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LIFE 12 ―School Festival―

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「ふふ。この貸しは大きいわよ。あ、そうだ、じゃあ、セイバーと一緒に来てくれない? セイバーも一人では勝手がわからないだろうし、アーチャーが一緒なら、私も安心できるんだけど」
「了解した。では、セイバー、明後日の朝、迎えに行く」
「よろしくお願いします」
 そんなことに、深々と頭を下げたセイバーに彼女の誠実さがうかがえ、微笑ましい。
「礼には及ばんよ。帰り道は気をつけてな」
 一応、忠告をしておく。
 まあ、この二人にかかれば、ただの暴漢ごとき、一瞬で退散するだろうことはわかってはいたが。
 二人を見送って、玄関に入ってすぐ、背後の戸が開く。凛が忘れ物でもしたのかと、振り返ると、息を切らせた士郎が膝に手をついている。
「士郎? おかえり」
 驚きつつ言うと、
「た、ただ……いま……」
 息切れしながら答える。
「どうした? 何かあったのか?」
「お、遅くなった……から、走って……」
 このタイミングでは、凛とセイバーと行きあったのではないか、と思っていると、
「さっき、遠坂たちと、すれ違った。今日は、遅くまでいたんだな」
 息を整えて、ようやく顔を上げた士郎に、オレは笑顔で応える。
「毎日、大変だな。明日が学園祭初日ということは、今日で一区切りなのか?」
「うん、まあ、一応な。けど、明後日の一般客の準備もあって、明日までは、まだかかるかな。でも……、なんだかんだ言っても、明後日までだ!」
 拳を握って、宣言する士郎に、苦笑してしまう。
「そうか。では、あと二日、がんばれよ」
 言いながら士郎を促して家に入った。
「あ……、アーチャー、あの……」
 居間へ入って、台所へ向かうと、士郎が声をかけてくる。
 なかなか次の言葉が聞こえてこない。士郎の夕飯を準備しながら待った。
「その……、券が、あったんだ……けど……」
 券? 凛からもらった招待券のことだろうか?
「俺、いつも要らないから、クラスの奴にあげてて、今年も要らないだろって、取られちゃってさ……」
 気まずそうに、士郎は説明している。
「アーチャーに、渡そうと思ったんだ……。別に、うちの学祭なんて、珍しいものとかないし、アーチャーにしたら、ガキのお遊びみたいなものかもしれないけど、その、こ、来いってことじゃなくて、家に券を渡せる奴がいるのに、渡さないのって、なんか、どうかと思うし……、いや、じゃなくて、えっと……。あー、もー、なに言ってんだ、俺!」
 言葉に詰まった士郎を抱き寄せる。
「アーチャー?」
「その気持ちだけで十分だ」
「ごめんな、渡せなくて。あと、毎日、遅くなって、悪かった」
 士郎が心苦しさを感じているのはわかっていた。だからこそ、何も言わなかったのに、士郎にはわかってしまったのだろうか、オレがやはり、沈んでいることが。
「アーチャー、魔力は?」
 オレの手を掴んだ士郎は、体温で魔力の有無を量っている。普通のマスターとサーヴァントでは、あり得ないこの状況に、少し笑ってしまった。
「大丈夫だ、節制していたからな」
「ごめんな、明後日の夜には供給するから!」
 必死な顔でオレを見上げて謝る士郎の額に口づける。
「平気だ。戦うこともないのだから」
 ようするに、一か月おあずけ状態だったオレは、当然、魔力の補給が充分ではない。だが、日常の生活だけで、予測を立てて、効率よく動くことを考えれば、どうにかひと月はしのぐことができた。
 主夫概念の染み付いた頭と身体には、不衛生極まりなかったが、魔力温存のためにバイトを早く切り上げ、昼間から横にもなった。
 このくらい、どうということもない。疲れて帰ってくる士郎に、無茶をさせたくない。
 それに、学園祭に没頭させてやりたい、という親心のようなものもあった。
 オレを見上げる琥珀色の瞳が揺れている。
(魔力よりも、こちらの方が、オレには厳しいのだが……)
 魔力供給ではなく、士郎に触れることを我慢するのが容易ではない。
「アーチャー、ちょっとだけ……」
 掠れた声に答える間もなく口が塞がれる。オレの首に腕を回して、舌を絡めて、甘い魔力に染まった唾液を注がれた。
「全然、足しにはなんないだろうけど……」
 すぐにほどかれた腕が、名残惜し気に落ちていく。
「はは……、ごめん、……んなの、言い訳だ。俺が……キスしたかっただけ」
 俯いた首まで真っ赤にして、まったく、このマスターは!
「オレの思念が通じたのかと思ったぞ」
 ガバッと顔を上げた士郎が驚いたように目を丸くしている。
「明後日までは、おあずけはくらっておく。そのあとは、覚悟しておいてくれよ、マスター」
「了解、アーチャー」
 少し不貞腐れて赤くなった顔を、オレは飽くことなく見ていたいと思った。
(ああ、そういえば、凛に券をもらったことを言い忘れてしまった……)
 まあ、忙しいことだろうから、こっそり士郎の学園生活を垣間見るのもいいかと思い、オレは忘れることにした。



***

「衛宮くん、ちょっといい?」
 昼休みの教室で備品調達の打ち合わせをしていると、遠坂に呼び出された。
「なんだよ、俺、今、忙しいんだ」
「すぐに済むわよ」
 こっちだって忙しいの、と言いながら屋上まで付き合わされた。
「あんた、アーチャーに渡したの?」
「渡す? 何を?」
「もー、やっぱり!」
 遠坂が思った通りだ、と、ため息をついてる。
「招待券よ! 招待券!」
「あ、あー、ああ、あれ、な……」
「まさか、もう誰かにあげちゃったとか?」
「あ……、えっと……」
 曖昧な返事をすると、遠坂はもう誰かにあげたのだと思ったみたいだ。
「もー、アーチャーに渡せばよかったでしょ!」
「え、なんで? アーチャーに渡したって、絶対見たくないだろうし……」
「……あのね、そんなの渡してみなくちゃわからないでしょ? あんた、アーチャーの気持ち、考えたことあるの?」
「え……」
「毎日毎日遅く帰ってきて、あいつに心配させて! その償いじゃないけど、こういうことをしてたんだって、見せてあげるのが筋ってものでしょ? あいつが毎晩、何回、時計を確認してるか知ってる?」
「え、時計を確認って……」
「七時半から八時の間に平均二十回よ!」
「数えたのか、暇なんだな、遠さっ――」
 遠坂にゲンコツを落とされた。
「わかるでしょ、あいつがどれだけあんたのことを考えているか」
「そんなこと、わかってる」
 むっとして答えた。
「俺だって、早く帰ろうって思ってる。夕飯も任せたままだし、日曜は手伝おうと思うのに、身体動かなくて、気づいたら、アーチャーが全部家事とか終わらせてて……、俺には休んでろって言ってくれる優しさも、俺が学祭の準備に集中できるようにって気遣いも、全部、知ってる!」
 そんなこと、遠坂に言われなくてもわかってるんだ。招待券にしても、渡そうとは思ってるけど、なかなか勇気が出なくて、まだ、渡せずにいるだけで……。
「そ、なぁんだ、わかってるんなら、いいわ」
 遠坂はあっさりと引き下がった。
「学園祭が終わったら、せいぜいサービスしてあげることね」
 言いながら遠坂は屋上の出入口へと歩いていった。
「わかってる……、そんなこと……」
作品名:LIFE 12 ―School Festival― 作家名:さやけ