同調率99%の少女(10) - 鎮守府Aの物語
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日が落ちるのが遅い夏の時間なので19時近くになってもまだ明るい。鎮守府には那美恵たち高校生3人はもちろんのこと、五月雨たち中学生も普通に残っておしゃべりをしたり遊んでいる。(帰ったのは妙高と不知火の二人だけである)
夏休みが目前に迫っているこの時期、鎮守府は学生の立場の艦娘たちの一種のたまり場にもなる。気の置けない者同士が集まっていれば時間など気にせず遊び続ける。国の組織に関わっているという意識は、防衛や戦闘という要素からは一般的には一番遠いであろう立場の女子中学生・女子高生にとって誇らしく、遅くまで外にいても堂々と振る舞えるといういわば箔・免罪符となるのだ。
ただ時間は間違いなく夕方〜夜が迫ってきているため、提督や成人の艦娘は未成年の少女たちの責任者として彼女らを安全に退館させなければならない。残っている大人は提督と明石、そして明石の会社の技術者2〜3人である。
那美恵と流留は幸の身体測定を終わらせ、幸を執務室に連れて行き書類記入のフォローをした。那美恵のフォローは的確で幸にとって十分すぎるため、途中で流留はやることがなくなり暇を持て余し始めた。せっかくなので提督と雑談をするために提督の席へと近づいていく。
「ねぇ西脇提督。提督は何が好き?」
「へ?なんだい突然。」提督はPCから顔をあげて流留を見た。
「いやさ、ゲームでも漫画でもなんでもいいんだけど。」
「あぁ。そういうことか。って言っても内田さんみたいな女子高生にわかるかな?」
そう言って口火を切って話し始めた二人。提督は目の前にいた女子高生から繰り出される話題が、かなりモロどんぴしゃな趣味なので釣られてベラベラしゃべり始める。途中でやりすぎた!?と思い流留の顔色を伺うが、彼女がその内容についていくことができているのに驚いた。世代が違うため流留がわからないネタもあったが、彼女はおおよそ理解できていた。
流留はというと、提督から繰り出された話題のポイントをつくネタを返したことにより、提督をノリに乗らせて大きく喜ばせる。提督が我に返ってふと時計を見ると12〜3分少々熱中して話し込んでいるのに気がついた。
流留は最初は提督の席の向かいに立っていたが、ネタを交わすたびに近づいていき、最終的には提督の座席の隣、デスクの左のスペースに片手で体重をかけてよりかかっていた。つまり提督の横に急接近していた。
「ちょーーとぉ!!お二人さん!何密着して話してるのさぁ!?」
「うわあぁ!!」
「きゃっ!」
そんな二人をジト目で睨みながら二人の間に顔をグイッと割り込ませたのは那美恵だった。そうっと背後から近づいて二人がいつ気づくか黙っていたが、まったく気づく様子を見せないのに業を煮やして後ろから大声で叫んだのだ。
提督も流留も一気に汗をかいてバクバクしている心臓を抑えつつ背後を振り返り那美恵を見る。
「な、なんだよ光主さん。」
「なんだよじゃなーい! こちとら作業終わったのに何二人しておしゃべりに熱中してるのさ!」
「ははっ、ゴメンゴメン。」
「もう!さっちゃんから早く書類受け取ってよ。」
「はいはい。わかったよ。」
提督が正面に向きを戻すと、幸がじっと提督の方を見て立っていた。
「あの……もしかして、さっきからずっと立ってた?」
「はい。」
幸はコクリと頷いて返事をする。提督は気まずそうにコホンと咳払いをしてから幸が手に持っていた書類を受け取った。
ざっと読んで内容を確認する提督。ところどころで頷く。そして顔を上げて幸を見た。読んでいる最中に那美恵も流留も幸の隣に戻っている。
「よし。問題ない。これは提出しておきます。後日艦娘の証明証が届くからそれを着任式の時に渡します。それと、うちの鎮守府としては着任証明書というのを渡してこの2つをもって、正式に鎮守府Aへの着任とします。あと二人には制服が届くから、それが届いたら試着してもらいたいのでその時また来てください。それまでは光主さんに付き添いという形であれば鎮守府に自由に出入りもらってかまいません。まぁ夏休みも近いだろうし、よければ五月雨たち中学生と仲良く付き合ってあげてください。」
「「はい。」」
3人の返事を聞いたところで提督は両手を叩いて終了を合図した。
「今日の用事はここまで。3人共ご苦労様。」
「ふぃ〜何事もなく終わったね〜。」
那美恵はぐっと背筋を伸ばして疲れたという意思表示をした。幸も動きは小さいながらも同じように背筋を伸ばし、緊張し続けて硬くなっていた身体をほぐす。
流留は真面目な話は終わりとわかった途端に再び提督の側に行き、さきほどの雑談の続きをしようとする。
3人が思い思いの行動をし始めてしばらくすると、提督が一つ提案をした。
「3人とも。このあと用事はあるかな?」
「え?あたしはないよ。」
「あたしも特には。」
「……私も、ないです。」
「そうかよかった。神先さんも加わって光主さんの高校との艦娘の提携もなったということでさ。ささやかながら食事を御馳走したいんだ。いいかな?」
「えー!?提督ふとっぱらぁ〜」と那美恵。
「マジですか!?ラッキー!」
「え、えと…あの、よろしいんですか?」
流留と幸も同様に喜びを交えて驚く。
「いいのいいの。おじさんに大人しく奢られなさい。」
「自分でおじさんって言っちゃってるしw」
那美恵がそういうと、幸は苦笑しつつも提督の奢り発言に喜びを見せる。流留はもっと正直に喜びを見せた。
「おじさんっていうよりお兄さんで素敵だよ提督!じゃあ早く行きましょうよ!ねぇねぇ!」
流留はすぐ隣りにいた提督の腕をがしりと両腕で組んで激しくボディタッチをする。提督は腕に当たる流留の双丘の膨らみを感じてしまい、たまらんという状態で鼻の下が伸びかけたがさすがに分をわきまえ、シャキッとするべく背筋を伸ばしながら流留をなだめる。チクチクと那美恵からの鋭い視線があたっていたが、あえて無視した。
「まぁまぁ。まだ五月雨たち中学生組も残ってるし、まだ俺出られないからもうちょっと待ってくれ。」
「だったらさ、五月雨ちゃんたちも一緒に連れてったら? 3人におごるのも3+4人に奢るのも社会人なら大して変わらないよね〜? どぉどぉ?」
ある種悪魔の囁きのような提案をする那美恵。提督としては金銭的な問題は確かにないので話に乗ってもいいが、かなり年下の娘7人を引き連れて食べに行くなどそこまで肝が座っているわけではないので少し尻込みをした。この際仕方ないとして、大人代表追加として明石を誘うことにした。
明石は飲みに行くと高確率でハメをはずしてエンドレスにしゃべり続ける。趣味ネタが似通っている提督でも飲みの席後半ではおっつけなくなるほどだ。しかし今日は飲ませず、学生たちの付き添いとするから大丈夫だろうと提督は踏む。
「それじゃあ、俺だけだとちょっとなんだから、明石さんも誘っておこう。」
「おぉ!?今日の提督なんかすんげーふとっぱら!見違えたよ!」
早速提督はその旨を待機室でおしゃべりしている五月雨と工廠にいる明石それぞれに内線で伝えた。すると五月雨たちも明石も多少驚きを見せたがすぐにその誘いに乗ることにした。
作品名:同調率99%の少女(10) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis