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その髪のひとすじでさえも

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高杉の船から桂とともに飛び降りて、パラシュートで落下し、寺の広い境内に不時着した。
銀時の足が地面につく。
直後、頭上から大きなパラシュートが覆い被さってきた。
それをかきわけて外に出る。
立ちあがり、ほっと息をついた。
しかし、妙だと思った。
その理由はなにか。
あたりを見渡して、わかった。
桂がいない。
いや、いるのだろうが、姿が見えない。
まだパラシュートの下にいるのだろう。
「ヅラ」
呼びかける。
妙だ。
パラシュートに動きがない。
「ヅラ」
呼びかける。
だが、やはり反応がない。
銀時は膝を折り、パラシュートをつかむ。
力まかせにパラシュートを持ちあげて、遠くへと放った。
やっと、桂の姿があらわれた。
桂は倒れていた。
その身体のそばに行き、銀時は腰をおろした。
「ヅラ」
呼びかける。
しかし、こんな近くから呼んでいるのに、反応しない。
その長い睫毛に縁取られたまぶたは閉じられたままだ。
色白の肌が、今は、いっそう白い。
「桂……!」
襟をつかみ、押し開く。
胸に包帯が巻かれている。
その白いはずの包帯が、赤く染まっていた。



呼び鈴を押す。
一度だけではなく、冗談のように何度も押した。
しばらくして、暗かった一軒家の灯りがつき、その玄関の戸が開いた。
敷居の向こうには、桂が立っている。
不機嫌な顔をしている。
「夜中に、うるさい」
開口一番、文句を言った。
だが、銀時は気にせずに足を敷居のほうに進める。
桂は身体を退いた。
立ちふさがっていたものがなくなったので、敷居をまたいで中に入る。
「ちゃんと合鍵を渡してあるだろうが」
「持って出る余裕がなかったんだよ」
「……そういえば、なんだその格好は」
桂は銀時の身体を上から下まで眺めおろした。
無理もない。
銀時は寝間着にしている作務衣を着ていて、しかも、裸足だ。
「ああ、逃げてきたんだ」
「逃げてきた? どこから」
「新八の家だ。安静にしてろって監視されてて、ちょっとでも動いたら殺されそうになって、たまらねェから逃げてきた」
「わけがわからん」
「とにかく、あんな生活じゃ身がもたねェ。今夜はここに泊まる」
そう一方的に宣告し、式台にあがった。
足を止めずに、廊下を進む。
「そういやさァ」
横に並んだ桂に向かって言う。
「あのペンギンのお化けはどーした」
「ペンギンのお化けじゃない、エリザベスだ」
むっとした表情で桂は訂正した。
「あんなことがあった直後で申し訳ないが、エリザベスには俺の代わりにいろいろと動いてもらっているんだ」
「へえ」
銀時は軽く相づちを打つ。
そして、歩く速度を遅くする。
桂が先に進む形になった。
その背後にすっと忍び寄る。
「なんだ……!?」
うしろからつかまえられた桂が声をあげた。
それには答えず、桂の身体を倒し、さらに抱きあげる。
「銀時!」
それにも返事せず、桂を横抱きにして、廊下を歩く。
「銀時、おまえは一体なにを考えているんだ!?」
桂は怒っている。
わけがわからないのと、こんなふうに運ばれるのが嫌なのだろう。
庇護されるようなことを嫌がる。
そんなことぐらい、長年のつき合いで、よく知っている。
しかし、桂の苦情は一切無視して、どんどん進む。
寝室に入った。
畳に布団が敷かれている。
ついさっきまで桂が寝ていた形跡があった。
そこに桂をおろす。
それから、布団の近くに置かれている盆の上にあるものを手に取った。
薬袋だ。
痛み止め、と書かれている。
銀時は顔を歪めた。
「無茶ばっかりしやがって……!」
低く、うなるように言った。
作品名:その髪のひとすじでさえも 作家名:hujio