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「FRAME」 ――邂逅録3 別離編

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「FRAME」 ――邂逅録3 別離編


 契約をした途端、士郎は意識を失った。エミヤは胸元に倒れこんだ士郎に驚きつつ、受け止めた。
(なんだというのか……)
 思いながらも、エミヤは抱き寄せる。腕の中に士郎がいることに安堵している。それが不思議だった。
(私は、衛宮士郎に何を求めている……?)
 考えながら立ち上がったところで声をかけられ、振り返った。
「アーチャ……じゃなくて、エミヤ、説明させてほしいんだけど、いいかしら? それと、士郎は……、意識がないの?」
 かつての主はすっかり大人だ。複数の魔術師を従えているところを見て、魔術協会あたりの、まあまあ上の立場にいるのだろうとエミヤは推測しながら答える。
「契約をした途端、意識を失った」
「そう。仕方ないわね。まあ、契約主といっても、士郎だし、事後承諾でかまわないわよね」
 士郎の扱いを含め、遠坂凛は高校生の頃から変わっていないようだと思いながら、頷く。
「移動しながら話しましょ。いい加減、ここの埃っぽさで、喉が痛いわ」
 うんざりよ、と肩を竦める凛に、エミヤは動かない。今の今まで士郎の命を狙っていた連中を、そう簡単には信用できない。たとえそれが凛の配下であっても、頭から信じるほどエミヤはおめでたくできてはいない。
「どうしたの?」
 歩き出した凛は、エミヤがついてこないことに首を傾げる。じっと凛を見据えるエミヤに、
「悪いようにはしないわよ。私は士郎を助けたいの。ずっと探していて、やっと見つけたの。だから協力して」
 真っ正直に凛はその心持ちを曝け出した。
 ようやくエミヤは頷き、ふ、と笑う。彼女に並んで歩きだした。
「君は、相変わらずだな」
「え?」
 目を丸くして凛はエミヤを見上げる。
「私のこと、覚えているの?」
「ああ。聖杯戦争の記憶は残っているのでね。ただ、それ以外は全く、経験値以外、座に戻らなければわからない」
「そうなの? な、なによぉ! “エミヤ”なんて呼んじゃったし、なんだか信用されていないみたいだし、焦っちゃったじゃない! 先に言ってよ!」
「ああ、すまない。ところで、衛宮士郎はいったい何をしている?」
「あー、うん、色々と、ね……」
 凛はエミヤの質問にはすぐに答えられない。
 どこから説明すればいいか、何をどう話せばいいのか。凛とて、士郎の全てを知っているわけではない。
「私もね、士郎と会うのは、五年ぶりくらいなの」
 思わず凛を振り向き、エミヤは口を開きかけたが、すぐに閉ざした。
 彼女に士郎のことを頼みはしたが、士郎が凛の側から離れてしまったのであれば、彼女に何を言うのもおかしい。逆に、こんなことになるのなら、士郎を預けたりはしなかったと、後悔する。
「……すまなかったな」
 彼女にいらぬ呵責を負わせてしまったことをエミヤは謝る。
「な、なに、謝ってるのよ」
「君に、コレを託してしまったからな……」
「そんなの! アーチャーが謝ることじゃないでしょ! 悪いのはこいつよ、こいつ!」
 他の魔術師たちと乗ってきたワゴン車に乗り込みつつ、凛は士郎を指さしてきっぱりと言い切った。
「ま、まあ、そうだが……」
「とにかく、こいつに問いたださなきゃ、何やってたのよって! あ、士郎はシートを倒して寝かせる?」
 凛に訊かれ、エミヤは抱えた士郎に目を向ける。
「……いや、かまわない」
「いいの?」
「他にも乗るのだろう?」
 二人増えた上にシートを倒せばさらに乗車できる人数が減ってしまう。
 いくら先ほどまで睨み合っていた魔術師といえど、見知らぬ土地に身一つで放置するのはエミヤも気が引けた。
「そう、じゃあ、そのままにするわね」
 凛は少し首を傾けていたが、それ以上は何も言わず、後部座席の奥に詰め、エミヤを促した。
 車が走りはじめて、凛は口元を覆って項垂れる。
「うぅ、なに、この臭い……」
 エミヤは凛を見てから、同乗している魔術師を見る。みな、凛と同じように項垂れている。
「何か、臭うか?」
「アーチャー……、わ、わからないの?」
「別段……」
「なんの臭いなのよ? 排水口と、なんか生ごみ的なもの混ぜたような……」
 凛の説明で、エミヤはピンと来た。
「ああ、下水溝にいたのでな」
「それよ!」
 砂埃が酷いために窓を開けられない車内は、二人の放つ臭いが充満している。
 下水溝に長らくいたため、悪臭が士郎とエミヤの衣服に染みついてしまっている。そして、エミヤの鼻はすでに慣れてしまっていて、気になるほどではなくなっている。
「アーチャーは平気なの?」
 鼻をつまみながら凛が訊く。
「ああ、慣れた」
「…………。まずは、着替えと、お風呂ね」
 慣れって怖いわね、と凛は額を押さえながら、呟いた。
 異臭に包まれた移動中、何か話して気を紛らわせるわ、と言い切った凛から魔術協会が現状持ちうる限りの士郎の情報を聞いた。
 エミヤは黙って聞いていた。憤ることも、士郎を責めることもなかった。
 ただ、胸がひどく痛んだ。なぜかはわからない。
 士郎のこれまで歩いてきた道が苛酷だったことがわかった。己の歩いた道も大差がないはずなのに、エミヤは胸苦しさを覚えている。
(私は、なぜ……?)
 このような心持ちになっているのかと嘆息する。
 眠っているからといって抱えていることもないはずの士郎をシートに下ろすことなく、膝の上に載せて抱きかかえている。
(離したくないとでも思っているのか? なぜ、そんなことを思うのか……?)
 エミヤは自問自答を繰り返しながら、士郎の身体をまた抱えなおした。

 士郎が夢とうつつをたゆとうている間に、イスタンブールまで移動していた。ここからは直行便で日本に向かうことができる。
 何度か目を開けるものの、覚醒しない士郎を心配した凛は、ホテルの一室に医療チームを呼び寄せた。簡易的な健康状態のチェックだったが、軽い栄養失調であることがわかり、士郎は点滴を施されている。
「アーチャー」
 凛の声に顔を上げると、彼女は苦笑している。
「凛?」
 ベッドの側に立ち、壁に腕を組んだままもたれ、エミヤはずっと士郎から目を離さないのだ、凛が苦笑するのも無理はない。
「大丈夫よ、点滴で体力が戻ったら、ちゃんと目も覚めるわ」
「ああ……」
 エミヤはベッドに眠る士郎に、また目を向ける。
「どうしたのよ、そんなに心配?」
「心配? 何がだ?」
「気づいていないの? あなた、すっごく心配そうな顔、してるわよ?」
「…………」
 そんなわけがない、と言おうとするが、声にはならなかった。
「何があったかは、またゆっくりと聞かせてよね。とりあえずは、日本に帰って、さっさと調査報告を終わらせることね」
 明るく言う凛に、エミヤは頷くものの、その顔は浮かないものだ。
「どうしたのよ、本当に? そんなに士郎が――」
「傷が……あった」
「え? 傷?」
「ああ。右目もだが、脇腹に、傷痕が。右の腕と脚は動かないようで、それに右腕は……」
 表現するのも憚れるその状態にエミヤは口を噤む。
「傷だらけで、生きてきたのね……。こいつは、あの頃から、なんにも変わらない。自分の身体をなんだと思っているのかしらね、まったく」