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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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L'amour rend aveugle.

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 麗らかなある昼下がり、女王候補アンジェリークは鋼の守護聖の執務室にいた。
 は〜〜〜っ、と長い長いため息をついて肩を落としている。

「もーほんと、どうしたらいいんでしょう。やっぱり素敵すぎます……!」
 アンジェリークは更に呆けた顔でミネラルウォーターの蓋を何度も開閉しつつ、またため息を落とした。
 ゼフェルはそれを見ることもなく、何に使うのか小さな部品を丁寧にヤスリ掛けをしながら──バリ取りという作業をしているそうだ──呆れた声を出す。
「んだよ、そんなに好きならとっとと行きゃいいだろ。今頃どーせ埃っぽい執務室で本まみれになってんだろーしよ」
「それですよ。そこが問題なんですよ。この間ついうっかり横顔に魅入っちゃったせいで軽く一時間経過してしまって、いつの間にか目の前にいたルヴァ様にちょっと笑われてしまったんです。もー恥ずかしいしショックだし、絶対変な子だって思われたぁ……!」
「っとにバカだな、おめーは……変なのは元からだろ」
「ひどーーーーい!」
 ゼフェルは内心、「酷いのはどっちだよ」と毒づいていた。
(人の気も知らないで、毎度毎度ルヴァの話ばっかしやがって)

 そう、この能天気な金の髪の女王候補は、鋼の守護聖と仲はいいものの本命は地の守護聖なのだった──それも試験開始直後から。
 口を開けばルヴァ様素敵、カッコイイと続く。その癖彼の執務室には恥ずかしくて長居ができないのだという。
 当初はそんな彼女のことを微笑ましく思っていた。ルヴァの常に控えめながらずば抜けて良い人柄をいち早く見抜いたアンジェリークを、見る目があるやつだと思ったのだ。

「ほんと変わってるよな。普通はおめーくらいの女って、オスカーみたいなのに目が行くモンじゃねーの? ランディ野郎も見た目は一応王子サマ系だしよ」
 もしもこの少女が数多の女性たちと同じように分かりやすく優男に入れあげていたなら、こうも苦しまずに済んだかも知れない──そんな考えが脳内を掠めて行き、赤い瞳が僅かに翳った。
「ええー? ……うーん、他の人はどうだか分かりませんけど、わたしはルヴァ様がいっちばんカッコイイと思いますけど……知的で優しくて誠実そうで」
 人差し指を顎に当てながら、きょとんと首を傾げるアンジェリーク。
「勿論他の守護聖様方のことも素敵だと思ってますよ? でも、何ていうのかしら……切なくなるのは、ルヴァ様だけっていうか。よく分からないんですけど」
 はにかんでいるその表情に、思わずちりちりと焦げ付く感情の意味を嫌でも自覚させられる。
「ま、アンジェリークみてーな変り種でもいねーと、あんな変わり者拾うオンナなんかいなさそーだしな。せいぜいうまくやるこった。ターバンの下はハゲてっかも知れねーけどな!」
 へっ、と口の端を上げて笑い飛ばした。
 こいつだってきっと、薄毛は嫌だとか抜かすに違いない────所詮は他の女どもと変わらない筈だ。
「今は大丈夫だとしてもだ……将来オッサンがキレーにハゲたらどーすんだよ、アンジェリーク」
 苛々する感情を持て余し、わざとアンジェリークに酷い言葉をぶつけた。
 アンジェリークは言葉を失ったまま、じっとゼフェルの顔を見つめている。
「ハゲ……?」
 小さな呟きに少しだけ焦り始めるゼフェル。
(やべ、言い過ぎたか?)
 もしかしたら泣かれるかも────そう危惧した瞬間、アンジェリークの顔がへにゃあと崩れた。
「やだ……それってお坊さんみたいでとってもセクシーかも……! 知的で誠実でセクシーとかダメですって、心臓壊れちゃうじゃないですか!」
 ガン、と大きな音を立ててゼフェルが机に突っ伏した。
(もうダメだ。これは無理だ。オレが入る余地なんか1mmもねえ……!)
「今でもご本から視線だけこちらに向けられることがあって、その流し目ですら色っぽくて心臓バクバクなのに!」
 やだあ、と言いながら身をよじるアンジェリーク。
「……あのオッサンをセクシーと言い切るのっておめーくらいだと思うわ……」
 割れ鍋に綴じ蓋、というべきか。
 完全に負けた感覚に、もはや乾いた笑いしか出てこない鋼の守護聖であった。
作品名:L'amour rend aveugle. 作家名:しょうきち