あゆと当麻~家族ごっこ
番外編 家族ごっこ
「おーい、伸。ちょっといいか?」
当麻は伸の部屋をノックするなり入ってきた。
「僕の答えを聞いてから入って来るんじゃないの?」
伸はニヒルに言いながらも当麻に席を勧める。
「珍しく一体どうしたんだい?」
いや、と当麻が珍しく口ごもる。
「明日のことなんだが・・・」
「明日?」
「ホワイトデー」
当麻は一言答えてからお手上げだという風な仕草をする。
「いや、お前のたんじょーびと言うのも忘れてないんだがな。ホワイトデーの返しが思いつかなくてなぁ。お前なら何か良い案が在るかと思って」
そんなこと?と伸は珍しげに当麻を見る。仲間内きっての天才が何を悩んでいるかと思えば・・・。
「普通にマシュマロとかキャンディーとかでいいんじゃないの?」
「マシュマロは嫌いなんだと」
「じゃぁ、好きなケーキでも買ってあげなよ」
「明日はお前の誕生日。あいつとかゆとナスティでケーキを作るから意味なし」
「じゃぁ、花束とか?」
「せーじじゃあるまいし」
さすがの伸も頭の筋がぴきっとなりかける。
「結婚でもして上げたらいいじゃん」
「できるかぁーっ。あゆの親に殺されるわっ」
当麻は関西弁で声を荒げる。
「だーっ。だったら何がいいんだよー。指輪でもなんでも好きなもの買ってあげたらいいだろう?」
「いらんと言われた」
途方に暮れたような顔で当麻が答えて伸が目を丸くする。
「いらないって? なんでまた」
さぁ?、と当麻が答える。
「最近あいつ変なんだよな。妙に明るいし、聞き分けが良いし、無欲だし」
そういえばそうかな?と伸は思い起こす。
昔の亜由美に戻ったようで別段気にはしなかったが、当麻には気がかりのようだ。そういえば・・・、と伸は思い出す。
つい先日夜中に亜由美が起きていて妙にさびそうに家を眺めていたのを思い出す。
「そういえば、この間の夜中になんだか起きてて寂しそうに家の中を見てたっけ・・・」
伸の半ばつぶやきに近い言葉に当麻が反応する。
「まぁ、あいつの考えそうなことだな。俺達は小田原の屋敷が思い出深いが、あいつの場合は『ここ』が我が家みたいなもんだからなぁ・・・。かといってこのままこっちに残して置くわけには行かないし」
もうじき当麻と亜由美、迦遊羅達はここを出ていく。当麻が京大に合格し、保護者当麻
帰郷により亜由美達も関東に別れを告げるのだ。四月には伸も征士も一人暮らしを始める。
「いくらなんでもこの家にナスティ一人残ってくれとは言えないしな」
苦い思いで当麻が言う。小田原の屋敷はナスティの祖父の屋敷でナスティが相続していたが、この家は新たにフランスのお嬢様ナスティが共同生活用に購入した家なのだ。一人残されるナスティがこの家をそのままにしておくとは思えなかった。おそらく一人暮らしが出きるようなマンションか何かに引っ越すであろうと皆思っていた。
「ま、ホワイトデーのプレゼントはあとで考えるわ。それよりお前、何が欲しい? ホワイトデーに振り回されてまだ買いに行ってないんだよ。あっちこっちと行事が重なるのは問題だな」
難しそうな顔をして言う当麻を見て伸がぷっと吹き出す。
「しかたないだろう? 記念日に産まれてないのは征士ぐらいなんだからさー」
まぁ、そうなんだがなぁ、と当麻はのびをしながら答える。
そうだな、と伸が言う。
「織部か天目で手を打って上げるよ」
織部も天目も茶道の茶碗の種類である。名品はべらぼうに高い。
「そんな金あったらこの家買いとっとるわっ」
当麻がまたも関西弁で大声を上げて伸が笑い出した。
「今回は気持ちだけいただいておくよ。僕も別にプレゼントにこだわらないしね。気持ちがあったらいいと思うけど?」
「悪いな。いつかお前に山ほどのマシュマロをやるよ」
当麻はにやりと笑って答えると伸の部屋を出ていった。
伸の部屋を出ていってなんとなしに亜由美と迦遊羅の部屋の前まで来てしまった。回れ右をして部屋に戻ろうかとしたとたんドアが開いた。
「当麻、何してるの?」
相変わらず気配に敏感な亜由美がドアを開けてぽかんと見上げている。
「いや・・・」
答えに詰まった当麻を見て亜由美は片手をぽんとたたく。
「伸のプレゼント買ってないんでしょう?」
「え、ああ、そうだが」
当麻が答えると亜由美はくるりと部屋に戻ったかと思うと両手にたくさんの道具を抱えてドアをすり抜ける。
「今からカード書こうと思っていたから当麻もメッセージでも書き込んだら? 今年は二人で一つということで勘弁してもらったらいいし」
「サンキュ。ありがたい。そうさせてもらおうか。あとで金払うし」
「いいよ。プレゼント代は大したことないから」
亜由美が階段を下り初め当麻もその後ろについていく。
「何買ったんだ?」
「海の写真集」
「だろうと思った。お前、遼の時も写真集だったもんなぁ」
「いいじゃない。テーマカラーにそったちょうどいい写真集なんだから」
二人で軽口をたたきながら階下に降りる。
リビングのテーブルに亜由美はどさっとカードやペンをおろす。
「さて。当麻はどれがいい? よりどりみどりでっせ。お客さん」
亜由美がそれは楽しそうにいろとりどりのカードを見せる。
いつのまにそんなにためこんだのやら、と当麻が妙に感心して眺める。
「あ、あきれてるわねー。別に高価なもの集めてるんじゃないんだからいいじゃないのー。で、どれがいい?」
半分膨れながら半分楽しみながら問われて当麻は苦笑いする。
「俺にそういうセンスを求めないでくれ。カードの選択はお前に任せる」
わかった、と亜由美は言って鼻歌混じりにカードを選んでいる。
その様子がなんだかほのぼのとしていて当麻も妙にくつろいでしまう。
が、一瞬の後、って、そんな場合じゃないやんけー、と当麻は心の中で思わず叫んでしまう。
ホワイトデーのお返しという言葉が当麻の頭の中でぐるぐる回る。
「じゃ、このカードにメッセージ書くねー。ペンはどれがいい?」
またもずらっとコレクションを見せられて当麻が苦笑いする。
「俺は青でいいから。お前は好きな色使えば?」
「わかった♪」
亜由美はそう言ってカードにメッセージを書き込み出す。
相変わらず当麻が悩んでいると書き終わった亜由美がカードとペンを渡す。
「下の方空けておいたから下半分は当麻が埋めて♪」
これ以上の楽しみはないと言った具合の亜由美を見て当麻も悩むのを一旦止めて、メッセージを書き込む。とはいってもおざなりの言葉を書くぐらいしかできなかったが。メッセージの最後に名前を書いてまた亜由美に渡す。
「余白にはお前の得意なイラストでも入れておけ。俺はこれ以上の言葉は思いつかん」
照れたように当麻が言って亜由美は当麻の短いメッセージに文句を言おうとしたのを止める。
「ぶきっちょ当麻にしては上出来かもね」
「悪かったな」
当麻がぶすっとして答える。
その様子に亜由美がけらけら笑いながらイラストを描き始める。
数分もしない内に伸の似顔絵が描かれる。
「どう?」
ほんの少し不安そうに問いかける亜由美に太鼓判をおしてやる。
「上出来。上出来。お前、授業のノート落書きだらけだもんなー」
「おーい、伸。ちょっといいか?」
当麻は伸の部屋をノックするなり入ってきた。
「僕の答えを聞いてから入って来るんじゃないの?」
伸はニヒルに言いながらも当麻に席を勧める。
「珍しく一体どうしたんだい?」
いや、と当麻が珍しく口ごもる。
「明日のことなんだが・・・」
「明日?」
「ホワイトデー」
当麻は一言答えてからお手上げだという風な仕草をする。
「いや、お前のたんじょーびと言うのも忘れてないんだがな。ホワイトデーの返しが思いつかなくてなぁ。お前なら何か良い案が在るかと思って」
そんなこと?と伸は珍しげに当麻を見る。仲間内きっての天才が何を悩んでいるかと思えば・・・。
「普通にマシュマロとかキャンディーとかでいいんじゃないの?」
「マシュマロは嫌いなんだと」
「じゃぁ、好きなケーキでも買ってあげなよ」
「明日はお前の誕生日。あいつとかゆとナスティでケーキを作るから意味なし」
「じゃぁ、花束とか?」
「せーじじゃあるまいし」
さすがの伸も頭の筋がぴきっとなりかける。
「結婚でもして上げたらいいじゃん」
「できるかぁーっ。あゆの親に殺されるわっ」
当麻は関西弁で声を荒げる。
「だーっ。だったら何がいいんだよー。指輪でもなんでも好きなもの買ってあげたらいいだろう?」
「いらんと言われた」
途方に暮れたような顔で当麻が答えて伸が目を丸くする。
「いらないって? なんでまた」
さぁ?、と当麻が答える。
「最近あいつ変なんだよな。妙に明るいし、聞き分けが良いし、無欲だし」
そういえばそうかな?と伸は思い起こす。
昔の亜由美に戻ったようで別段気にはしなかったが、当麻には気がかりのようだ。そういえば・・・、と伸は思い出す。
つい先日夜中に亜由美が起きていて妙にさびそうに家を眺めていたのを思い出す。
「そういえば、この間の夜中になんだか起きてて寂しそうに家の中を見てたっけ・・・」
伸の半ばつぶやきに近い言葉に当麻が反応する。
「まぁ、あいつの考えそうなことだな。俺達は小田原の屋敷が思い出深いが、あいつの場合は『ここ』が我が家みたいなもんだからなぁ・・・。かといってこのままこっちに残して置くわけには行かないし」
もうじき当麻と亜由美、迦遊羅達はここを出ていく。当麻が京大に合格し、保護者当麻
帰郷により亜由美達も関東に別れを告げるのだ。四月には伸も征士も一人暮らしを始める。
「いくらなんでもこの家にナスティ一人残ってくれとは言えないしな」
苦い思いで当麻が言う。小田原の屋敷はナスティの祖父の屋敷でナスティが相続していたが、この家は新たにフランスのお嬢様ナスティが共同生活用に購入した家なのだ。一人残されるナスティがこの家をそのままにしておくとは思えなかった。おそらく一人暮らしが出きるようなマンションか何かに引っ越すであろうと皆思っていた。
「ま、ホワイトデーのプレゼントはあとで考えるわ。それよりお前、何が欲しい? ホワイトデーに振り回されてまだ買いに行ってないんだよ。あっちこっちと行事が重なるのは問題だな」
難しそうな顔をして言う当麻を見て伸がぷっと吹き出す。
「しかたないだろう? 記念日に産まれてないのは征士ぐらいなんだからさー」
まぁ、そうなんだがなぁ、と当麻はのびをしながら答える。
そうだな、と伸が言う。
「織部か天目で手を打って上げるよ」
織部も天目も茶道の茶碗の種類である。名品はべらぼうに高い。
「そんな金あったらこの家買いとっとるわっ」
当麻がまたも関西弁で大声を上げて伸が笑い出した。
「今回は気持ちだけいただいておくよ。僕も別にプレゼントにこだわらないしね。気持ちがあったらいいと思うけど?」
「悪いな。いつかお前に山ほどのマシュマロをやるよ」
当麻はにやりと笑って答えると伸の部屋を出ていった。
伸の部屋を出ていってなんとなしに亜由美と迦遊羅の部屋の前まで来てしまった。回れ右をして部屋に戻ろうかとしたとたんドアが開いた。
「当麻、何してるの?」
相変わらず気配に敏感な亜由美がドアを開けてぽかんと見上げている。
「いや・・・」
答えに詰まった当麻を見て亜由美は片手をぽんとたたく。
「伸のプレゼント買ってないんでしょう?」
「え、ああ、そうだが」
当麻が答えると亜由美はくるりと部屋に戻ったかと思うと両手にたくさんの道具を抱えてドアをすり抜ける。
「今からカード書こうと思っていたから当麻もメッセージでも書き込んだら? 今年は二人で一つということで勘弁してもらったらいいし」
「サンキュ。ありがたい。そうさせてもらおうか。あとで金払うし」
「いいよ。プレゼント代は大したことないから」
亜由美が階段を下り初め当麻もその後ろについていく。
「何買ったんだ?」
「海の写真集」
「だろうと思った。お前、遼の時も写真集だったもんなぁ」
「いいじゃない。テーマカラーにそったちょうどいい写真集なんだから」
二人で軽口をたたきながら階下に降りる。
リビングのテーブルに亜由美はどさっとカードやペンをおろす。
「さて。当麻はどれがいい? よりどりみどりでっせ。お客さん」
亜由美がそれは楽しそうにいろとりどりのカードを見せる。
いつのまにそんなにためこんだのやら、と当麻が妙に感心して眺める。
「あ、あきれてるわねー。別に高価なもの集めてるんじゃないんだからいいじゃないのー。で、どれがいい?」
半分膨れながら半分楽しみながら問われて当麻は苦笑いする。
「俺にそういうセンスを求めないでくれ。カードの選択はお前に任せる」
わかった、と亜由美は言って鼻歌混じりにカードを選んでいる。
その様子がなんだかほのぼのとしていて当麻も妙にくつろいでしまう。
が、一瞬の後、って、そんな場合じゃないやんけー、と当麻は心の中で思わず叫んでしまう。
ホワイトデーのお返しという言葉が当麻の頭の中でぐるぐる回る。
「じゃ、このカードにメッセージ書くねー。ペンはどれがいい?」
またもずらっとコレクションを見せられて当麻が苦笑いする。
「俺は青でいいから。お前は好きな色使えば?」
「わかった♪」
亜由美はそう言ってカードにメッセージを書き込み出す。
相変わらず当麻が悩んでいると書き終わった亜由美がカードとペンを渡す。
「下の方空けておいたから下半分は当麻が埋めて♪」
これ以上の楽しみはないと言った具合の亜由美を見て当麻も悩むのを一旦止めて、メッセージを書き込む。とはいってもおざなりの言葉を書くぐらいしかできなかったが。メッセージの最後に名前を書いてまた亜由美に渡す。
「余白にはお前の得意なイラストでも入れておけ。俺はこれ以上の言葉は思いつかん」
照れたように当麻が言って亜由美は当麻の短いメッセージに文句を言おうとしたのを止める。
「ぶきっちょ当麻にしては上出来かもね」
「悪かったな」
当麻がぶすっとして答える。
その様子に亜由美がけらけら笑いながらイラストを描き始める。
数分もしない内に伸の似顔絵が描かれる。
「どう?」
ほんの少し不安そうに問いかける亜由美に太鼓判をおしてやる。
「上出来。上出来。お前、授業のノート落書きだらけだもんなー」
作品名:あゆと当麻~家族ごっこ 作家名:綾瀬しずか