家路
職業柄毎週というわけにはいかないが、たまにこうして、外出許可をとって比較的年齢の高いメンバーで飲みに出歩くことがある。そのためにつけた名目は、給料日だったか、公演の壮行会だったか、舞を一曲完成させただったか、盆栽が花をつけただったか……復路ではすでに覚えていないし、気に留める必要もない。どうせ、くだらない理由だったのだ。
あるいは、意味のない理由で集まるということ自体が、非常に大きな目的なのかもしれない。
「かえでさん、かえでさん、起きてください。もう閉店です」
「う〜……ん……も、ちょっと〜……」
右手にお猪口を握りしめたまま机に突っ伏した女性は、揺すり起こす手を鬱陶しがるようにそっぽ向いたのを最後に、微動だにしない。引きずり剥がせば抵抗なく起き上がるであろう体は、自らの意志で動くことを放棄してしまった。
「マリア、無駄よ。お酒を飲んで眠ったこの子が目を覚ました試しなんてないもの」
とんだ大荷物ができちゃったわねと、会計を終えて席に戻ったあやめは大袈裟な困り顔を浮かべ、笑う。
「はあ……」
「まったく。強くもないのに浴びるように飲むんだから」
「……あやめさんの基準で語るのもどうかと思いますが」
いつも酔い潰れている姿ばかりを見るが、決して酒に弱いわけではない。ただ、飲む量とスピード、そして今宵の相伴相手の強さが尋常じゃないだけなのだ。
「マリア。悪いんだけど、介助してくれない?」
あやめはかえでが座る椅子の横にしゃがみこみ、その背に妹を乗せるよう促す。いつもは和装が多いあやめが珍しく洋装でいるところを見ると、今朝身支度を整えた段階から、このような展開は予測済みだったのかもしれない。
「いえ、私が背負います」
「でも」
最初から、泥酔した妹をおぶって帰るつもりだったのだろう。
「今日、私はあまり飲んでいませんし、身長も私のほうがありますから」
それでも、備えは徒労に終わるほうがいい。
「そう? それなら任せてもいいかしら」