彼には内緒で
そしてルヴァの執務室で早速緑茶を淹れた。今度はちゃんと二人分だ。
水を変えて淹れた緑茶はとても香りが強くまろやかな味わいで、アンジェリークが気に入っていた。
その美味しさに今度からは水にもこだわってみよう、と密かに決意する。
いつもなら向かい合って座っていたけれど、今日はなんとなく寂しくて────ルヴァはアンジェリークの横に並んで腰掛けた。
その位置からじっと彼女を見つめると、瞬く間に薔薇色に染まる白い肌。
「アンジェ、こっちを向いて下さい」
おずおずとこちらを見上げる翠の瞳の中に、ルヴァは自分の顔が映り込んでいるのを見た。
その表情を見た途端、ゆるりと頬が上がっていく。
「……どうかしたんですか、ルヴァ様」
突然くすくすと笑い出したルヴァへ、アンジェリークは小首を傾げた。
「いえね……あまりにも幸せそうな顔の人が映り込んでいたものですから」
恐る恐るアンジェリークの細い肩に手を回すと、こつりと胸に寄せられた小さな頭。
なんだか気恥ずかしくて、それでも離れ難くて、愛おしい気持ちが胸の内に沸き起こる。
「────アンジェ」
名を呼ぶとぎこちなくルヴァを見上げてくるアンジェリーク。
その滑らかな頬に触れたくて、そっと手を伸ばした。
そのまま抗えない力に導かれるように引き寄せられ、ルヴァはアンジェリークの艶やかな唇に自分のそれを重ね合わせた。
「逢いたかったですよ、アンジェ……」
啄ばむようなくちづけを交わしながら、いまだに内側に折れているブラウスの襟をそっと引っ張り出す。
その指先がさらりとした布地の上を滑り、掛け違えたボタンを外していく。
甘いくちづけにぼうっとしていたアンジェリークが慌ててその手を押さえるも、既に3つほど外されて胸元があらわになっていた。
「ル、ルヴァ様っ……」
真っ赤な顔で服を押さえるアンジェリークの手に自らの指を絡め、やや強引に身体から引き離す。
はだけたブラウスの胸元にルヴァの息がかかり、アンジェリークはちくりと痛みを感じた。
「逢えなくて寂しかったので、お仕置き、です。ついでに牽制も兼ねてね」
言われて痛みを感じた胸元を見れば、赤い痕がついている。
満足気ににこりと口角を上げたルヴァがブラウスのボタンを留めていき、彼女の身なりは元通りとなった。
恥ずかしさや驚きなどが入り混じり声を出せずにすっかり固まっているアンジェリークへ、ルヴァは更に続ける。
「釣ったお魚にはちゃんと餌をあげないと、こんなふうにお腹がすいてあなたを食べちゃいますからねー。分かりましたか?」
ルヴァはこくこくと頷くアンジェリークを抱き締めて、柔らかな金の髪へ頬を寄せた。
余談だが、今日のこの日までアンジェリークが崩し続けた可哀想な豆腐たちは、全て麻婆豆腐となってゼフェルの胃袋に収められていたという。