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ラスト・キル

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ラスト・キル




「・・・輝二・・・好きだよ・・・」
世界が崩壊する前日、何の前ふりもなく輝一はそう言ってすがるように抱きついてきた。
二人きりのとき、輝一はいつもそうだった。
ただ、いつもと違ったのは、満身の笑み。

何故か、輝一が泣いているような・・・・
気がした。

今思えばおそらく輝一なりの覚悟の表れだったのかもしれない。






































「元の世界に帰ってもきっとみんなには会えない。・・・・俺は多分・・・・もう・・・・・」
俺たちを庇い、ルーチェモンが繰り出した光と闇を掛け合わせた球状の魔方陣に捕われたレーベモン・・・・・いや、輝一は確かにそう言った。
“みんなには会えない”
嫌な予感が体中を走った。
「・・・まさか・・・・!」
もう・・・すでに死んでいる・・・?
魂だけの存在だったのは肉体がもうすでに失われているから・・・?
確かに触れることができたのに・・・?
わけがわからないままなのに、魔方陣はいとも簡単に輝一を壊した。残ったのは二つの闇のスピリットと・・・
輝く、あいつの身体だけだった。

「・・・・・。」
おそらく、本来の姿。
ふわりと舞い降りてくる輝一は天使のように思えた。翼があるように・・・俺には見えた。
「輝二・・・俺のスピリット・・・受け取ってくれ!」
言葉に導かれるように闇のスピリットは俺に中へと入っていく。デジバイスではなく、俺自身の中に。
「輝一!」
「俺・・・この世界に来て・・・よかった・・・・」
輝一の身体にノイズが走り始める。消えて・・・しまう。そう思っても、手を差し伸べたいと思っても、身体は動いてはくれない。
「お前に会えて・・・よかった・・・・」
少し前に俺が輝一に言った言葉とほぼ同じだった。あの時、あいつがさびしそうに笑っていた理由・・・今なら分かる。
“もう会えない”
この言葉が全てを物語っている。

魂は、ルーチェモンによってデータへと書き換えられ、奪われる。
「っ輝一!!・・・・・うっ・・・・・」
もう、わけが分からない。魂なのに触れることができたこと、輝一が死んでいるかもしれないこと、光と闇をひとつにしなければならないこと。考えられる限界を超えた、その量のおかげで。
教えてほしくて、名前を呼ぶが、身体の中で何かが暴れだしていた。
「うあぁ・・・・・・・・・っっっ」
強烈な痛みに叫びしか出てこない。おそらくこれは、光と闇の反発現象。
光と闇は表裏一体。つまり、ひとつになることはないのだから。

意識が飛ぶ・・・
身体は叫びを上げ続けていても、意識だけ飛ぶ。
周りの音も、声も、徐々に聞こえなくなってゆく・・・。














・・・・・・止まった世界。
気づけばそこに立っていた。
痛みも身体の中で何かが暴れる感覚もなかった。
あるのは意識と五感。それだけ。
「・・・・・・」
世界は光に満ちた大地と闇に満ちた空にと、くっきり別れていた。地平線のようなものが見える。
ここはどこか?
覚えはない。

「・・・・・こう・・・・・じ・・・・・」
そんな時、ふと耳に届いた近しい声。俺の名を繰り返し呼ぶのは紛れもなく輝一の声。
「!輝一・・・・・・?!」
だが、そんなはずはない。間違いなく輝一は目の前で魂をルーチェモンにロード・・・されたのだから。
おそらくこれは、輝一が消えたことに納得いっていないことから生じた、幻聴だ。
気のせいだと言い聞かせるために、頭を振り、ここが何処であるか確かめるべく、正面を見、睨んだ。
しかし・・・
「・・・・こう・・・じ・・・輝二・・・・」
声は一向に止まらない。むしろ、徐々に透って聞こえやすくなってくる。
ズキりと痛む何か。
無意識におさえたのは胸。
・・・そうか、痛いのはそこか。
意識の端で妙に冷静な自分が呟く。それとは裏腹に意識の中心は声と痛みに奪われる。
声が聞こえるたび痛みは鋭く強くなり、おさえる手にも力がこもる。

”声”によって、輝一を思い出すたびに苦しさが増す。
輝一はいつも本気で笑ってはいなかった。どこかで、苦しんでいた。影を落としていた。
”何か”は分からないが、”何か”を苦しんでいたのは分かっていた。

痛い・・・。
声が響くたび、何もしてやれなかった傷を剣がえぐる。
後悔をえぐる。

苦しい・・・。
声が響くほどにアイツの温もりを思い出す、触れていたその身体を思い出す。
もう二度と感じることができないのだろうか?
思えば、想うほど、苦しくなる。

・・・
痛み、苦しみの中で気がつけば、頬に伝う熱いモノ。

・・・涙・・・・・か。

何度流すことを抑えただろう。
涙を見せてはいけない、一人で平気なのだから流す必要はない、そう思い抑えてきた涙。

その涙を抑えなくていいと言ってくれたのは誰だったか。
泣きたい時は思い切り泣けばいい。
そう言ってくれたのは・・・・。
誰だったか。
泣きたい時は傍にいてやると、言ってくれたのは?
輝一だった。

お前が傍にいないときはどうすればいいんだ?
お前がいないから苦しい痛みはどうすればいいんだ・・・?
どうすれば・・・・っ・・・・・。

うずくまったまま、俺は痛みと苦しみに侵されながら泣き続けた。
無意味だと知りつつも泣くことを続けた。



「・・・こういち・・・・兄さん・・・・・」
誰に語るでもなく嗚咽混じりに呟いた一言がまた涙を呼んだ。

もういないんだ。
どこにも、どこにもいないんだ。

「・・・・輝二!泣かないで!」
これは幻聴なんだ。
だから・・・だから・・・・。
もう響かないでくれ・・・・。
「輝二!!」
声は近い。すぐそこにいるように聞こえる。
いるはずはないのに・・・・・。
「・・・・・・・。」
「輝二、顔を上げて輝二!!」
ふいに頬に触れる確かな温もり。誰かが両手で顔を無理やり上げさせる感覚。
向いた目の前には・・。
「兄・・・・さん・・!」
輝一がいた。
幻聴ではなかった。
確かに今、目の前に輝一がいる。
ただし、魂だけの姿になって。幻のように輝いて。
「・・・輝二・・・独りで泣くなよ・・・・」
そう言って、どこか痛そうに顔を歪めながら俺の目尻からあふれる涙を親指で掬い取る。
紫色に輝く輝一の背中には大きく宙に広がる翼。
「・・・だって・・・お前が・・・お前は・・・・っ」
“もういない”んだろう?
魂だけの存在になっていたのだろう?
確かに目の前でロードされ、消えてしまうのを見たのだから。
ここにいるはずがない。
もう触れることはできない。

そのはずなんだろう?

だから痛む。
触れていたぬくもりがまた消え、手の届かない所へ離れてしまったから。

「・・・そう・・・・だったね・・・・でも・・・・・。」
輝一は俺の手をとり、自分の頬にあててみせる。手のひらで感じた温度は変わっていなかった。
「・・・でも、ここに俺はいるんだ」
その瞳はまっすぐに俺を見ている。何故かその視線が痛く感じられ、目が泳ぐ。
「・・・どうして・・・?」
ゆっくりと輝一は手を離す。
「・・・輝二の身体に入った闇のスピリットの中に、俺の心の欠片が残っていたんだ。」
作品名:ラスト・キル 作家名:キッカ