ヘレナ冒険録
[秘密の施設] 『初めて目の当たりにした緑魔法。自分が強化され、相手が弱体化されることで、とてつもなく強くなったように感じてしまう。これで今まで行けそうになかったところもきっと、たどり着くことができる。いよいよ魔道士国家ミシディア。どんなロマンが待っているのだろう』
「はあ……着いたわ。あれがミシディアね」
「お疲れさまー」
ヘレナよ、まさかグランシェルトからミシディアまでまた手漕ぎボートとは……。マリーめ、まったく無茶をさせてくれたものだ。
「ヘレナちゃん、あの川を上っていけば目的のお城はもうすぐだよっ! さあ、元気出して行こっ!」
「ねえ、マリーちゃん。あなたの緑魔法のおかげで確かにすごく早く着いたけど、ミシディアまでは船で来た方がよかったんじゃ……」
「それじゃ、ヘレナちゃんの強化した姿が見れないでしょ? ボクはもっと見たいんだ。人間がどこまで強くなれるのかを……」
「ん? よく聞こえなかったけど……」
「えへへへへ……。気にしない気にしないっ! さっ、どんどん行くよー!」
どうも気になるな。このマリーの異常なまでの元気さ。いや、女の子は元気な方が良いのはわかっているが、元気過ぎる。ここまでほとんど寝ていないし、それに彼女が時折見せる暗い影。ヘレナは気づいていないようだが、何かあるな。
「ところでさ、さすがにちょっと疲れたし、ミシディアの町に行って少し休まない?」
「うーん……。あんなとこ、行っても休まらないよっ! それより、キミが向かうお城にはすっごいお宝があるんだよ! そっちが気にならない?」
「お宝!? うーん……。ロマンの匂いがするわ! すぐに行くしかないわね」
「えへへへへ……。そうこなくっちゃ!」
おお! ヘレナよ。ここにきてさらに加速するとは、君の冒険にかける情熱は底なしだな。さすが、吾輩が見込んだけはある。無理はしないでほしいが、君の勢いは止めることはできない。さらなるロマンを求めて、先に進もう。
「いよいよ到着ね! 早速、探検開始だわ」
一見すると、ただの廃城のように見えるが……。今でこそミシディアは魔道士だけで国家が成り立っているようが、かつては王族の支配もあったということだろうか。それとも……。
「待って、ヘレナちゃん。ボクの手を握って!」
「え……? どうしたの、急に」
「いいからっ! 早く!」
おいおい、いくら吾輩の存在に気づいていないとはいえ、うら若い女性二人でそんなにくっついて、見つめ合って……。
!!?
マリーよ、君はもしかして……。いかん、いかんぞ!
「あ……れ? ここはいったい……」
「ふぅ……。ここがこのお城の真の姿だよっ!」
……。おっほん。いや、別に吾輩は変な想像をしていたわけではないぞ。いや、仮にしていたとしても、あんなに見つめ合ってくっついていたのだから、仕方ないだろう? そうだ。吾輩は決して……。そ、そんなことよりここは!?
「これは……お城というより、何かの研究施設?」
「表向きは、クリスタルを守護するお城ってことになってるみたいだよ! ボクはクリスタルなんて興味ないし、ヘレナちゃんもきっとこっちの方が喜んでもらえると思うんだ!」
「この資料は……『緑魔法における身体能力値上昇による影響』。こっちは……『エレメント操作によるダメージ倍率考察について』……これって、全部緑魔法の研究資料?」
どうやら空間転移したようだが、城の内部だろうか。表向きは廃城のように見えたが、ここはまったく別物だ。いまだ使われている形跡がある。