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LIFE 12 ―School Festival―

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LIFE! 12 ――School Festival――


「アーチャー、明日からさ、当番変わってもらってもいいか?」
 日曜の夜、夕飯の片付けも終わり、お茶を飲んで一服していたところに、士郎が申し出た。
 当番とは炊事の当番だ。オレたちは特に理由がなければ日替わりで食事を作ることにしている。その当番を代わってほしいと士郎は言う。
「かまわないが、どうした急に?」
「明日から学園祭の準備で遅くなるから……、夕飯に、間に合わなく、なる……から……」
 申し訳なさそうに伺いを立てる士郎に頷くと、
「それで、夕飯を、全部任せることになって、しまって……、だから、朝は俺がやる、ってことにしてほしい……んだけど……」
 たどたどしくそう続けた。
 夕飯を任されることはいたって問題はない。だが、やはり少し引っかかった。
 遅くなるということは、この家にいる時間が少ないということだ。平日ならば夕方からは、ともに過ごしている。その時間が減る、というのは、少し寂しいと思う。
「遅くなる、とは、どのくらいだ?」
「ああ、えっと、そんなに遅くまで学校にはいられないから……、たぶん、家に着くのは八時くらいになる、バイト帰りくらいの時間なんだけど。そんな時間に帰ってきたんじゃ夕飯が遅くなっちゃうだろ? 遠坂たちも来るだろうし……。だから、悪いんだけど、学祭が終わるまで、一ヶ月くらいお願いしたい」
「凛は遅くならないのか?」
「クラスによってやることも違うし、担当することでも違うだろうからわからないけど、学園祭の直前は遠坂も忙しくなるとは思う」
「そうか。まあ、夕飯のことはかまわないが、できるだけ早く帰るようにしてくれよ。片付かないからな」
「はいはい、了解しました」
 士郎には高校生という限られた時間を満喫してほしいとは思う。が、自分をないがしろにされているような気がして、面白くない。
 だが、ここは、我を通すべきところではないとわかっている。士郎にはきちんと学生生活を全うしてほしい。
(仕方がないことだ。ほんの一か月の我慢だ……)
 自分に言い聞かせ、こぼれそうになるため息を飲み込んだ。


「ねえ、士郎はまだ帰らないの?」
「遅くなると聞いている。学園祭の準備だと」
「ふーん。まあ、士郎の性格だと、やらなくていいことまでやっちゃってるんだろうけど」
「やはり、そうか」
「予想通りだった?」
「まあな」
 凛も予想していたのだろう、普段からして学校で便利屋みたいなことを率先してやっている士郎が、こんなイベントごとに駆り出されないわけがない、と。
 士郎が遅くなると言ってから一週間。
 土曜日も学校に遅くまでいて頼まれごとを片付ける士郎は、連日クタクタで、日曜日はほとんど使い物にならない。
「あそこまでやることも、ないと思うのだが……」
「そう思うんなら、注意しなさいよ」
 凛がお茶をすすりながら、目を据わらせる。
「アーチャー、シロウは、大丈夫なのですか?」
 セイバーが心配そうな顔をして訊いてくるが、大丈夫だとしか答えようがない。
「ところで、凛は準備に出なくていいのか?」
「ええ。力仕事は男子がやっているし、私たちは前日にお菓子を焼くだけだから、いいのよ」
 士郎が言っていた、クラスによって違うという意味がわかった。
(ああ、いや、士郎はおそらく自分のクラス以外の手伝いに奔走しているのだろう……)
 少し、自分のマスターの不器用さに同情を隠せなかった。


 学園祭を翌日に控えた夜。八時を過ぎても士郎は戻らない。
 凛とセイバーはとっくに夕食を終え、お茶を飲んで一服している。士郎の分の夕食にラップをかけ、カウンターに置き、時計を確認した。長針が真下をさしている。
「凛、そろそろ帰らないと、遅くなるぞ」
 言いながら居間へ入ると、凛はこちらに目を向け、なぜか大きくため息をついた。
「アーチャー、そんな顔するくらいなら、素直になんなさい」
 凛の言う意味がわからず、首を捻る。
 そんな顔、とは、どんな顔だ?
「士郎にちゃんと言いなさい、って言ってるのよ。早く帰って来いって! いらないことをいくらでも吐き出すその口が、なに黙ってるのよって話よ!」
 凛が怒りつつそんなことを言う。
 ということは、気づかぬうちにオレがそういう顔をしていた、ということなのだろう。
 我ながら、情けない。
「そういうわけにはいかない。学生生活を楽しむのは――」
「まったく、エミヤシロウは変わらないわね!」
 オレに最後まで言わせず、ため息をつく凛に、口端を上げて、自嘲の笑みを見せるしかなかった。
 今さらオレが、死してなお理想に縋り続けた自分が、そう簡単に変われるはずもない。
「そういう顔、士郎には見せないでね」
 凛の声が低くなる。
「士郎の前だけでは変わってきているのかもしれないけど、士郎がいないと途端に逆戻りなんて、あいつが気づいたら、本末転倒なのよ!」
 耳に痛い言葉だった。
「あいつを糠喜びさせて突き落とすなんて真似してみなさい、即、消し去るわよ!」
 凛は本気だ。
 仮にもオレは彼女に士郎を託そうとしたのだ。このくらいの気概があって当然だ。
「私よりも、凛がマスターの傍にいるのが、相応しいな……」
「それ、本気で言ってるなら、消してやるわよ」
 彼女はすでに腰を浮かせようとしている。睨みあう我々に、セイバーは黙って成り行きを見守るつもりのようだ。
「アーチャー、どうなの? 本気?」
「……相応しいとは思うが、今さら譲るつもりはない」
 きっぱり言い切り、挑む目で見返すと、フン、と鼻で息を吐いた凛は立ち上がる。
「生意気よ、エミヤシロウのくせに」
 怒ったふうな言い方だったが、その顔は笑っていた。
「あんたもそうだけど、士郎も同じよ。自分のことは、ほんとに後回しにしちゃって、素直になれないのも、そう」
 凛は制服の胸ポケットから、生徒手帳を取り出し、二つ折りの紙を出した。
「きっと、士郎は渡せないと思うから、あげるわ」
 ぴら、と取り出した細長い紙を二本の指で挟み、それを顔の横でひらひらさせている。
 それがなんなのか見当もつかず、ただ見上げてしまう。
「穂群原学園祭の招待券。一日目は学内での開催だけど、二日目は一般客も入れるのよ。この券は生徒に二枚ずつ配られるの。譲渡もオッケーだから、士郎は誰かに譲っちゃってるかもしれないわね。
 これをあなたにあげる。私はセイバーの分が一枚あれば十分だし。この機会に学生らしい士郎の姿、見てやれば?」
 目の前に差し出された招待券とやらを無言で受け取る。
「凛、その……」
「礼には及ばないわよ。いつもおいしいご飯をいただいているし、たまにはお返し。それに、あなたが託したんじゃない、士郎のことを私に。
 あなたもエミヤシロウでしょ? だったら、二人まとめて面倒くらい見てやるわよ。冬木の管理者、遠坂家の跡取りを、見誤らないでくれるかしら?」
「ハッ……、まったく、君は!」
 少し、頬を染めた凛が、照れくさそうな顔をしている。
(士郎は、いや、オレたちは愛されているな……)
 凛とセイバーを門まで見送る。
「凛、ありがとう。この券は有効に使わせてもらうとしよう」
作品名:LIFE 12 ―School Festival― 作家名:さやけ