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白妙の宙

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白妙の宙





 気がつくと、目の前は真っ暗で、体はこれ以上ないくらい重たかった。
 重い身体を引きずるように、起き上がる。かなり時間がかかったが。
 目の前は光を失ったような闇。何も見えることはないはずだった。だけど、そこにあるものは、はっきりと見ることができら。。
 そう・・・棒状の太い金属が俺を囲むように立っていたのだ。上を仰げば、これが鳥篭だということが分かった。大きさの割りに、小さな子供でも通り抜けることができないくらい密集して、腕が通るのがぎりぎりのライン。
 ジャラ・・・。
 それにしても、この耳に障る金属音はなんだろうか?
 自分の身体を動かすたびに鳴っているようだ。
 もしかして・・・と、自分の身体を見るために目線を落としてみた。
 ああ、体が重かったのはこのせいだったんだ。
 手首、足首を輪状の枷が、右と左それぞれ手錠のようにつけられ、それを細い、30センチくらいの鎖がつないでいた。そして極め付けが、体中に絡んだ太く長い金属製の鎖。
 
 ・・・・それよりも、どうして自分はここにいるのだろうか?
 来たことも見たこともないこの、闇の鳥篭に。

 確か、野宿のときの槙拾いか何かを輝二と一緒にしていて、それで・・・。
 ・・・・崖から落ちたんだ。それも相当な高さの。
 だったら、どうしてこんなところに?どうして鎖が俺を束縛している?
 考えても、考えても答えは見つからなかった。時間の感覚がまるでないから、どのくらい考えていたのか分からないけれど。
 ふと、籠の外に見えた人影。何かと思い、目を凝らしてみてみると・・。知っている人物がそこにいた。
 「輝二・・・?!」
 表情はよく見えなかったけど、バンダナと、長く無造作に結った髪が見えたので分かった。
 闇の鳥かごの中、鎖と枷を引きずり籠の端まで移動する。動いている間も嫌なくらいに金属音が空間内に響く。
 「輝二、ねぇ、ここ、どこだろう?それに、この鎖・・・・」
 「・・・お前・・・」
 言葉を途中で遮断した輝二の声。紛れもなく、弟の声。だけど、遮断した声に少し驚いて、彼の表情を見上げてみると・・・。
 「誰だ?」
 冷たかった。
 まるで・・・
 いや、まさに接点も何もない愚かな囚人を見るように蔑んだ瞳。
 「輝二、俺だ。輝一だ・・」
 無意識に鎖が絡まった腕を金属棒の間に滑り込ませ、輝二に向かって手を伸ばせるだけ伸ばした。
 もう少しで触れることができる・・・その時、輝二は一歩、二歩と汚いものを避ける要領で後退った。
 「触るな!」
 びくりと手が止まり、微かに震える。行き場のなくなった手を俺は金属音を鳴らしながら自分の手元へとすぐさま戻す。
 「俺は他人に触られるのが嫌いなんだ」
 そう、冷たく輝二は言い放った。
 他人に触れられることが嫌い。それは拓也から聞いたことだった。拓也たちがデジタルワールドで始めて輝二とあったとき、そう言い放って一人でどこかに行ったという。でも、俺が会ったときにはそんなことは・・・なかった。
 そんなことは、どうでもいいんだ。何よりも心の中に響いてきたのは、「他人」という響き。
 もしかして本当に俺のことを知らない?
 そんなことはないはずだ。だってさっきまで一緒にいたじゃないか。
 「・・・・輝二・・・俺だ・・輝一だよ。分からないのか・・・?」
 声が恐れで震える。
 「こう・・・いち・・・?ああ、いきなり自分は俺の兄だってほざいたあいつか。」
 そんなやつもいたな・・と、輝二は笑った。
 笑うといっても、嘲るようなニュアンスを含む乾ききった、鼻で笑う行為。
 「・・・!」
 どうもその様子が嘘のようには見えなくて、何も言えなくなってしまった。
 本当に・・・俺のことを他人のように思っている?いや、ようにじゃない。他人そのものに思っている?!
 そんなことは・・・ないはず・・・。
 だって・・・だって・・・!
 「ずいぶんと気持ち悪いことをしてくれたっけか・・。いくら生き別れの双子の弟だからって、普通家まで調べてストーキングするか?犯罪だろ?犯罪。」
 輝二の冷たい目に耐えられなくて目を顔を上げることができない。
 ・・・・怖い。
 「そ・・・それは・・・なかなか・・・はなせな・・」
 「言い訳なんて聞きたくないな。見苦しい。」
 「・・・・・っ・・・・」
 確かに、俺はそういう罪を犯した。軽いか重いじゃない。確かにひっそりと後をつけていたんだ・・。気づいてほしいなんていう、理不尽な願いを持ちながら・・・。
 「それに・・・俺に会ってどうするつもりだったんだ?兄弟だから、これから仲良くしよう・・・ってか?赤の他人だったのにいきなり?親に気づかれたら離れてしまうのに?離されてしまうかもしれないのにか・・・?」
 声は淡々と述べる。
 そう、俺がしたかったのは、望んでいたのはそれだった。双子の兄弟がどんなやつか知りたくて、会ったら話がしたくて、それから・・・友達のように時々会おうって・・・そう思ってた。
 「親に気づかれても・・・離れることは、ないよ!」
 そう、気づかれようとも、俺たちの行動を邪魔することなんて・・・・母さんだって、きっと喜んでくれるはずなんだ。
 「・・・お前に・・・分かるものか」
 表情は怖くて見ることができなかったが、声色はさっきよりも重みを増し、強さも増す。
 「・・・。」
 「そばにあったものが、他人になる瞬間、離れて、届かない場所にいってしまう怖さ・・・お前に分かるはずがないだろ・・・」
 「・・・・・」
 「あればあるほど・・・失う反動は大きい・・・」
 「そんな・・・失うと決まったわけじゃ・・・・」
 「お前には分からない」
 「・・・・」
 「分かる・・・・ものか・・・お前は、そこで、一生自分の犯した罪でも償ってろ」
 何も言葉は出なかったけど、目は上へと上がり、輝二の表情を見ることができた。
 笑っていた。
 にやりと。
 
 そうだ、俺は闇に堕ちるほどの罪を犯したんだ・・・。だから、本当は、会ってはいけなかったんだ。
 「ふん・・・」
 反論できずにいる俺がどうでもよくなったのか、鼻で笑いながら、輝二は俺の前から姿を消した。

 そう、俺は罪人。
 闇に堕ちた憎しみを抱いてしまった者の末路を歩む。
 殺そうとまで思ったことの。
 彼の何かを壊してしまったことの。
 過ちを償うために、きっと俺はここにいるんだ・・・。
 
 この、鎖も、手錠も、足枷も。
 罪人の証、償うための証。
 鳥篭は逃げぬように、誰にもすがることの無いように、俺を監禁しているんだ。
 ここは、俺の牢獄。
 ずっとここにいなくちゃいけない。
 ずっと、ずっと、そう・・・終わるまで。
 俺が・・・終わるまで。

 じゃり・・・と鎖が動く俺の動きにあわせて音を立てる。
 よく聞くと、とても綺麗な音色をしているじゃないか。

 この手錠だって、赤紫色に錆付いてて、とても綺麗。
 
 思って、手錠を見つめた。
 ふと、空間が揺らぐ。
 手錠を中心に波紋が広がり、徐々に揺らぎが激しくなる。
 そして世界は、景色は変化した。重たい鎖の感覚も今はまるで無かった。
 
作品名:白妙の宙 作家名:キッカ