彼には内緒で
「では、地の力を少し送っておきますねー」
「はい、よろしくお願いします!」
地の守護聖の執務室で、女王候補アンジェリーク・リモージュがぺこりと頭を下げていた。
「アンジェ、もし良かったらお茶でもいかがですかー?」
にこにこと優しいまなざしを向けたルヴァの誘いに、アンジェリークは小さく首を横に振る。
「あ……ごめんなさいルヴァ様。これからちょっと用事があるんで、今日はこれで失礼します」
「もう帰っちゃうんですかー? うーん、寂しいですけど仕方がないですね、ではまた」
ぱたりと閉じられた扉から遠のいていく足音に、ルヴァは一つ嘆息する。
ここ数日はずっとあの調子で、殆どまともに会話ができないでいた。
森の湖でアンジェリークに想いを告げて、「わたしも」と弾けるような笑顔が返って来たのはつい先週のことだ。
(一応、恋人……と、呼んでもいい間柄な筈ですが。避けられる理由が全く思いつかない……)
それまでどんなに忙しくても、少しの空き時間を見つけては立ち寄ってくれたアンジェリーク。
彼女が嫌がるようなことをした覚えもない──手は繋いだが、それは告白する前から既にそうしている。
彼女の分だった空っぽの湯飲みに視線を縫いつけたまま、ルヴァは思案にふけった。
状況が一転したのは、それから更に数日が経過した日のことだった。
執務が一段落して休憩がてら窓の外をぼんやりと眺めていると、少し先の小道を楽しげに歩くアンジェリークが見えた。
片側が木の枝葉で隠されていたが、ややあってアンジェリークが一人ではないことが分かった。
(……ゼフェル……)
何か箱のようなものを肩に担いで、彼女と共に小道を曲がっていく。
しんと静まり返った執務室で、心臓の音だけがやたらと大きく聞こえている。
この日ルヴァはアンジェリークに逢いに特別寮まで足を運び、用があるからとにべもなく断られてしまっていた。
それもこの日だけではなく昨日と一昨日も同じ理由だったことが、普段温厚なルヴァの心には大きく堪えた。
(あなたの用事とは……このことだったんですか、アンジェリーク……?)
その行動が指し示す予測────彼女の心変わりを、そろそろ疑わざるを得ない状況と言えた。
それからもアンジェリークが逢いに来てくれる様子はなく、逢いに行ってもいつも留守────八方塞がりだった。
こうしている今も女王試験は淡々と進んでいて、終わりは着実に近付いている。宇宙も、女王試験も。
もしかしたら二人の関係も終わってしまうのかも知れない。
彼女との関係が進むにつれて、かの地にはもう送る必要がないほど地の力は満ちていた──かの地を満たした地の守護聖の心には、今、寂しさが満ちているというのに。
口をつけないままぬるくなった湯のみを両手で包み込み、ルヴァは自嘲気味に笑んだ。
(こうなると分かっていたなら、告白なんかしなければ良かったですね……)
「はい、よろしくお願いします!」
地の守護聖の執務室で、女王候補アンジェリーク・リモージュがぺこりと頭を下げていた。
「アンジェ、もし良かったらお茶でもいかがですかー?」
にこにこと優しいまなざしを向けたルヴァの誘いに、アンジェリークは小さく首を横に振る。
「あ……ごめんなさいルヴァ様。これからちょっと用事があるんで、今日はこれで失礼します」
「もう帰っちゃうんですかー? うーん、寂しいですけど仕方がないですね、ではまた」
ぱたりと閉じられた扉から遠のいていく足音に、ルヴァは一つ嘆息する。
ここ数日はずっとあの調子で、殆どまともに会話ができないでいた。
森の湖でアンジェリークに想いを告げて、「わたしも」と弾けるような笑顔が返って来たのはつい先週のことだ。
(一応、恋人……と、呼んでもいい間柄な筈ですが。避けられる理由が全く思いつかない……)
それまでどんなに忙しくても、少しの空き時間を見つけては立ち寄ってくれたアンジェリーク。
彼女が嫌がるようなことをした覚えもない──手は繋いだが、それは告白する前から既にそうしている。
彼女の分だった空っぽの湯飲みに視線を縫いつけたまま、ルヴァは思案にふけった。
状況が一転したのは、それから更に数日が経過した日のことだった。
執務が一段落して休憩がてら窓の外をぼんやりと眺めていると、少し先の小道を楽しげに歩くアンジェリークが見えた。
片側が木の枝葉で隠されていたが、ややあってアンジェリークが一人ではないことが分かった。
(……ゼフェル……)
何か箱のようなものを肩に担いで、彼女と共に小道を曲がっていく。
しんと静まり返った執務室で、心臓の音だけがやたらと大きく聞こえている。
この日ルヴァはアンジェリークに逢いに特別寮まで足を運び、用があるからとにべもなく断られてしまっていた。
それもこの日だけではなく昨日と一昨日も同じ理由だったことが、普段温厚なルヴァの心には大きく堪えた。
(あなたの用事とは……このことだったんですか、アンジェリーク……?)
その行動が指し示す予測────彼女の心変わりを、そろそろ疑わざるを得ない状況と言えた。
それからもアンジェリークが逢いに来てくれる様子はなく、逢いに行ってもいつも留守────八方塞がりだった。
こうしている今も女王試験は淡々と進んでいて、終わりは着実に近付いている。宇宙も、女王試験も。
もしかしたら二人の関係も終わってしまうのかも知れない。
彼女との関係が進むにつれて、かの地にはもう送る必要がないほど地の力は満ちていた──かの地を満たした地の守護聖の心には、今、寂しさが満ちているというのに。
口をつけないままぬるくなった湯のみを両手で包み込み、ルヴァは自嘲気味に笑んだ。
(こうなると分かっていたなら、告白なんかしなければ良かったですね……)