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Theobroma ――南の島で1

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 ああ、確か、日本人の新しい雇い主がいたか。だが、論外だ。彼のことを話したくもない。あいつは、彼と揉めていた相手だ。
 あの、怒りを滲ませた声でしていた電話の相手だ。
 そんな奴に訊く気にもならない。
「アーチャー、どうした?」
 サグに声をかけられるが、答えることができない。
(本当に、オレはどうしてしまったのか?)
 彼を追い出す話にオレは乗って、そのために色々な手を打っていたはずだ。だが、彼とともに島で過ごして、オレはなぜか、彼を追い出すことが嫌になりつつあった。
 ほだされたのか、と誰かが訊いた。それにオレは違うと答えた。
 だが、確かにほだされたのかもしれない。彼の真っ直ぐな琥珀色の瞳があまりにも素直で、真摯で、彼の話す情熱的なカカオマスの話が、あまりにも崇高な夢に思えて……。
 オレは、何か大事なものを見落としていなかっただろうか。
 彼の話す言葉の端々には、その夢とこの島の未来への布石が、宝となる原石が山ほど散りばめられていたのではないだろうか……?
「シロウ……」
 小さくなる船を見送る。
(オレは、悔いているのか……?)
 十年前と同じに、オレはまた、と……。
 オレの後悔は、やがて大きな仕打ちとして、島へ返ってくることになった。


Theobroma ――南の島で1 了(2016/11/28)
作品名:Theobroma ――南の島で1 作家名:さやけ