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高見塚。会長どもが、夢の後……

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「ん……」
 訂正。暗がりで表情がわからなかったのではなく、はじめから、眉のひとつも動かしてくれてはいなかった。それでも、やっぱり呼ばれていたんだなって思えてしまうのは、時間と教育の賜物なのか、はたまためでたい思い込みなのか。

「お疲れ様、会長」
「ありがと、元会長」
 相変わらず俺の質問に答える気はないようで、代わりに、小さく息を吐くように労いの言葉をくれる。そして、深い息継ぎの後に、
「で?」
「……で?」
「あんたこそ、こんなところで何やってるのよ」
 しっかり耳に届いた上で無視された質問を、そっくり返される。
「なんだと思う?」
「さあ」

 答えのないなぞなぞに、 考える気のない即答。答えがないのなら、都合の良い答えを作ってしまえば良いわけで。
「生徒会長が堂々と職務放棄っていうのは、褒められないわね」
 どこか面白くなさそうな顔を浮かべた、きっと素直になれない人に、ひどく単純で、幼稚で、当たり前の感情が、湧き上がる。
「ん〜、そうなんだけどさ」
「会長が行かなくてどうするのよ」
 煮え切らない“会長”を叱責する“元会長”の、もってまわった含みに満ちた表情がひどく愛おしくて。
「いや。でも、俺が行っても誰も喜ばないぞ」
 おとなげないほどに一人称に力がこもるのは、去年、群がる者たちに、困ったようなはにかみと社交辞令を大盤振る舞いして喜ばせていた元会長の、俺としてはかなり面白くなかった光景への、ちょっとした意趣返し。
 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、
「あんたって、結構人気あるんだよ? 3年にもあんたを気にしてる子、ちらほらいるし」
 他の誰にも見せない、悪趣味で、それでいて綺麗な笑顔をまとってそんなことを言うものだから……
「たとえば、こことか?」
 つい、おふざけが過ぎる。
「ま、ね」
 拍子抜けしてしまうほどに、そっけなく、あっさりと、そして素直に嬉しいことを返された俺としては、
「ん。じゃあここでいいや」
 ただ元会長の思いのままに手のひらで踊りたいから、そう言う他ない。

「会長のくせに」
「だったら会長命令。全校生徒参加なので、浅倉先輩も来てください」
「やーよ」
「なら、俺もやだ」
「……会長のくせに」

 同じ言葉を繰り返した、俺の永遠の会長の顔が、ほんの少し、遠くのキャンプファイヤーの朱に当てられたように、ほぅっと、ほころぶ。
「会長命令。俺と踊ってくれませんか、奈緒子」
「………」
「会長命令は絶対だろ。横暴な前会長から身を以て教わったぞ」
「あんたね……余計なことばっかり覚えなくていいの」
 わざとらしく呆れて言いながらも、俺の手の上に、柔らかい手のひらを合わせてくれる。
「院政って知ってるでしょ? 首がすげかわろうとも実権は」
 まだ言ってる。手と体重を預けてきたところで、本当、いつまでも言葉だけは意地っ張りな、大切な人。
「余計なことって、こうやったらおとなしくなってくれることとか?」
「……馬鹿」
 その言葉を最後に、寄り添う影はそっと重なって。
 遠くの喧騒の中で赤く揺れる炎に負けじと、熱く、静かに、想いをくゆらせる。

-Fin-