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LIFE 12 ―School Festival―

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 そうかもしれないが、居間には士郎が……。
「シロウ!」
 思った通りの反応に、オレは額を押さえる。
 昨夜と今朝で、士郎は、今日はずっと居間で横になっているのだ。セイバーにしたら、寝込んでいるようにしか見えないだろう。
「アーチャー……、あなた、何したの……」
 訊かずともわかっていることを、わざわざ訊くな、凛。
 答えないオレに、業を煮やしたのか、凛はセイバーに訊いた。
「セイバー、今、アーチャーの魔力、どのくらい?」
「満タンです。いや、それ以上。溢れんばかりです!」
「アーチャー!」
 ガンド撃ちを構えた凛に、
「マスターも合意の上だ」
 と言ってやる。
「なぁんですってぇ!」
 さらに、目くじらを立てたものの、それ以上追及してこないので、オレは紅茶を入れるべく、台所へ入った。
「合意の上ですって? 合意? なんですって?」
 凛がブツブツと呪文のように繰り返しているのは聞こえていたが、オレは何も言うつもりはない。事実であるし、士郎がああいう状態である以上、隠しようもない。
 紅茶を注ぎ、凛の持ってきたケーキを皿に移して出すと、眠る士郎の側にいたセイバーも席に着いた。
「アーチャー、いつもこうなの?」
 紅茶を一口飲んで、凛は静かに訊く。
 それを今訊くのか、と凛を見据えると、凛は気を取り直したように息を吐き、
「やめた。あんたたち主従がどうしようと、私にとやかく言う権利ないわね」
 と、ケーキにフォークを下ろした。
「だけど、アーチャー、士郎を傷つけたら、許さないわよ。わかってると思うけど」
「もちろんだ」
 セイバーは何か言いたげだが、凛がそれ以上追及しないので、諦めたようだ。

「じゃ、ごちそうさま。士郎によろしく」
 紅茶とケーキを食べて、本当にすぐに帰る二人を見送りに玄関へ出る。
「アーチャー、あの……」
 先に凛が歩いていくのを見て、セイバーがこちらを振り返る。
「シロウは、本当に、あなたのマスターなのですね。シロウが寝込むようなことを、あなたがしたのだと、はじめは腹が立ったのですが、先ほど、シロウはあなたを呼んでいました。眠りながら“アーチャー”と何度も。
 あんなに、サーヴァントを思ってくれるマスターは、きっといないと思います。あ、リンがそうではないというのではないのですが、シロウとあなたは、なぜだか、特別なのだと思えてしまうのです。私はリンに不満があるわけではありませんが、時々、とても羨ましいと思ってしまいます」
 凛の呼び声に答え、セイバーは、では、と頭を下げて駆けていく。
 少女主従を見送って、少し温かい気持ちになった。
「特別か……。確かに、元の派生が同じである主従などいないだろうしな……。だが、元は同じといえど、オレたちはもう、別物だからな……」
 居間の前まで戻ると、士郎の声がする。
「……アーチャー……、ど、こ……に……」
 居間に入り、起きたのかと士郎の姿を確認すると、まだ寝た状態で、片手が彷徨っている。その手を取ると、ぎゅっと握られる。
「……アーチャー……」
 瞼はまだ閉じている。どんな夢を見ているのか、オレをそんなに呼ぶほどの夢とは、いったいどんなものなのか。
「目が覚めたら、聞かせてくれ、マスター」
 こめかみに口づけて、オレは隣に寝転んだ。その手を握って、赤銅色の髪を撫でて、早く琥珀色の瞳が見たい、などと思いながら、昼下がりの居間で、ごろごろするのを堪能した。



***

「アーチャー、どこにいるんだ?」
 暗くて見えない。身体が重くて、動けない。かろうじて右腕だけが動いた。
「怒ってないからさぁ、出てこいってー」
 どうして俺の身体は動かないんだ?
 アーチャーを探しに行きたいのに。
「……なあ、アーチャー……」
 だんだん不安になってくる。
 俺の声聞こえないのかな?
 もっとこの腕を伸ばせば、届くだろうか?
「アーチャー、怒ってないって、俺、うれしかったんだ、だけど、なんていえばいいかわかんなくて……」
 寂しかったんだよな、俺が遅くまで学校にいて、全然かまえなかったから。
 俺も早くアーチャーに触れたかったんだぞ。
 それにさ、言いそびれたけど、ウエイター姿も、カッコ良かった。
「あ……」
 俺の手を温かい手が掴んだ。
 アーチャーの手だ。
 ぎゅっと握りしめる。
「アーチャー」
 よかった、傍にいたんだな。
 ずっと傍にいてくれよな、俺、がんばるからさ。


「ん……」
 目が覚めると、アーチャーの寝顔が目の前にあった。俺の両手をアーチャーの両手が包むように握っている。
「アーチャー……」
 ずっとここにいてくれたのか。
 なんだか、俺は、すごく甘やかされてる。いや、愛されてるって言っていいのか、これ……。
 俺の手を握るアーチャーの手に唇を寄せた。
「アーチャー、ずっと……、ずっとさ、俺の傍に、いてくれるか?」
 アーチャーが眠っている時にしか、こんなことを訊けない。
 答えは要らない。答えを聞くのは怖いから、俺は訊きたい答えをうやむやにできるように、アーチャーが眠っている隙をついている。
「誓いのキスでもすればいいか?」
 ぎく、と肩が震えた。
 恐る恐る上目でアーチャーの顔を窺う。ぱっちりと鈍色の瞳が見える。
「ね、寝たふり、とか……ズルい……」
「何を言うか。また言い逃げしようとしたくせに」
「言い逃げって、なんだよ……」
「前に好きだと言って逃げただろう」
「う……」
 だって、答えなんか、怖くて聞けないから……。
 視線を落として、再びアーチャーの手を見る。
「士郎、お前が嫌だろうがなんだろうが、オレは二度とお前を離す気はない」
 身体を起こしたアーチャーに腕を引かれ、そっと身体を支え起こされる。
「お前以外とは契約などしない。お前が望もうと、嫌がろうと、オレはお前をマスターに選んでしまった。もう、他とは無理だ。だから、お前はもうオレとしか契約はできない」
「……なん、だよ、横暴だな」
 不平を言いながらも俺は、うれしくて仕方がなかった。
「誓おうか、士郎?」
「え……?」
「オレはお前だけを主とする。お前は?」
「お、俺は……」
 アーチャーの鈍色の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「俺は、……アーチャーだけ」
「士郎、それでは、何を誓っているのかわからないが……」
「俺には、アーチャーだけ……。使い魔とかサーヴァントとかじゃなくて、ただ、俺はアーチャーの傍にいるって、ことだけだから」
 驚いていたアーチャーは、やがて、ふ、と微笑んだ。
「ああ、では……、オレたちには、オレたちだけだ、ということを、誓おう」
「うん」
 手を握り合ってキスを交わした。
 俺たちは誓った。
 生きるために、俺たちは離れることはない、と。
 ともに歩いていく者を、俺は見つけたばかり。未来へと続く道を、俺たちは笑いながら歩いていく。
 俺たちのLIFEは、はじまったばかりだ。


LIFE! 12 ――School Festival―― 了(2016/10/18初出)
作品名:LIFE 12 ―School Festival― 作家名:さやけ