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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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わたしにとって、あなたにとって

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 数刻後、ロザリアに言われた通りに黙々と執務をこなすオスカーのもとへ、ルヴァが訪れた。
「失礼しますよー。おや、随分と熱心に」
「ああ、補佐官殿のご機嫌を取り損ねてな。適当にかけてくれ。紅茶でもいいか?」
「いえいえお構いなく。お忙しいところにすみませんねえ、出直してきましょうか」
「少し休憩をしようと思っていたところだから気にしなくていい」
 そう言って女官にカプチーノと紅茶を持ってくるよう指示を出して思い切り背伸びをするオスカー。
「昨日はありがとうございました。陛下のほうもすっかりお元気でしたから、そのご報告にね」
 そう言って持参した手土産を手渡した。
「一時はどうなるかと思ったが、無事解決して良かったな。ソリテアの再来でなかったのが幸いだ」
「……ほんの少し間違えていたら、再来になっていたと思いますよ」
 ふとルヴァの顔から笑みが消えたのを見て、オスカーが眉をしかめて僅かに険しい表情になる。
「……どういうことだ?」
「アンスタンは我々に害を為そうとしてはいないと言いながら、アンジェリークをパライソ、天国へ連れて行くつもりだったと言っていました。もし私があのひとを見限ったり諦めていたならば、彼の思惑通りになっていたんでしょう」
 ルヴァはあの時点で既に含まれた矛盾に気付いていた。
 アンスタンが大人しく引き下がり仲を取り持つような働きをしたのは、二人を引き離せないと早々に知ったからではないかとルヴァは考えている。
 彼の行動原理はあくまでも愛するアンジェリークのためであり、それ以外の理由が見つからない。もしもレゾン<理性>には託せないと判断されていたらと思うと恐ろしかった。
「私か彼女のどちらか、あるいは両方の強い絶望が孤独を呼び覚まし……器はソリテアに任せ、中身はアンスタンが連れて行く。そうできる可能性は十二分にありました」
「なるほど、それなら確かに『アンスタンは』害を為すことはしていないな。やったのはソリテアだと言える……」
 オスカーは実に嫌そうにルヴァを見た。
「ジュリアスのときですらあの被害でしたから、仮に陛下の心の隙をつかれたとしたら────」
「宇宙総てが吹っ飛ぶだろうな……」
 強さと共に慈愛で総てを包み込む繊細さも併せ持つ性質上、女王が孤高を求められるのはこのためでもある。
 心が大きく乱されてしまう恋愛ごとは、時としてその精神に大きなダメージをもたらすからだ。
「ソリテアが偶然女王陛下の庇護が弱まった時期に力をつけたからといって今脅威がないとは言い切れませんし、守護聖共々みな同じ聖地で暮らしている以上、女王陛下や補佐官が狙われない保証はどこにもないですからね」
 出された紅茶とカプチーノにそれぞれ口をつけながら、二人の話は続く。
「だが結局俺たちが取れる対策は、せいぜい前向きに生きること、くらいか」
「それについては、陛下がいいことを言っていましたよ。『どっかに捨ててもどうせどこかで化けちゃうんだから、全部認めちゃうのが一番。ポイ捨て厳禁』ってね」
 陛下の口調をしっかり真似た言い方に、オスカーは飲みかけのカプチーノを噴き出しそうになる。
「いいタイミングで言うなよ、おい……」
「何にせよ陛下の言う通り、どんな感情も全てひっくるめて認めてしまうのが唯一にして最大の解決策なのかもしれませんね」


 それから────
 女王と地の守護聖は再び蜜月のときを取り戻し、聖地の至る場所で仲良く寄り添う二人の姿が見られた。
 彼女が伝統を大切にしながらも悪しき因習は少しずつ改革してきたことが功を奏していたのもあり、女王と守護聖の恋は人々から暖かく見守られた。
 二人の所持品には何故か勿忘草を象ったものが増えたが、その理由はマスメディアにも一切明かされることはなかったものの、二人の恋の象徴として広く認知されるようになったという。