朧さんと奈落の新キャラシリーズ
傍らの体温
虚様に大量の血を与えられた俺は、ただ目の前の敵を倒すことだけを考えた。
目障りな銀髪の男と交戦し、大きな爆発音が響いて海に投げ出された俺は、自分の体が沈んでいくのを感じながら、嗚呼、俺は死ぬのだろうかとぼんやりと考えた。
(それとも、死なずに生き続けるのかね……)
何処か他人事のように思っている自分に苦笑して、目を閉じる。
(海の藻屑になるなんて俺らしい末路かもしれねぇな……)
そんなことを思いながら、意識を手離した。
誰かが、俺を呼んでいる。
(……誰だ?)
耳を凝らすと、あにうえ、と聞き覚えがある声が聞こえた。
(俺をそう呼ぶ奴は一人しかいねぇ)
目を開けると、銀髪の餓鬼の顔が視界に飛び込んだ。
「柩兄上……!」
(嗚呼、やっぱりお前か)
今にも泣き出しそうな顔をしている餓鬼に笑みを浮かべると、餓鬼は俺を抱き締めた。
餓鬼の体温を感じながら、目を細める。
(これは、現実か……?それとも夢か?)
……どっちでもいい。
此奴とまた、会えたのだから。
「……小僧」
餓鬼を抱き締め返し、餓鬼の頭を撫ぜる。
「……すまねぇ……お前を騙して、お前を泣かせちまって」
……嗚呼、やっと言えた。
あの日以来、ずっと餓鬼の泣き顔が頭から離れなかった。
あんなことを言いながら、ずっと餓鬼に謝罪したかった。
餓鬼に謝罪出来た安堵から息をつくと、餓鬼が「いいんです」と笑う気配がした。
「貴方は俺を助けてくれましたし……あの時、俺の頭を撫ぜてくれた。貴方はいつも……俺の傍にいてくれた。だからもう……いいんです」
「……許してくれるのか?」
「はい」
頷く餓鬼に、肩の荷が下りたような心地がして、俺も笑う。
暫く餓鬼と笑い合い、餓鬼は静かに切り出した。
「俺が死んで、泣きました?」
「…………泣いてねぇよ」
「嘘ですね」
餓鬼は直ぐに俺の嘘を見抜き、俺を抱き締める腕に力を込める。
「泣いて下さって、ありがとうございます。そして……ごめんなさい。貴方を独りにして……」
……全くだ。
お前がいない日々は、つまらなくて仕方なかったぜ。
「……これからは……俺の傍にいてくれるか?」
俺が問い掛けると、餓鬼は「当たり前じゃないですか」とはっきりと告げる。
「俺は、何時までも貴方の傍にいますよ。俺は貴方の、弟ですから」
……嗚呼。
餓鬼の答えに満足して、目を閉じる。
「…………あったけぇ」
傍にある温もりにそう呟いて、傍にいる家族の存在に、俺は笑みを深めた。
俺と餓鬼は、何時までも、抱き合い続けた。
完
作品名:朧さんと奈落の新キャラシリーズ 作家名:如月 苺