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あんたならどうする

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門田京平が
振動した携帯の画面を見るなり
軽く溜め息をついたのはそれが
何の因果か最近やたらと
自分に懐いている隣県の
所謂族のリーダーである年下の
ただの知り合いと言うには
あまりに何やかや在りすぎて
そのついでのように襲われたのを逆手にとって
まぁ言うなれば
身体の関係までできてしまった
恋人(六条千景談)未満な
困った相手
だったからだった

いっそこのまま仕事中のフリで
留守電設定にしてやろうか、と
ふと心を過ぎった考えに
それでも首を横に振り

「何だ。」


通話ボタンを押したのは
門田京平と言う男の生来の誠実さ故に
他ならない


『何だじゃねぇじゃん。おっさん久しぶりぃ!』
「俺はおっさんじゃねぇ。何度も言わせんな。」
『じゃあ京平。』
「…お前に名前呼びされる程の長い付き合いじゃねぇはずだが?」
『わぁ酷ぇ。俺んコトこましといてその言い草は無いんじゃね?』
「あれは襲って来たお前が悪いだろ。自業自得って奴だ。」
『けど、おっさんだってイイ思いしたんじゃん?』
「お前もだろ。」
『まぁそりゃ確かに。なぁおっさん、今度ヤり方教えろよ?
俺あんだけのテクまだ無ぇもんよぉ。』
「…何の話だ。」
『だってさぁ、どうせヤんなら気持ち良くしてやりてぇじゃん?
今度あんたとヤる時は俺が上になるワケだしさぁ。』
「…安心しろ。永遠にそんな機会はねぇから。」
『え、何言ってんだよ。今度は俺が上だから。』
「そもそも今度が無いって言ってんだ馬鹿!」

堪忍袋の緒が切れて怒鳴った門田が説教モードになる

「大体お前、何が久しぶりだ?!昨日も一昨日も
電話して来やがっただろ?!」

俺は社会人だガキと一緒にすんじゃねぇ
社会人舐めてんのかお前
とひとしきり説教する門田だが
そのくせこうして
時間の許す限り律儀に相手してやるから
相手が懐いて仕方無いのだと言う事に
彼は自分で気付いていない

『えぇ〜?だって俺のハニー達にはもっとずぅっと俺、
マメに連絡すんぜ?』
「言っておくが、俺はお前のハニーじゃねぇ。」
『わーってるって。だから電話も1日一回って
決めて我慢してんじゃんか。』

ったくもー俺凄ぇ健気
可哀想になんねぇ?
と電話口の向こうで言う相手に
門田京平は思わずまた嘆息して
ニット帽を取って頭をかく

「…あのなぁ。…お前だって暇じゃねぇんだろ?」
『当たり前じゃん。ヘッドだしハニー達は両手両足に一杯だしよ?』
「だったら俺に油売ってねぇで自分の事に専念してろ。」
『でもあんたの声聞きてぇもん。』
「だから何で俺なんだ?」
『さぁ?知らね。』


けど
あんたの声聞きてぇ
あんたと喋ってんの好きだし

ホントは

『会ってタイマン張れれば一番いいんだけどよ。埼玉とソッチじゃ
便利ったって往復2時間くれぇかかっとなかなか時間取れねぇし。』
「俺は別にお前とタイマン張りたかねぇがな。」
『えぇ?ナンでだよぉ?』
「もうヤンチャなんぞやりたかねぇんでな。」
『わぁ、やっぱおっさんじゃんか。』
「放っとけ。」
『ヤりゃあまだまだあんただってイケるのにな。』
「・・・お前との会話は疲れるな。」
『えぇ〜?俺は楽しいぜ?』
「俺は疲れる。」

こちらが疲れると言っているのに
何故か
電話口の向こうでケラケラ楽しげに笑う相手の
そうやって笑うとふいに幼くなる顔を
思い浮かべて
門田京平は少しだけ口元が緩む

だが時計を見れば
もう少しで仕事の時間だ

もう少し構ってやってもいいのだが

惜しむ気持ちが何処かにある事を
門田京平は気付かずに
何故か相手に申し訳ないような気持ちになって
早口になる

「あぁ悪ィ。仕事の時間が来ちまうから」

もう切るぞ

言うと電話口の向こうで

『そうだ!』


相手の声がする

『なぁおっさん、聞いたぜ?』
「んん?何をだ?」
『ソレ言いたくて電話したのに忘れるとこだったぜ。』
「だから何をだ?」
『聞いたんだよ、おっさんとこのハニーの』

絵理華ちゃんからさぁ

言う声に
門田京平は耳を疑う

「は?お前、狩沢と連絡取ってんのか?」

そんな事は初耳だと
門田はいつも
遊馬崎と一緒に
何かと自分の周辺に居ることの多い仲間の
紅一点の狩沢の顔を思い浮かべる

『あぁ。あれ知らなかったのおっさん?』
「知るか。お前らに接点あると思わねぇよ普通。」
『甘いなぁ。全てのハニーは俺に通じるんだぜ。』
「言ってろ勝手に。もう切るぞ。」
『なぁ待ってって!』

おっさん




『こないだ、人撥ねろつったんだってなぁ?』
「あ?」




一瞬
何を言われているのか
門田は理解できず

ほらぁ
こないださぁ
高校生の女の子
切り裂き魔から救ってやったんだろ

相手に言われるまで
その事を思い出せなかった

「あぁ・・・あの時か。」
『絵理華ちゃん、偉い格好良かったって言ってたぜぇ?』

ろっちーにも
見せてあげたかったなぁ
ってさ

『凄ぇクールで格好良くて絶対惚れ直す!!ってよ。』
「そうか。・・・って、お前、まさか狩沢に」
『あぁ?ハニーちゃんは最初から知ってたってさぁ。』
「はぁぁ?!」
『いきなし言われたもんよぉ。ろっちーってドタチンの事』

好きだよね
って

『やっぱ女の子は鋭いよなぁ。』
「というかそこで何故否定しないんだお前は?!」
『なんでよ?言ってんじゃん。俺あんた』




好きだもん




門田は
そのあっけらかんとした言葉を
一瞬息を止めて受け止めてから
ほうっと
嘆息して
そして

笑う



「・・・お前つくづく」

ワケ解んねぇガキだな


『んん?俺ハニーには解り易いって言われるぜ?』
「はは。そうだな。解り易い。」
『はぁ?どっちだよ?』
「どっちもだ。とりあえずバカだな。」
『何だよぉそれぇ。まぁいいや。つかさ、おっさん』

あんたもし

『俺が女の子襲おうとしてたらさ、どうする?』
「ありえんな。お前女には目がないだろうが。」
『だから。もし、だよ、もし、つったろ?』

もし俺が
襲いかかってたら
あんた

『俺を撥ねるかよ?』
「あぁ。当然だ。」

それにお前なら



「俺が車で突っ込んでっても」



避けるだろ

言われた声を聞いて



埼玉で
携帯を耳に当てていた口元が
ニヤリと笑う



『・・・当然だろ。』



ヤられる俺じゃねぇもん

言う声に
俺にヤられたくせによく言うぜと
笑いを含んだ声が
受話器から聞こえる

あぁ
こいつ今
あの優しげな顔して笑ってやがんなと
六条千景はニッと笑って

「撥ねろ」と

何の躊躇もなく言ったというその男の
強さを思い出して
くっ、と
楽しげに笑いを咬み殺す

なぁおっさん
また
来週ソッチ会いに行くわ

一方的に言って切る電話

ちょっ
お前待てこら

怒鳴る声が聞こえたが
プツリと電源を切って

今頃
溜息をついているだろう渋い顔を
思い浮かべると



「・・・会いてぇ。」



ポイと
ベッドの上へ放り出した携帯
すると狙い澄ませたように
その横に何台か置いてある別の携帯の一つが
ブルルブルルと震え出す

ハイハイ

何だいハニー?

作品名:あんたならどうする 作家名:cotton