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鋭くて温かくて賢いもの

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 本日休業の札がかかった極楽満月の扉を蹴り開けると、焚き火を放置して逃げた無責任な桃源郷管理人――管理神?はのんびりした表情でお茶を淹れていた。それを見て金棒をぶつける動作を途中で思いとどまる。お茶に罪は無い。今日のように研究目的で時間を設ける時、白澤は決まって質の良い茶葉を選ぶのだ。カウンターには他に仙桃と皿が並んでいる。もちろん桃にも罪は無い。
 宙を彷徨う金棒をそっと床に下ろしてから、鬼灯は店内に白澤と兎店員しかいないことに気がついた。
「おいコラ、扉元に戻せよ」
「桃太郎さんは不在なのですか?」
「今日は午後からお休み。お供の所へ行くとか言ってたけど」
「そうでしたか」
「ところで綺麗にスルーしたな、おい? 扉、元に戻せよ」
 もちろん鬼灯はその言葉もスルーし、白澤は文句を言いつつ桃と皿と果物ナイフが乗せられた大ぶりの盆をぐいと押し寄こした。
「それ、自分で剥けよ!」
 そう言い置いてガタガタと扉を直している。妙に手間取っているのは最近桃太郎にばかり任せているからだろう。ざまぁ、と口の中で呟き仙桃を手に取る。食べ頃に熟し冷えたそれは軽く刃を立てるだけでするする皮がほどけていった。
 気付けば背後は静かになっていた。全ての桃を剥き、何をしていると背後を振り向くと白澤はなにやらぼんやりと鬼灯を眺めている。
「何です、気持ち悪い」
「あ――ああ。うん、ナイフが」
「は?」
「果物ナイフが……お前結構器用だね」
「刃物の扱いは獄卒の嗜みです。それにこの桃は非常に柔らかい。誰だって剥けるでしょう」
「うん、そうだな、誰だってできるな」
 ふふ、と小さく笑うと白澤は何故か上機嫌で自分の茶器を手に取った。
「温かいねえ」
「自分で淹れたお茶でしょうが」
「別に誰が淹れたっていいんだよ。お茶は温かいし、お前は器用だし」
 それに賢い、そう心の中で付け加えられた事を鬼灯は知らない。ただ、妙に幸せそうな神様の顔を眺めるばかりだった。
作品名:鋭くて温かくて賢いもの 作家名:下町