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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~Vivid boys and girls3

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Vivid boys and girls 魂鎮めの舞

「かゆー。遼—。がんばってね〜〜〜〜〜〜。」
亜由美が明るく手を振る。
何を頑張るのだろうか?と迦遊羅と遼は一瞬顔を見合わせるが、しかたなくふたりしてこくりとうなずくと雑踏の中に消えていった。
「ほれ、手」
当麻がその手をすっととろうとする。
うん、と言って亜由美も手を重ねる。
いつもならぎゃぁぎゃぁわめくところでも今日は少し不安があるのだろう。
亜由美は殊勝な面もちで当麻の手を握った。
「朝からいちゃつかないでよねー」
舞子がちゃかしていうと亜由美の手を取って走り去ろうとする。
おいっ、と後を追おうとして当麻がその動きを止める。
「扇こそ、猫かわいがりしていないか?」
傍らの翔子に尋ねる。
舞子はいたく亜由美を気に入ったのかそれは派手なぐらい騒いでいる。どういうわけか近江も一緒になって騒いでいる。天変地異か?と当麻は呟く。
「舞ちゃんって人なつっこいから」
翔子も微笑む。
亜由美の顔から緊張が抜けているのを見抜いてま、いっかと当麻は呟いて後をついていく。

二人は舞子達の屋敷に行くのだった。
朝、出し抜けに当麻に亜由美が行きたいと言いだし、舞子もそれはいたくお気に召してほっとくと連れ去られそうだったのであわててついてきたのだ。
別段暴れるわけではないとは言っていたが、心配になってやはりついてきたのだった。
「たっただいまー」
舞子が底抜けの明るさで帰宅を告げる。
「おじゃまします」
亜由美は珍しい都内の屋敷にほけっとみとれながら入っていく。
また顔が一瞬険しくなったのを見て当麻は眉を寄せる。
「何もなければいいが・・・」
当麻と翔子も近江も後へ続く。
舞子と翔子は亜由美と当麻を一室へ連れていくと今度は普段から持ち歩いている巻物を手にとって畳に広げた。
巻物には膨大な情報が記されている。が、その文字は古代の文字であり、なかなか読みづらい。
「どっちを読めばいいんですか?」
半ば戸惑いながら亜由美が尋ねる。
「好きな方からでいいんじゃないかしら? 私は天之書を持っていて舞ちゃんは地之書を持っているわ。私は主に見る方。舞ちゃんは倒す方かしら?」
「倒す方法じゃないから・・・こっちかな?」
亜由美は天之書を手に取る。
さすがに読みづらい。
亜由美は巻物を一旦畳に広げると手をその文字の上にすっと置く。
それから目を閉じる。
手っ取り早く情報を得るのにはこちらの方法が良さそうだったからだ。
亜由美は手のひらからわずかに力を出してその文字の言霊を読み出した。
ゆっくり情報を探すように手を動かしていく。
奇妙な亜由美の動きに舞子も翔子もただ呆然と見るばかりだった。
わずかながら力の発現が二人にも分かった。
当麻はすでになにをしているのかわかっているようだった。
長い時間をかけて亜由美が読んでいるとふっと体が傾いだ気がした。
その体を当麻が抱き留め、頬を軽くたたく。
「それ以上は体を痛める。やめておいたほうがいいぞ」
ほへ?と亜由美は目をぼんやりとあけて当麻を見上げた。
「またトリップしていたぞ。何がしたいんだ? 手っ取り早く聞く方が早いぞ?」
姉様、と亜由美は小さく呟く。当麻がえ?と聞き直す。
「魂を救う方法を知りたいの。私には封印するか砕く方法しかわからないから。魂を解放する方法を知りたいの」
はっきりと強い意思を表して亜由美が言う。
「私たちもそれはその時々で方法が変わるから。おばあちゃんに聞いてみましょう」
翔子が立ち上がり、舞子が亜由美に手を貸す。ふらりと亜由美が舞子と当麻の手を借りて立ち上がる。また一室へ亜由美は案内された。
「おばぁちゃん」
翔子が声をかける。
「なんじゃ?」
年のいった声がふすまの向こうから聞こえ来たかと思うと翔子はふすまをさっとあけた。
奥の床の間には「迦楼羅神教」と書かれた掛け軸がある。
その前に一人の老婆が座っていた。舞子達の祖母である。
「おばぁちゃん。私たちの先代の教主よ」
翔子が説明する。
どうも、と当麻があいさつをする。
「いつぞやの坊主か。元気にしておったか?」
祖母、千景は相好を崩すと当麻に問いかけた。
「はい。おかげさまで。今日はこいつがお世話になります」
当麻が亜由美を示す。
「嬢ちゃんや。何のようかはわからぬが、いい守護をもっておるな」
にこにこと笑いかけられて亜由美はぽかんと当麻を指し示す。
「当麻の事ですか?」
いや、と千景は答える。
「お前さんの後ろについて守ってくれる人々じゃ。一人は修行僧のような恰好をしており、もう一人は十二単を着ておる。そのほかにも幾人かいるようじゃ」
その答えに亜由美はジジ様、と呟いてへたりこんでしまった。
思いもかけない自分を守ってくれている人間を知らされて腰が抜けてしまった。
「ジジ様が、ジジ様が私についているんですか?」
たった一度の再会であっというまに消えてしまった先代の自分の長を亜由美は瞳を涙ぐませて問う。
「そう言う人物に心当たりがあるならそうじゃろう」
千景は緊張の糸が切れたような亜由美にそこへ座れと指し示す。あわてて亜由美が居住まいを正して座り直す。
「何を聞きに来たか知らないが。わしよりその者達に聞く方が早いと思うぞ?」
意表をつかれて亜由美も当麻も顔を見合わす。
「ジジ様と話が出きるの? まさか・・・」
彼は確かに消えてしまったのだ。魂のかけらすら分からぬほどに。だが、彼はいま自分の後ろについているという。思わず自分の後ろを当麻と共に見てしまったが見えるわけはない。
だが、千景は見えるという。心の中にある先代の長の姿、前世の姉沙羅耶の姿を思い出す。
さぁっと里の風景を思い出す。綺麗な姉の踊る姿。それを眺めている長。
あっ、と亜由美が口を押さえる。
ヒントはここにあった。
「魂鎮めの舞。きっとそれがヒントなんだ」
亜由美はぶつぶつ呟く。
「なんなんだ?」
千景とのやりとり数秒で亜由美は答えに達したようだった。当麻が不思議そうに聞き返す。が、亜由美の耳には届いていないようだった。
あの苦労はなんだったのだろうと思うほどに答えがすらすら出てきてしまった。
「でも、私にできるかな?」
不安そうに亜由美が言葉を紡ぐ。
「失敗したらまた挑戦すればいいから」
何のことか分かっていない当麻だが、亜由美を元気つけようと優しく声をかける。
亜由美が小さくうなずく。
あのぅ、と亜由美が不安そうに千景に問う。
「このお家には小さな道場があるときいたのですが? 使ってよろしいですか?」
千景は快くうなずいた。

小さな道場に亜由美と当麻はいた。背後に舞子と翔子もいる。近江もいる。
失敗したときにもしかして力になってもらえるかも知れないと立ち会いを願い出たのだ。
亜由美は髪をくくっているゴムをとりはずすと長い黒髪を肩に流した。
それから人前で始めて錫杖を手にする。
その錫杖が光ったかと思うと亜由美は十二単を纏っていた。
その光景に舞子達があっと驚く。
「祭りの旋律でいいか?」
出し抜けに当麻が言い出し、亜由美は驚いて背後を振り返った。
当麻の手には笛が現れていた。
「青龍の力目覚めたの?」
思わぬ出来事に亜由美が問う。
「自動解除されたらしい」