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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~Memory2

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ただ、彼女が幸せを感じてくれたらそれでよかった。つらい思いから解放されたらと心の底から願った。
亜由美の本当の素顔は傷つきやすい繊細なところだ。その上に子供の亜由美と大人の亜由美が微妙なバランスを保っている。ちょうど中間がすっぽり抜けてしまっているかのようだ。そしてはかなげな笑みを浮かべたかと思うと人なつっこい笑みを浮かべる。表情がくるくるかわる。それはさしずめ猫。幼い子猫だ。
そうしているうちに当麻の体の奥から亜由美との思い出がひとつ、またひとつと思い出されていく。それはジクソーパズルのピースみたいだった。
ひとつひとつは何も意味も持たない。だが、それがやがて大きな意味を持つであろう事は容易にわかった。
ただ、記憶が戻りつつあることは言わなかった。戻ったらそれでよし、戻らねば戻らない状態で未来を歩まねばならない。うかつに言い出してぬか喜びさせる気は毛頭なかった。

そしてある朝、起きれば断片は形をとっていた。ピースはひとつ残らず、はまっていた。

同室の征士はすでに起きている。
が、それ以外はまだらしい。
当麻はそっと部屋を出ると亜由美と迦遊羅の休んでいる部屋にいった。静かにドアを開け、迦遊羅を起こさないように亜由美のベッドの脇に腰掛ける。
「こら、あゆ」
と言って当麻は眠っている亜由美の鼻をつまんだ。
ふいに息苦しさを感じて亜由美は目を開けた。
当麻が優しく見下ろしている。
「お前、あれほど一人で抱えるなっていっていたのに抱えたな。おまけに姿を消すだと? そんなことこの俺が承知せん。いいか、お前は自分を捨てないで俺と一緒になるんだ。いいな。kitten」
二人だけにしか分からない秘密の言葉に亜由美は目を見張った。
悪かった、と当麻が言い終わらないか終わらないうちに亜由美は当麻の胸に飛びこんでいた。
しゃくりあげる。
「お前は、ほんっとに馬鹿だよ」
そういって抱きしめる。
亜由美が泣きじゃくる間、当麻はわるかった、と愛している、をずっと繰り返した。亜由美は記憶喪失は神様がくれた休憩時間だといった。きっと亜由美との思い出を大切にさせるために与えられた試練なのだろうと当麻は思った。

人騒がせな記憶喪失。二度あることは三度ある、という。
他の誰かが、汚染(うつ)されなかったらいいが、と当麻はひとりごちた。

FIN


作品名:あゆと当麻~Memory2 作家名:綾瀬しずか