ヘレナ冒険録
[緑魔法] 『まずはランゼルト大陸の一番の港、グランポートに無事到着。我ながら、よく手漕ぎボートで来れたと思う。到着してすぐに宿屋に直行したかったが、変わった少女に声をかけられる。緑魔道士とは……?』
「ちょ、ちょっと待って……。ええと……」
「マリーちゃんです!」
うーむ。自分でちゃんづけするあたり、普通ではなさそうだ。それに緑魔道士……?
「マリー……ちゃん。申し訳ないんだけど、緑魔道士って私、聞いたことなくて。どういう魔法を使うの?」
「ヘレナちゃん! ボクは極・限・緑魔道士だよ! ただの緑魔道士じゃないんだからね!」
「そ、そうなんだ。極限ってなんだかすごそうだね。それで、どういう緑魔法を使うの?」
「わかる? やっぱりわかっちゃう!? ボクの目に狂いはなかったようだねっ! そんなに知りたい? 教えてほしい?」
なんだか楽しそうだな、マリーちゃん。……っておっと、吾輩までつられてちゃんづけになってしまった。いかんいかん。
「うん。興味はあるかな。私、今まで魔法は黒と白だけだと思ってたから」
「それなんだよねー! そもそも魔法の原理って……」
ん? 急にぴたっと動きが止まったぞ。
「こんな説明聞いてもおもしろくないよねー! ヘレナちゃん、町の外に行こう! 百聞は一見に如かず、ってね!」
「ま、待って!」
本当にパワフルな少女だ。ヘレナよ、休息はまだもう少し先になりそうだな。
「えへへへへ……。モンスターくん発見! さっ、ヘレナちゃん! バトルだよ!」
「えっと、もしかして戦うのは、私……?」
「もっちろん! ほらほら、ボクが緑魔法で援護するから、戦って戦って!」
なるほど、緑魔法が何なのか、察しがついてきたぞ。
「うう、戦闘は得意じゃないのに……。でも私が興味あるって言ったんだもん、仕方ないわね!」
「それじゃー、いっくよー! モンスターくんに、《デプロテ》! ヘレナちゃんに《ブレイブ》!」
これは……! 魔道士の中でも上位の者しかできないと言われている【連続魔】ではないか。どうやら極限、というのもあながち間違っていないようだな。
「え……? なに? 力が湧いてくるみたい」
「ヘレナちゃん、みたいじゃなくて、湧いてきてるんだよー! そのままいつも通り攻撃してみてー!」
「うん! わかった!」
なんと、いくらこのあたりの魔物が強くないとはいえ、ヘレナの一撃だけで倒すことができるとは……。やはり、思った通り……。
「どう? これが緑魔法だよ!」
「私が強くなってるの? ううん、魔物が弱くなってる……?」
「両方だよ! モンスターくんを弱くして、ヘレナちゃんを強くしたんだ! えへへへへ……。気持ちいいでしょ!?」
「うん! こんなの初めての感覚……。これが、緑魔法なのね」
「その通りっ! このボクがいれば、キミは最強の戦士になれるんだ。まだまだ、こんなもんじゃないよ……」
ん? 今一瞬だが、マリーの目の色が変わったような気がしたが……。気のせいか?
それにしても支援系の魔法、か。かつて支援系の魔法は白魔法の分類だったと思うが、今の時代では緑魔法と呼ばれておるのか。だがマリーよ、ヘレナは冒険家だ。
「私は戦士にはならないけどね。でも、ロマンのためには強さも必要だわ。マリーちゃん、それじゃ、しばらくよろしくね!」
「えへへへへ……。こちらこそっ! こんなのは全然極限じゃないけどね……。これからどんな強化ができるか、楽しみだよ、ヘレナちゃん」
本当に嬉しそうだな。しかし、ここまで他人の強化を喜ぶ魔道士とは……。今まで聞いたことがないが、それでもヘレナの一人旅よりはずっと心強い。またしばらく吾輩も、おとなしく見ていられそうだ。