけど、ダメだったわ……。何にも貰えないし、駄犬とははぐれるし、全く、こんなところ来るんじゃなかったわ……」
大河はぶつぶつ文句をいいながら踵を返した。
「じゃ、私は駄犬を探しに行かなきゃならないから行くわ。じゃあね、オッサン達」
「大河、ちょっと待ってくれないか?」
一馬は大河を引き止めた。
「何よ? これでもこっちは少し忙しいんですけど?」
大河は、じっとりとした目で、面倒くさそうに一馬を見る。
「いや、大したことじゃないんだが、遥という女の子を知らないか? 十五歳になる子だ」
「なに、オッサンまさかロリコン? けど残念ね、全然知らないわ。まあ、もし知っててもあんまり教えたくないわね……」
どうやら遥は、この神室町には来ていないようだった。
「いや、そういうわけじゃないんだが……まあいい、知らないなら構わない。邪魔したな」
「あっそ、それじゃね! 全くあの駄犬、どこまで吹っ飛ばされていったのかしら……」
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 2 作家名:綾田宗