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鋭くて温かくて賢いもの

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世界はずいぶん寒かった。前はその辺で寝転がっても平気だったのに、今では凍えて目が冴えてしまう。二本足の柔い姿は器用で細やかだけれども、外気温に対する耐久性はめっぽう低かった。
 という訳で、彼は獣の姿で過ごすようになった。
 そんな事をせずとも、こちらへ来れば、そう呼びかけてくるのは彼の「仲間」達だった。地上ならざる世界に生命ならざる者達が集い、そこは混沌としていたが「仲間」、すなわち似たような存在がそれなりに集まっていた。
 確かにそこなら楽だろう。寒くないし、何しろ仲間達は彼と同じく定まった命を持たない。そして仲間達は彼を『白澤』と呼んだ。どこから湧いた名前なのか、しかしその名は何故かしっくりと馴染んだ。確かに彼は白澤だった。呼ばれる前から白澤だった。これまでそう呼ぶ者がいなかったというだけだった。
 白澤、そこは寒いだろう、そう呼びかけてくる仲間達に背を向け彼は獣の姿で空を往く。柔い姿より不器用にはなるが、気温の寒暖に強い事と空を飛べる事がその姿の利点だ――と、彼は思っている。本当はもっとあるのだろうが、ひとまず目先の問題としてその二つが大事だった。
 そうして彼は、寒い世界の空をひたすら飛んだ。

作品名:鋭くて温かくて賢いもの 作家名:下町