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「FRAME」 ――邂逅録3 別離編

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 この数日間、士郎は本当に楽しいと思っていたのだ。エミヤと再会したあの時と同じくらいには。
 だが、それでも士郎はエミヤの記憶がないことをどこかで悲しいと思っていた。口には出さないが、いくらかは顔に出てしまっていた。それをエミヤが感じ取っていたこともわかっていた。
 だから、士郎はここが潮時だと決めた。
「ありがとな。アンタの気持ち、うれしかったよ」
 座に引き込まれていくエミヤを士郎は笑って見送ろうと必死だった。
 左目を傷つけ、魔力を流して視力を補えば、エミヤの辛そうな顔が見える。
(悪いな、嫌な思い、させるな……)
 この記憶を持ち帰ったエミヤは、座でさぞかし憤ることだろう。
 もう二度と会うことはないエミヤに、士郎はただ笑う。
 感謝と謝罪を口にしてエミヤを見送る。
 消えゆく瞬間、つい口が動いた、アーチャー、と。



「三度目か……」
 三度、エミヤを見送った。
 その都度、胸が痛かった。
「今回のは、ちょっと……」
 息苦しさに、口を押さえる。
 泣いてしまいそうだと思って、身体を丸めた。
 嗚咽は漏らさない。涙などこぼさない。
 あの時に決めたのだ。仲間を失ったあの時に。
 世界に真実を曝してやると決めたあの時、自分に穴が開いた。
 そこにはおそらく、心というものがあったのだと思える。
 元々そういうものが希薄だった士郎が、仲間と出会い、心は色々なもので埋め尽くされていた。
 それをあの時、失った。喪失は、ひどく士郎を歪ませ、怒りや憤りに繋がる感情以外が、欠落していった。
 最後にいた組織で一目置かれていたのは、そういう士郎の姿があったからだ。でなければ、線が細く、童顔の士郎が粗暴な者たちの集うテロ集団などで幹部から目をかけられることなどなかった。
「は……」
 ため息をついて、顔を上げる。
 虫の音が静かな屋敷を包んでいる。
「アーチャーって呼んだら、訂正されたな……」
 小さな笑みをこぼし、月光の下で片脚を引き寄せ、エミヤと過ごした日々で埋まりかけていた心に、士郎はそっと蓋をした。



「FRAME」 ――邂逅録3 別離編 了(2016/9/22)