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甘い経験・前

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「すあま?」
 にこにこと、それこそ口にした菓子の名前のように素朴に甘い源田の笑顔。平均よりは随分と発育の良い男子中学生のなりを引っさげて、この男は存外甘いものを好んで食べる。いかがわしい言葉を耳にし、そこから恐らく好物だろう菓子の名前を真っ先に思い出すような相手に、鬼道は今から一晩熱を分け合う交渉を持ちかけるのだ。
 明日は練習が休み。
 試験もまだ先で、体調も万全。
 条件は揃っているのに、全く勝てる気がしない。
 未だ遠い「二度目」を思い、鬼道は目の前の恋人に悟られないよう、そっとため息をついた。

 急ぎすぎているという自覚はある。自分たちの年齢を考えればさほど性急に事を運ばずとも何ら問題はないだろう。更に言えば二人の関係を無理に「恋人」とする必要もなかった。同じ部活動に所属し、チームメイトとしてサッカーに勤しむ仲間。それで良かったはずだ。
 だが鬼道は源田を、仲間のうちの一人としておきたくなかったのだ。そして源田にも同様に、自分を仲間のうちの一人ではない者として見て欲しかった。
 苛烈な帝国学園サッカー部においてもなお、真っ当な育ちから来るのだろう人の良さを隠しもせず、正真正銘の実力で正GKのポジションを得続けている源田を慕う者は多い。後輩からは勿論、口だけは人の悪い様子で侮るような物言いも多い佐久間をはじめとする同学年の者も、そして「当たり年」と評される現在の二年生に若干水を開けられているような三年生からも源田は好かれている。鬼道とてそれは例外ではなかった。
 早くから大人の世界を垣間見、その中で泳ぎ切るしかなかった鬼道からすれば源田の無邪気とも言える有り様は不思議と安心できるもので、指示を受けるべく影山に呼び出された後などは決まって真っ先に源田の声を聞こうとするのが常だった。思えば、鬼道の方からの気持ちを恋と定義することはさほど不自然なことではなかったのかもしれない。
 しかし源田の方はどうだったのだろう。色恋沙汰に通じているとは到底思えない源田の、単純で誰にでも向けるようなレベルの好意にいち早く名前を付けて固めてしまうことで、自分の望む形にリードしてしまっただけなのではないか。鬼道はずっとその疑いを捨てられず、だからこそいっそ身体の快楽と自分の存在が直結するような刷り込みをしてしまいたい、と、二度目の性交渉の機会を得る事に躍起になっているのだった。お陰で最近の鬼道のPCは、こまめにネット閲覧の履歴を消去しなければとても他人に見せられたものではない、いかがわしい知識を得たり、年齢からすると許されないような、だが源田との行為には本来絶対に用意するべきだった品を手に入れたりする用途にフル稼働している有様である。

「すあまは都合良くは持ち合わせていないが……実家から送ってきた干し柿があるぞ。かばんに入れておくから明日持っていくといい」
「……明日?」
「?泊まっていくんだろう?」
 流石鬼道、ここでも顔パスだな、と笑う口ぶりがまるで以前と変わりない。鬼道が泊まる、ということになんの意味も見出してはいないのだろうその口ぶりを、どう捉えて反応したらいいのだろう。 大体闇雲に調べ上げたネットに溢れる性風俗の情報から、自分たちでも試せそうなものを片っ端から口にするのはいかな鬼道とて恥ずかしさを覚えない訳ではないのだ。それでも、誰よりも早く、誰よりも多く、源田に触りたい、源田に触られたい。
「……泊まる。泊まって、一緒に寝て……隣に聞かれたら困るようなことがしたい」
 結局のところこればかりは、策を弄したところで相手が悪い。これで解らないようなら、いよいよもっとストレートに男子中学生そのものといった言い方、つまり「お前とヤリたい」などと、それでも俺は口にするのだろうな、と自嘲にまみれて顔を上げた鬼道の目の前には、奔放にはねた髪の合間から覗く部分全てを薄赤く染めた源田が俯いていた。

「き、鬼道、その」
 意図は伝わったようだが、この赤く染まった頬には手を伸ばして良いものか、何一つ確信を持って動くことが出来ない。一度目の時のような勢いもなく、一方ではたった一度の経験が鬼道の中でどんどん大きくなって、あれこれ手を講じてみても一歩も動けない。鈍い源田に焦れているうちはまだ良かったと、無様に赤くなっているだろう自らの顔を思い鬼道は再び俯いた。
「わ、笑わないでくれるか」
「……何をだ……?滑稽さなら今の俺を上回れるものなどそうないだろう……」
「今の鬼道は、その、なにかかわいい、が」
 落ち着きなく手を上げたり降ろしたり、言葉にならないうなり声を発し続ける源田を前に、鬼道は自分を評した「かわいい」という言葉の意味について思いを巡らしはじめた。
 かわいい、という言葉を使うなら、勿論俺だって源田のことを可愛く思ってはいる。
 焦れるほど鈍いところも、物慣れない様子も、底意無く向けてくる笑顔も、自分より体格のいい、同級生の男に向ける言葉としてはおかしいかもしれないが、俺にとっての源田は確かに可愛いいきものだ。
 しかし、もしかしたら問題はそこなのか、と鬼道は思い至る。
 二度目がうまくいかないのは、源田も俺を可愛く思ってくれている、それ故なのだろうか?
 これまでに一度だけ二人の間で成立した、セックスと呼ぶことに間違いのない行為では最終的に鬼道が源田に性器を挿入する形で事が進んだ。その時の鬼道はひどく感情が波立っていて、本能の赴くまま源田を抱いた、という表現があてはまってしまうのかもしれない。何処か正気とは言えなかった鬼道に巻き込まれるように源田は行為に夢中になり、本来男性器を受け入れるような機能を持っていない箇所へ鬼道が身体を押し進めてもさしたる抵抗もなく、快感を得られているように見えた。
 だが冷静になり、もう一度、と考えてみた時、源田は立場を逆転したくなったのかもしれない。

 それが問題だというなら、事は簡単じゃないか。
 人知れずタチだネコだというような専門用語が飛び交う情報を随分と読み込んだ鬼道にしてみれば、源田の望む形がどちらだろうと頓着するところではない。むしろ源田が自分に性欲を傾けのし掛かってくる様を想像するだけで、腹の奥に疼くような感覚が生まれるのをもはや否定することは出来なかった。
「源田!」
「鬼道!これ……」
 いっそ晴れやかとすら言える声で名を呼んだ鬼道の目の前に、何時の間に取り出したものか源田は口を折り返して留めている紙袋を突きだしていた。
「その、この間練習が割合早く終わった日があっただろう。あの後電車に乗って、適当なところで降りて買ってきたんだ」
 お前がどう考えているかも解らないのにひとりで空回っているようで、もう捨ててしまおうかと思っていたんだが。
作品名:甘い経験・前 作家名:タロウ