What's the name of the Game
ああ、またあの時の夢か――――
…わんわんと子供が耳元で泣いている。頼むから泣かないでくれと思うのは、優しさでもなんでもなく、傷口に響いてたまらない気持ちがするからだ。しかしだからといって恫喝など出来るものではなかった。子供は守るべき相手に含まれていて、その時の自分の役目は身辺警護だったからだ。どの道、凄む気力もなかったのだが。
「ごめんね、ごめんねぇ」
顔をぐしゃぐしゃにして、小さな子供はぼろぼろと涙を流しながら泣いている。小さな手が自分の血に汚れてしまったジャケットを握るに至り、ああ、外させなくてはとぼんやり思っていた。子供の白いふっくらとした手に、赤黒い血の汚れなど不似合いなことこの上ない。
「…だいじょうぶ」
腹を撃たれて意識が朦朧としかけていたのだが、それでも、その時自分はどうにか笑って見せたものだ。いつでもそのことを思い出すと、私もなかなかやるな、と変な風に思ってしまう。
大きな金色の目が――そう、その子供は金色の瞳をしていた――丸々と見開かれて、ほんとう?と一途に見つめてきていた。本当なわけがあるか、と内心思ったかどうか。
「ああ、…だいじょうぶだ」
ごほ、と咳き込んだらちっとも乾いていない瞳の淵にまた涙が滲んだ。
「しんじゃうの?!おにいちゃん、しんじゃうの?!」
勝手に殺すな、と舌打ちしたかったが、まだ幼いばかりの子供にはこちらの真意など通じはしなかっただろう。
「あの、あのね、なんでも、なんでもするから、しんじゃだめだよ!」
まあ、急所はかろうじて外れていた。だからもしかしたら、そんなことを考える余裕があったのかもしれないが…、いや、もしかしたら逆に、本当に死ぬ寸前でそんな馬鹿なことを言った可能性も否定は出来ないが。
――子供は大きな目をして、さらさらの金髪に、細っこい白い手足をしていた。髪は幾分長めで、男とも女ともわからなかった。いや。女の子だと思った。確かにちょっと目はつり気味だったが、愛らしい顔をしていて、将来はどんな美人になるだろうかと思ったのだ。口をついたのは、だからこその軽口で。
「…じゃあ、髪を伸ばして」
「…かみのけ…?」
見事な金髪の子供だった。育った時にそれが長く艶やかに流れていたらさぞかし麗しいことだろう、そう思ったのだ。
「ああ。…髪が長い方が、好きだから」
「…かみ、のばす!ながくするね!だから…」
子供はこくこくと頷いた。子供なりに必死なのだろう。
しかしこの先はさすがに記憶が曖昧なのだ。出血量が多く、意識を保てていたのがそこまでだったから――。
作品名:What's the name of the Game 作家名:スサ