ヘレナ冒険録
[夢見る冒険家] 『エレナ姉の、反対を押し切ってついに家を出る。私は自分の信念に、やりたいことに嘘はつけない。必ずモンタナを超える冒険者になることを誓い、今日から冒険家ヘレナを名乗ることにする』
~数時間前~
「ちょっと待ちなさい、ヘレナ! あなた一人じゃ危ないって、何度言えばわかるの?!」
「大丈夫よ、エレナ姉。この日のために銃の扱いだって習ったし、サバイバル術だって身につけたわ」
まだやってるのかね、あの二人は。ヘレナはもう決心ついてるんだから、温かく見送ってやればいいのに。ま、心配するエレナの気持ちもわからなくはないがね。だからこそ、吾輩をそっとリュックに忍ばせたのであろう。あ、申し遅れましたな。吾輩、水晶ドクロの……名前は自分でも忘れてしまったのだが、世間では【神秘のスカル】と呼んでいるらしい。好きに呼んでいただければ結構。ま、吾輩のことなぞどうでもいい。
「そういう問題じゃないの! モンスターだって最近活発化してるっていうし、あなたは戦士でも魔道士でもないのよ! 素人が少しかじった程度の銃術で、渡り合えるわけないわ!」
「それぐらい、私にもわかってる。でも勘の良さなら、誰にも負けないわ。逃げたり隠れたりは私の十八番(おはこ)。だから……心配しないで」
吾輩はこの姉妹が小さい頃から見てきた。見事に逆転したものだ。姉のエレナは活発でよく外を走り回ってたのに、妹のヘレナは臆病で、本ばかり読んでちっとも外に出ようとしなかった。確か、そんなヘレナが冒険家を目指すきっかけになったのは……。
「なんでそうまでしてあなたは冒険家になろうとするの?! 私と一緒に――」
「エレナ姉! 忘れちゃったの? あの時の約束……」
「約束……?」
「もういい! 私は絶対にモンタナを超えるんだから!」
おっとと、吾輩がリュックに入ってるの知らないからって、もうちょっと優しく扱ってほしいものだ。ともあれ、やっと出発だな。エレナよ、心配しなくてもいい。君の妹はきっと無事にまた、この家に帰ってくる。本当の意味で、強い子なのだ。ヘレナはきっと、約束を果たす。その君への想いが、なにより彼女を強くしているのだ。それにま、吾輩もついているしな。