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「FRAME」 ――邂逅録5 蒼天編

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 主任調査員は、それをよく理解している。何しろ彼が、衛宮士郎に関する報告書をまとめ上げ、既に上層部でその調査報告書は受理されているのだ。
 今さら姿を消したところで、誰も動きはしない。ただ、形式上の上辺だけの捜索が行われるだけだ。
「半月くらいで、取り下げられるだろうな」
 主任調査員は机上のマグボトルの緑茶を一口飲んで呟く。
 調査課主任調査員の自負を持って、彼はきちんと報告している。
 “衛宮士郎は、ただの人間だ”と。
 今さら受理された報告書が覆ることはない。
 バサバサと机上の資料をあさりながら、主任調査員は困ったような笑みを浮かべる。
「きっと彼女も一枚かんでいるんだな……」
 口内で呟かれた言葉は、誰にも聞き取れるものではなかった。




「あら?」
 凛はポストに入っていた封書を手に取る。
「んーと、アフリカ?」
 送り主の住所を見て、
「どこまで行くのよ……」
 と、ため息をこぼす。
 そうは言いながらもその送り主の手紙を凛は楽しみにしていたのだ。玄関を入り、歩きながら封書を開ける。
 入っているのはいつも通り、二枚の写真。
 テレビなどで見たことのあるような赤い夕陽の大地。所々に生える木の影とキリンの影がある。
 もう一枚はスナップ。
 食事中だろうか、テーブルに置かれた皿の上にはトルティーヤのようなものがいくつかある。
 まるで日常の瞬間を切り取ったような写真だ。
 セルフシャッターを設定して、カメラを置いたまま無作為に撮影を行ったような雰囲気。
 被写体になるはずの二人の顔は見えず、画面下半分はテーブル、上半分に頬杖をつく士郎の肩あたりまでと、テーブルにつく寸前だろうアーチャーの腕がフレームに入っている。
「なんだって、この写真、選んだわけ?」
 凛は呆れながら写真を裏返す。
「ああ、そゆこと」
 写真の裏には、“トルティーヤ美味しいぞ、アーチャーが作るから”と書いてある。つまり、この写真の主役はトルティーヤということだ。
「はいはい、楽しそうで何よりね。っていうか、アフリカなのに、なんだって、トルティーヤなの?」
 言いながら、戸棚から出したアルバムを開き、送られてきた写真を差し込んだ。
「ずいぶん増えたわねぇ」
 呟きながらアルバムをめくる。
 特に名所だと言われるわけでもない山の景色だったり、星空だったり、彼らの心に響いた被写体がこのアルバムの写真には切り取られている。
 そして、いつも必ず二人の写る写真が添付されているのだ、一筆とともに。
 ツーショットだったり、今回のように顔は写っていなかったり様々だが、二人とも健在だという証のような写真が送られてくる。
「明日の朝くらいに電話が入るかしらね……」
 そして、写真が届いたころに、必ず電話がかかってくる。
 それは、士郎がアーチャーと旅立ってからの決まり事だった。

 電話の音で目を覚ました凛は、眠い目を擦りながらベッドから下りた。
「なんだっていうのよ、今、何時よぉ」
 眉間に深いシワを刻んだまま凛は受話器を取った。
『遠坂!』
 寝起きには辛い大声が受話器から響く。
『遠坂、遠坂? あれ? 聞こえてるか? 電波悪い? 遠坂?』
「聞こえているわよ! なんなのよ! こんな時間に!」
『こんな時間? 晩メシ終わったとこだぞ?』
 それは、そっちの話でしょうが、とつっこむまえに、日本はまだ夜明け前だ、とアーチャーの冷静な声が聞こえる。
『よ、夜明け前? あ、ご、ごめん、遠坂……、勘違い、してた、き、切るな』
「ふざけないでよ! こんな時間に起こしておいて、切るって言うの?」
『う! ご、ごめん』
「はあ……、もういいわよ。それよりも、写真なら届いたわよ。トルティーヤ、私も食べたくなっちゃったじゃない」
『そうだろ? すっごく、美味かった』
「帰ってきたらごちそうしてよね」
『ん。わかった』
「それで今、どこなの?」
『端っこで、星見てる』
「はい?」
『喜望峰で星空ぁ!』
 士郎の明るい声が聞こえる。
 もう見えていないはずの士郎が、景色を楽しんでいるのが凛にはわかる。
「そんな端っこにいるのね」
『明日はもっと端に行くんだ。アフリカ最南端に! 海しか見えないところに!』
「そうなんだ。じゃあ、そぉんな端っこで、波にさらわれないように気をつけなさいよ」
『んな、子供じゃないって、ぇ、うわっ!』
「士郎? 士郎! 士郎?」
 凛が何度も呼ぶが返事がない。
「士郎、どうしたの! アーチャー! 返事して!」
『ああ、凛、すまない。士郎は……、躓いて、地面とキスをしている……』
「……ああ、そう、さぞ、熱烈なキスなんでしょうね。……まったく、気をつけなさいと言ったそばから!」
『ははは、ごめん、ごめん』
 復活してアーチャーから代わった士郎に、凛は、ふふ、と笑う。
「楽しそうね、士郎」
『ん。すっごく、楽しい』
「また写真、送ってね」
『ああ、わかった。悪かったな、夜中に起こして』
「いいわよ、あんたのことだもの、どこか抜けているのは昔から知っているわ」
『っう……、こ、今度は、気をつけるよ。じゃ、またな、遠坂』
「ええ、またね」
 受話器を置き、凛は伸びをする。
 時計を確認して、起きて朝を待つにしては早すぎる時間だった。
 もう一眠りくらいできるだろう、と、凛はベッドへ向かった。




「アーチャー、空、青いな」
「ああ、真っ青だ」
 大陸の最南端を端まで歩く。その先には海があるだけだ。
 濃い海の青と、それを映したような青空の下、肩を並べて歩く。
「アーチャー」
 士郎が呼ぶ。
 一眼ではなく、コンパクトなデジタルカメラを自身に向けた士郎の意図を汲んで、アーチャーはカメラの向きを調整する。
「オッケーかな?」
「ああ、こんなものだろう」
 笑う二人のショットが切り取られた。
 青い海と空をバックに、ひとつのフレームに。



「FRAME」 ――邂逅録5 蒼天編 了(2016/9/30初出)