LIFE 12 ―School Festival―
フェンスを片手で握って、もう一方の腕を士郎の身体に回し、逃さないようにする。
「アーチャー、早く……帰んない……と……」
士郎の身体に回したオレの手に、熱い雫が落ちてくる。
「ちゃんと、見ておけ」
耳朶を唇で挟んで、囁く。
「そ……んなこと、されると、集中、できない、だろ」
笑いの交じった声に、ほっとする。
魔力が少なくなっていることを気にするよりも、士郎が今を生きているという実感を与えてやりたかった。
一生残るような思い出を、今この時しかない一瞬を、忘れないように、心に刻んでほしいと願った。
(オレのように、忘れてしまわないように……)
両腕で士郎を抱きしめる。
いつまでもオレが傍にいるから、こんな日々を忘れるな。もし万が一、忘れてしまったら、オレとともに過ごした日々をずっと傍で語ってやる。
髪を撫でる士郎の手が優しい。
「アーチャー、来てくれて、ありがとう。今年の学園祭、俺、すごく、楽しかった」
楽しいと思ったのなら、それでいい。
火がつき、燃え上がるキャンプファイヤーの周りで、歌う者たちの声が聞こえる。なぜか、流行の歌ではなく、小学校で習うような唱歌や、校歌が繰り返される。
「変なの、なんで今、こんな歌?」
士郎が笑っている。
「ああ、まったく、理解に苦しむな」
フェンスにもたれ、コンクリートに並んで腰を下ろして、オレたちは笑い合う。
ヒュウッ!
甲高い笛の音に、士郎が振り返る。
「誰かロケット花火始めたぞ」
「収拾がつくのか、あれは」
オレも呆れて振り返った。
***
「さあ、待ちに待った供給だ」
勢いよく風呂場の戸を開けたアーチャーに、俺は一瞬、湯船に沈みそうになった。
その意気込みは、なんだ……。
「ちょ、っと、俺、まだ入ってるんだけど?」
「かまわん」
いや、俺がかまうんだって!
ひと月振りだから、身体を温めてちゃんと慣らそうと思ってたのに、アーチャーがいたらできないじゃないか。
だけど、アーチャーはすでに身体を洗っている。
「聞けよ、人の話……」
むぅ、としながら、顎まで湯船に沈む。
「士郎、オレがやるから、触るなよ」
「は?」
意味がわからず、頭からシャワーをかかってシャンプーを流したアーチャーが浴槽に入ってくる。お湯がこぼれていって、勿体ないな、とか思ってると、抱き寄せられた。
「士郎……」
目の前に鈍色の瞳がある。
(あー、そうだよな、俺も待ちきれなかった。その目を見れば、わかるよ)
限界、ギリギリ。
「アーチャー、俺さぁ、女子に囲まれてるの見て、すっごい、嫌だったんだ……」
見開かれたアーチャーの目には、驚きとともに、熱い欲望が渦を巻いているようだった。
「だからだな……、士郎、この状況で、そういう煽り方をするなと、何回言えば、わかる?」
なんだよ、煽るって。俺、そんなことしてない。
「そう言う、アーチャーだって――」
その先は言えなくなった。アーチャーに唇を塞がれてしまったから。
――そんな目をして、俺を熱くするな。
って、言いたかったのに。
「う……」
薄く瞼を開けることができた。
視界にあるのは、錆色の肌。少し汗に湿った、アーチャーの鎖骨が鼻先に当たる。
よく、カップルが“盛り上がっちゃって”って言うよな。
それって、こういうことなのかって俺は昨夜、思い知らされた。
いや、盛り上がったからなのか、切羽詰まってたからなのかわからない。
とにかく、アーチャーが激しすぎた。待てと言っても止まらない。痛いと言っても、すぐに慣れると窘める。どんだけ奥まで突っ込むんだってくらい押し込んできて、そこに出されて、壊れるからって言っても、すぐに治るって気にも留めない。
ほんとにもう、気持ちいいのかどうかもわからなくなってきてるのに、イくってことは、気持ちがいいんだろうけど、脳ミソが理解できなくて、もう、条件反射みたいな状態だった。
久しぶりに、腰がダメだ。初めての供給の時みたいに、全然、腰が上がらない、バカになってる。
「うう……」
少し、反省だ。
「士郎?」
おまけに目も半分くらいしか開かないし……。
「アー……チャー、あ……の……なぁ……」
掠れて皆目声が出ない。
腕も脚も絡み付けて俺を抱き込んでいるこのエロサーヴァントに、灸を据えてやりたい。
(確かに一ヶ月のおあずけはきつかったかもしれないけど、了承しただろ!)
言いたいことを頭の中で言って、顔を上げて、睨んでやろうと思ったのに、こいつは満面の笑顔だ。
「おはよう、士郎」
にこやかに、おはよう、とか言ってる場合じゃない!
「動け、なく、なる……まで、す、るな……」
どうにか、声を出して言ったのに、
「士郎がそうさせたんだ」
って、大真面目に答えてくる。
させてないだろ、おい!
全く反省していない。
「この……、エロ……サー……ヴァントめ……」
褒めてもないのに、抱きしめんな、バカ。
「士郎、悪かった。悪かったついでに、もう一回」
「!」
ちょっと、待て。
ついでに? もう一回?
なんだ、この熱くて硬いものが当たってる感触。
「ちょっ……、ま、っ――」
するりと舌に押し入られて、声すら出せなくなる。
(待てって、もう、無理だから!)
脚も上がらないし、腕も動かないし、俺、マグロだぞ!
腰を抱えたアーチャーに、いとも簡単に挿入される。もう、体内も抵抗すらできない様子だ。
(こんなので、気持ちいいのか?)
少し、不安だった。
だけど、俺を見つめる鈍色の瞳に熱い滾りが見てとれる。アーチャーの汗が、頬に落ちてきて、結局、俺も、堪らなくなっている。
「アー、チャー……」
熱くて堪らないと伝えたい。俺のこの熱が伝わればいいのにって思う。
重い腕を必死に上げて、その背に手を回す。筋肉の隆起が感じられる。もうさほどの力も入らなかったけど、指先にだけ力をこめてしがみつく。
(アーチャー……)
声になったかどうかはわからないけど、俺は、その名を呼び続けた。
「……士郎、その……」
言い澱むくらいなら、はじめからやるな。
目だけを向けて、力の入らない手で、その頬に触れる。
「……やり……すぎ……、バ……カ……」
別に怒ってないから、そんなにシュンとしなくていい。俺も拒めるほど、大人じゃないし。
「……怒っ……て、ない……」
俺が寂しい想いさせたってわかってる。
俺も、寂しかったんだって、言ったら、笑うかな……。
「士郎!」
嬉しそうにすり寄ってくるアーチャーの寂しさを、俺はわかってあげられたような気がして、どちらかというと、満足だった。
やり方は、まあ、ちょっと、とんでもなかったけどな。
***
「ちょっとだけ、おすそ分けよ」
昼下がり、インターホンが鳴って応対に出ると、凛がケーキの箱を持ってセイバーとともに現れた。
「昨日のお礼。セイバーに聞いたの、魔力切れスレスレだったって」
「あ、ああ、まあ」
オレが曖昧に答えると、さっさと靴を脱いで上がってくる。
「おい、待て、凛、セイバー、今日は――」
「ケーキ食べたら帰るわ。私たちもこれからディナーだから」
作品名:LIFE 12 ―School Festival― 作家名:さやけ