落・乱裏話集【記念作品】
②没原稿 『うそついてごめんね』編
2ページ目終わりから
学園長が食堂のおばちゃんと一緒に廊下を歩いていた。
「あら?学園長先生、あれ一年は組の学級委員長の庄左ヱ門くんじゃないかしら。
「むむ?そうじゃのう。
二人が歩いていた廊下から庄左ヱ門が歩いている場所はそう遠くはなく、人を判別できる距離だった。
その上庄左ヱ門は忍術学園の制服に着替えていない為学園内では相当目立つ状態であった。
だがその庄左ヱ門はというと、こちらに気付いていない様子。
庄左ヱ門であれば学園長達の存在に気付いてもいいはずなのだが。
「何だか元気がないわね。休みの間に何かあったのかしら?
忍者のたまごともあろう者が目立つ格好をしたままでいるのは教師として注意せねばならないことだが、元気のない生徒にいきなり注意をするのは却って良くないと思った。
「庄左ヱ門のことじゃ。または組のことで悩んでおるのじゃろうて。
「そうかねえ。私はそうじゃないと思いますけど。
「…?
学園最強といわれ(一部に)畏れられている食堂のおばちゃんだが、食事を摂る忍たま達を一人一人しっかり見ているのだ。
食堂に来る時間や注文するメニュー、一緒に食事する相手、食べている時間、食器の返し方まであらゆるものを見ている。
そこから忍たま達の微妙な心の変化を読み取っている為、忍たま達の悩みは食堂のおばちゃんにお見通しなのだ。
「それより学園長先生、学級委員長委員会に何か用事があったんじゃありませんか?
「おお!そうじゃった。庄左ヱ門、しょーざえもーん!
学園長が庭の庄左ヱ門に向かって声を張って叫ぶが、とぼとぼと庄左ヱ門は通り過ぎてしまいそうだった。
「はあ~、だめじゃ。
「ここは私の出番のようね。
学園長の隣で食堂のおばちゃんは優しく微笑んだ。
が、次の瞬間には(どこから取り出したのか)右手にしゃもじを握り締め、目を鋭く吊り上げていた。
そして深く息を吸い…
「お残しは許しまへんでー!!!
「うわ!
おばちゃんの決まり文句が炸裂すると、忍術学園中が震え上がりその声は裏山まで響いた。
庄左ヱ門も漸く学園長達の存在に気付き、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「学園長先生!
「庄左ヱ門くん、おはよう。
「食堂のおばちゃん、おはようございます!
「庄左ヱ門。わしがさっき呼んだのに気付かなかったのか?
「え?…あ、そうでしたか?
珍しく動揺を見せる庄左ヱ門を見て、学園長もこれは悩みがいつものは組のことではないなとわかった。
冷静な彼がここまで悩むほどのこととなると、しばらく様子を見た方がよさそうだ。
「ふむ。庄左ヱ門に気配を悟られなかったとなると、わしもまだまだ衰えていないわい。ぶおっほっほ!
「学園長先生ってば…。
「はぁ…。ところで学園長先生、部屋に来いとのことでしたがご用件は何でしょうか?
庄左ヱ門の言葉に、学園長と食堂のおばちゃんは顔を見合わせた。
悩んでいる様子だった庄左ヱ門の表情が、元の落ち着いたものに戻っていたからだ。
「おお、実はの、新学期の裏々山マラソンのことでな……。
学級委員長の仕事を指示する学園長に対する庄左ヱ門は、いつもと変わらない。
彼は根っからの学級委員長だ。
仕事となれば自分のことには疎くなる、または自分の感情を押し殺せるのを食堂のおばちゃんは知っていた。
(明日は、庄左ヱ門くんにおいしい朝ごはん作らなきゃだね。
そして何で悩んでいるか聞いてあげよう。
3ページ目へ
6ページ目終わりから
「お残しは許しまへんでー!
忍術学園の食堂にいつもの賑わいとおいしそうな匂いと食堂のおばちゃんの声がする。
忍たま達が次々に食堂へやってきては食事を選び席に着いて朝食を摂る。
いつもと変わらない朝食の時間だが、食堂のおばちゃんはある生徒がまだ来ていないことに少々不安になっていた。
生徒の数が少しずつ減っていった頃、
「食堂のおばちゃん!
井桁模様の描かれた制服を着た一年生が食堂に飛び込んできた。
「おはよう。…あら?
「おはようございます!
「おはようございまーす!
その一年生は食堂のおばちゃんが探していた人物だった。
元気がなく悩んでいたから、彼には特別なおかずを用意していた。
しかし、今おばちゃんの目の前にいるのは
何の曇りもない、元気いっぱいの一年生、
黒木庄左ヱ門と
加藤団蔵と
二郭伊助だった。
(どうやら、悩みは解決したみたいだね。
「みんな、今日からしっかり勉強がんばるんだよ。
「「「はい。
「これは、私からのサービス。
「わあ、ありがとうございます!
「おばちゃん、ありがとう!
「どういたしまして。
7ページ目へ
作品名:落・乱裏話集【記念作品】 作家名:KeI