同調率99%の少女(11) - 鎮守府Aの物語
その一言に三千花がやや引き気味で那美恵に向かって呟きそして詰め寄った。
「あんた……彼女に何したの? てか何見てるのよ!?」
「誤解だぁ〜。ただ鎮守府で着替えてる時に見てただけなんだよぉ〜。」
弁解をする那美恵を三千花はおでこを指で押しながら問い詰める。
「なみえのことだから見ただけじゃ終わらないでしょ。何したの?」
両手を目の前でブンブン振って否定する那美恵に対して疑いの視線を返す三千花。那美恵が次に言うセリフにまたも引くことになる。
「さっちゃんに対しては何もしてないよ。流留ちゃんは胸大きかったので思わずおっぱいにズームインしてしまいました、はい。」
カメラで覗きこむような感じで那美恵は流留の代わりに三千花の胸を凝視した。
「……あんたは……。」
三千花が呆れ顔で力なくツッコむと、向かいの席にいた流留が少し頬を赤らめて那美恵たちの方を見ていた。那美恵の声が大きかったので普通に聞こえていたのだ。さらに窓際にいた三戸もなぜか顔を赤らめていた。彼は気まずそうに那美恵と流留に視線を行ったり来たりさせている。
「なみえさーん?いくらあたしとはいえ男子のいる前で自分の胸の話されると恥ずかしすぎて嫌なんですけどぉ〜!?」
「ア、アハハ……そーだよねぇ〜。」
「まったくもう!なみえはへんなとこ無神経だよね! そういうところこれから気をつけなさいよ?」
「はーい……気をつけます。」
流留の代わりに那美恵を叱責した三千花は軽いチョップを当ててその場を締めた。
なお三戸は那美恵の発言を反芻しようとして流留にキッと睨まれて咎められた。女子同士のそういう開けっぴろげな話に慣れてはいない流留。男子とそういうネタ話をするほど心許してベッタリしていたわけでもなく、三戸にそういう目で見られたら今後どうしていいかわからないのだった。
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20分少々那美恵たちが生徒会室でしゃべっていると、那美恵の携帯にメールが来た。阿賀奈からだ。
「お、四ツ原先生からだ〜。なになに?出られる準備できたけどどこかで集まるの?だってさ。ここに来てもらっていいよね?」
「いいけど、職員室は1階でしょ?だったら私達がここ出て下駄箱に行けばいいんじゃない?同じフロアなんだし。」
「そーだね。じゃあこっちから行くって伝えとく。」
那美恵が一旦提案するが、それを三千花が現在の状況を踏まえて対案を出す。那美恵はそれに従うことにした。那美恵がメールを送信し終えたことを三千花らに伝えると、それぞれ出る準備をし始めた。
「よっし。じゃあいこっか。」
那美恵の一言で6人は生徒会室から廊下に移動し那美恵が鍵をかけたのを見たのち、1Fにある下駄箱へと向かった。下駄箱に着くと、職員用の下駄箱の側に阿賀奈が立っていた。那美恵たちをその場で待っていたのだ。
「あ、来た来た。光主さん!みんな!」
「先生、お待たせしました〜。」
「この7人で行くのね?」
「はい。」
「じゃあ光主さん、鎮守府まで案内してね!」
那美恵と阿賀奈のやりとりを確認すると、途中で他のメンツは先に下駄箱まで移動して靴を履いて校庭へと出始めた。ほんの少し遅れて那美恵と阿賀奈も校庭へと出て残りの5人の集まっている場所へと姿を表す。
高校から駅までそれぞれ思い思いの会話をしながらの道中。三千花は那美恵に着任式のスケジュールを確認した。
「ねぇ、着任式って今日の何時から?」
「えーっとね。えーっとぉ……」
「14時からだよ!」
那美恵が答える前に答えたのは阿賀奈だ。
「先生ちゃーんと覚えてるんだから、ね?」
「さすがですねー先生。あたし時間のことはすっかりど忘れしてましたよ〜。」
「先生に感謝しなさいよね、なみえ。」
阿賀奈が先生らしいところを見せようと発言し、那美恵が本気が嘘か判別しづらいボケをかまし、最後に三千花が親友にツッコミを入れる。
そんな光景が展開されているその後ろでは、1年生組の4人がしゃべっている。三戸と流留は最近のゲームの話題を明るく弾むような口調でやりとりし、和子と幸は身の回りの雑多な話題をひそやかな声と口調で穏やかにしゃべりあっていた。
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のんびり歩いて駅についたのは13時。電車に乗っている時間ととなり町の駅から鎮守府Aまでの徒歩の時間を合わせると30分程度かかる。そのためお昼を食べるにはもう早くはないが、遅すぎるという時間でもない。絶妙な時間だ。
「みんな、お昼どうしよっか?」那美恵が全員に聞いた。
「あー。なんだかんだでもうこんな時間ですよね。どっかで食べていきます?」
流留が真っ先に提案した。
「とりあえず提督にお昼適当にするって連絡しておくね。」
そう那美恵は言って提督に向けてメールを送った。
一行はちょうど来る頃だった電車に乗り込み、のんびりと揺られていく。途中で那美恵の携帯に通知が届いた。那美恵はバッグの外ポケットから携帯電話を取り出してスクリーンを見ると、提督からのメールだった。
「あ、うーんとね。みんないいかな?」
「どうしたの?」
隣にいた三千花が那美恵の声に振り向いた。
「あのね。着任式が終わったら、鎮守府に所属する艦娘全員揃って懇親会するらしいから、お腹すかせて来いだって。提督からのメール。」
「西脇さん太っ腹ね。じゃあお昼は食べないでも大丈夫なのかな?」と三千花。
「へぇ〜艦娘みんな揃うんですね。楽しみだなぁ〜。」
流留は素直な期待を述べる。それに賛同するかのように幸もコクリと頷く。
「全員! ということは夕立ちゃんこと立川さんも来るってことっすよね? うおぉ!!」
「まーた三戸くんは……。そんなに夕立ちゃんのこと好きなんですか?」
艦娘全員と聞いて自身の勝手な欲望をたぎらせる三戸、そんな彼に和子が突っ込んだ。和子のジト目付きのツッコミを受けて三戸は慌てて弁解する。
「いや〜好きっていうか、パッと見た目清純でお嬢様っぽいのに、口ぶり幼くてアホの子っぽくてなんか妹みたいというか、ペットとして欲しいっていうか……」
弁解になっていない三戸の発言は和子だけでなく、和子の隣にいる幸、そして三千花をドン引きさせた。3人共ジト目で三戸を睨みつけている。那美恵と流留はその発言にプッと吹き出しケラケラ笑っている。彼の考えていることなどお見通しといった様子だ。
「三戸くん……あなた先生いる前でよくそこまで言えますね……。」
「え?あぁ!あがっty、四ツ原先生いたんだっけ!」
和子の指摘にハッと気づく三戸。教師がいることを本気で忘れていた。当の阿賀奈本人は生徒たちの集団から少し離れたところをポケーっと立っていたため、よくわかっていない様子で三戸に言った。
「へっ、三戸くんはその子が好きなのね!わんこっぽくて?わかったわ先生応援したげる!仲取り持ってあげるわ!」
「ああああぁ〜先生!冗談っすから真に受けないでくださいよ〜!」
三戸は阿賀奈の不穏なやる気の方向性に最大限の危機を覚えたのですぐさま阿賀奈に詰め寄る仕草をしてその場で弁解し直した。が、三戸の言葉を受けてもなお無駄に食い下がろうとする阿賀奈はその後も2〜3問答やりとりしてようやくおせっかいを諦めた。
作品名:同調率99%の少女(11) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis