同調率99%の少女(10) - 鎮守府Aの物語
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出撃メンバーで唯一残った妙高は提督に何かこのあと手伝うことはないかと確認したが、提督は彼女も疲れているであろうこと、それから主婦であるためこれから家事もあるだろうからと下がらせることにした。
「それでは申し訳ございませんが、お先に失礼致します。」
「お疲れ様。」
妙高は提督らその場にいた面々に上がる旨の挨拶を言い会釈して本館へと戻っていった。提督は妙高に家事もあるからと言っていたのを耳にし、那美恵はすかさず聞いてみた。
「ねぇ提督。妙高さんって、家事やってるって……もしかして結婚してるの?」
「あぁ。そうだよ。」
「えっ!?提督の……奥さん?」
那美恵の発言にその場にいた全員が凍りついた。提督も凍りついたがすぐにブルブルと頭を振ってそれを否定する。
「いやいや!俺が妙高さんと結婚してるわけじゃないぞ! 妙高さんが、一般男性と結婚してるってだけだぞ。 って同じ一般人なのにそういうふうに言うのも変だがとにかく。妙高こと黒崎妙子さんは、近所に住む主婦なんだ。もともと鎮守府A開設時に近所だからと何かと世話焼いてくれてさ、せっかくだから艦娘試してみませんかって妙高を受けてもらったら高成績で合格したから、それ以後縁あって交流があるんだ。」
「へぇ〜ご近所さんだったんだぁ。まぁ、提督が結婚してたらおかしいもんね〜。」
「おい…さりげなくひどいぞ。俺だって……まぁいいや。ツッコむのは疲れるわ。」
「ぶー!かまえー!」
「おいおい、後輩がいる前だぞ?」
提督の腹に向けて至極軽いパンチを当てて不満をぶつける那美恵。そんな彼女に対し提督は彼女の後ろにいた流留たちを出汁に諌めようとする。
「あたしはいつだって正直に生きてるんですー!流留ちゃんたちがいようがいまいが提督にかまってほしいときもあるんですよ〜だ。」
そんな那美恵のおそらく素であろう態度を見た流留は呆れるどころか、逆の態度を取り始めた。
「なみえさんはいいなぁ〜。提督。あたしとも後で遊んでくださーい。」
「へっ?内田さん!? あ、あぁ〜。うん。後でね。」
流留のお願いには少し表情と態度を変えて苦笑しつつもOKを出す提督。それを見た那美恵は提督をギロッと睨み、自分の場合と全然態度が違うことに腹を立て、スローな口調で提督に言い放つった。
「あたしのときと接し方違くない?」
「違わない違わない。ほら、神先さんが呆れてるぞ。もっとしゃんとしなさい。」
「「はーい。」」
那美恵と流留は同じような間の伸びた返事で提督に返した。事実、幸はほとんど初対面な3人のやりとりをポカーンと見ていた。
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工廠内に戻って準備をしていた明石が再び姿を表したので、那美恵たちは気を取り直して幸の同調の試験を開始することにした。幸の艤装の装備は那美恵がメインで手伝い、流留は艤装を運ぶのを手伝った。そうして幸は、神通の艤装をフル装備した形になった。
「どう?さっちゃん。艤装をすべて装備した感想は?」那美恵が聞いてみる。
「え……と。あの、腰のあたりが重いです。」
「アハハ。川内型の艤装は腰回りに機器が集中しちゃうからね〜。でも大丈夫。同調しちゃえばまったく問題なくなるから。」
「……はい。」
幸が腰回りを重そうにフラフラしているのを流留が支え、那美恵が明石の方を向いて合図をした。
「それじゃあ神先さん。私達の準備は整いましたので、いつでも同調始めてかまいませんよ。」
明石のその言葉を受け、那美恵と流留が見守る中、幸は目を閉じて静かに同調をし始めた。
先日と似た感覚が全身を包み込む。今日はあらゆる用事を済ませておいたので何が起きても大丈夫と幸は思い込んでいたがやはり不安は残っていた。しかしとにかく同調を始めなければ進まないとして覚悟を決める。
ほどなくして節々がギシリと痛み、すぐに消える。それだけだった。思い出すだけでも逃げ出したくなるような先日の恥ずかしい感覚・催しは一切感じることなく、全身の感覚が人間のものとは違う感覚に切り替わったのがわかった。
幸本人のその把握と同時に、明石が口を開いて結果を発表する。
「神先さんの神通の艤装との同調率、87.15%です。」
「おめでとう、神先さん。これであなたも正式にうちの鎮守府の艦娘です。」
提督が幸をまっすぐ見ながらやや大きめの声で伝えた。
ついに認められた3人目の艦娘、神通。幸は那美恵と流留から拍手を送られ顔を真赤にして恥ずかしがったが、それは今まで生きてきた中で負い目引け目を感じての恥ずかしさではない、一番気持ちが良い恥ずかしさだった。
幸は弱々しい声ながらもその場にいた皆に一言の簡単な感謝の言葉を述べた。それを聞いた那美恵は満面の笑みを浮かべ、流留はやっと初めて感情を出したかと、少し呆れ混じりの表情でやはり満面に近い笑みを浮かべている。提督と明石は頷いてその様子を見ていた。
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「よかったね、さっちゃん。これであなたも正式に艦娘だよ!これでうちの高校から、代表であたしたち3人が艦娘なんだよ。すごくない!?」
「……は、はい。」
「なみえさん!あたしもその気持ちわかりますよ。これであたしたち、世のため人のために戦うヒロインなんですよね!?」
「アハハ。そういえばそうだよね〜。」
たどたどしくひそやかな声で同意する幸と、熱く思いを打ち明ける流留。まったく異なる二人の反応だが、どちらも艦娘になれることを喜ぶ思いは等しい。
「なんかカッコいい名乗りとか考えません?」
「アハハ。まーそれは今後ゆっくり考えるとして、まずは二人の着任式。そうだよね、提督?」
流留と幸と喜びを分かち合いつつ、次なる作業へと思考を切り替える那美恵。それを提督に確認すると提督は頷いて答えた。
「あぁ。内田さんの川内の着任式をやろうと思ってたけど、タイミングがいいね。神先さんと合わせてやろう。内田さんと神先さんの着任式は同時だ。」
着任式と聞いて、幸はよくわからず?な表情を浮かべる。そして那美恵を見る。その視線にすぐに気づいた那美恵は流留の時と同じように着任式について幸に説明をした。提督も補足説明し、続いて今後のスケジュールについて3人に伝える。
「それじゃあ神先さんには書類に必要事項を記入してもらうから、後で執務室に来てください。」
「……はい。」
「でその前に、光主さんと内田さんは、神先さんの身体測定をしてあげてください。器具は1階の倉庫に閉まってあるから。適当な部屋開けていいからそこでね。」
「提督ぅ。どうせならいっs
「それは、なしの方向で。」
「ちっ。先手を打たれたわ。」
いいかげん提督は那美恵の言わんとすること、茶化しの仕方がわかってきていたので素早く返すことにした。
作品名:同調率99%の少女(10) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis