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平野藤四郎は主に冷たい

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「平野藤四郎といいます!お付きの仕事なら任せてください」

一目惚れだった、のだと思う。
当時、私はまだ十歳、小学四年生だった。周りの環境が特に変わっていたわけでもなく、私自身が特別顔が整っているわけでもなく、毎日の楽しみが給食という若干食い意地がはった平凡な少女だった。
そんな私が何故、わずか十歳で審神者として付喪神をすることになったのか、覚えていないわけではない、知らないおじさんにお菓子で釣られて今に至る…ということはハッキリ覚えている。なんて食い意地を貼っている子どもだ。我ながら感心する。
初期刀は歌仙兼定、雅を愛する文系名刀、自称である。今まで何回「お前が文系とか嘘だろ!!」と思ったことか。最初、彼は小さい私に戸惑ってはいたが、徐々に慣れていき、終いには私から「お母さん」と呼ばれるぐらい世話焼きに成長した。ついでに一番最初に練度が最高になったのも彼である。まぁ彼のことはいいのだ。問題は初鍛刀の平野藤四郎である。
初めて彼を目にした時、私は素直に嬉しかった。友達になれそうな子がきてくれた!!と、とても喜んだ。喜んだと同時にお腹がなった。
「…えっと、とりあえずご飯にしましょうか」
困った笑顔でそういう彼はかなりの美少年であった。顔に熱が集まるのを感じた。
「一目惚れ…だったのかねぇ…」
私は今三十手前、親からのプレッシャーに耐えながらそこそこ独身貴族を満喫している。
縁側に腰を降ろし、お茶をすすりながらゆっくりと飲んでいく。あぁ、審神者になった日も無駄に天気がよかった気がする、もうずっと昔の話だ。
「誰に一目惚れしたのだ主よ」
隣に座る三日月じいさん(以後じじい)に尋ねられ一気に現実に引き戻される。短刀の平野藤四郎くんです、なんて今の自分がいったらただの犯罪者である。
「なんでもないよ。えっとなんの話してたっけ」
「ははは、主はわすれんぼうじゃのぅ。…はてじいも忘れてもうた」
「…大丈夫ですか、そろそろ認知症ですか主」
振り向くとそこには今話題の平野藤四郎くんがいた。いつのまに?!となるが彼もまた練度が最高に達し、修行に行かせ、極となったのだ。背後をとるぐらい簡単なことだろう。
そして、思い出した、しじいと話していた内容を。
「あー、うん。でも今日の予定ははっきり覚えているよ!大丈夫!」
「予定…?何かあるのですか?」
平野の方眉がぴくりと上へあがる。
「えっと、じろちゃんとみだらんときよみんとで女子会…」
じろちゃんというのは次郎太刀、みだらんは乱藤四郎、きよみんは加州清光のことを意味する。三人とも比較的最初の方に本丸に来てくれて、そしてあの見た目と性格だからすぐに仲良くなり、定期的に女子会を開いている仲である。
平野ははぁっと大きなため息をついた後、いかにも不満ありという声で「…わかりました」と返事をする。
そう、みなさんお察しの通りうちの平野藤四郎は「主に冷たい」のである。

「なんでだよぉぉぉぉぉお!!」
日本酒が入っていたグラスをダンっと机に叩きつける。
「まぁまぁ、落ち着いてよ主。お酒もう一杯!!というか新しいやつあけちゃお?」
「よーし、主が許可しよーう、あけたまえー」
「ねぇ主さん、あのお菓子食べていい?この前買ってきたおいしいやつ!」
「よーし、許可しよー」
「ねー、主ー、新しいマニキュア欲しいんだけどー」
「いいよ。いいよ。かってやろー」
「「「やったね!!」」」
こんにちは主、絶賛やけ酒中です。
理由はひとつ、平野藤四郎が私に冷たいのです!!!原因?!しらん!!!
「なんで平野は私に冷たいのだろーか」
ピタと三人の動きが止まる。さっきまでキャーキャー騒いでいたのに急に静止するもんだから時間が止まったみたいだ。
「…なによ」
じろりと三人を見つめる。
「えっと…主は…」
「まだ気づいてないみたいだね…」
「まぁ、平野も平野だし、ね?」
順番にじろちゃん、みだらん、きよみんである。なにがよ、私が何に気づいてないねよばーかばーか。
「私だってねぇ!平野に嫌われてるってことぐらい知ってるわよ!!でもねぇ、でもねぇ、やっぱ仲良くしたいじゃんか!!なんだったら嫌われ始めた時期だって覚えてるわよ!!聞いてるのみだらん!!」
「うんうん、聞いてるよ」
「そうよ、十四歳の時よ!!!私が初めて彼氏ができた日!!!あぁ、あの野郎今思い出しても腹が立つわ!!私がいるのに浮気しくさってちくしょーーー!!!そうじゃない、そうじゃないのよじろちゃん!!」
「そうだね、その話じゃないね」
「彼氏ができたことに対する喜びと平野に対する感情とでごっちゃごっちゃになったわばーばーかば!!!あの日から近侍は平野じゃなくて歌仙になったんだよ!!!なんで覚えてるんだろか!!きよみん答え!」
「えー…知らないよ…」
どうやら私はかなり酔っているらしい、一度口を開いたらもう止まらない。平野に対する愚痴がボロボロ溢れ出てくる。ついでに涙も溢れ出てくる。
周りの女審神者に相談しても平野のそんな子じゃないって言われるし、修行に行っている間は少し寂しかったし、やっと帰ってきたって思ったらあの態度。よく私泣かなかったよ。成人式の時だって誕生日だってみんなお祝いしてくれてるのに、平野だけむすってしてさ、「おめでとう」とかもうここ数年きいてないし。
ボロボロボロボロ、私の口は閉じることを知らない。涙も止まらない。
私は平野のことが好きなのに。
ついつい隠していた本音も出てくる。本当は言っちゃだめ、私が言ったら犯罪者だし、相手は付喪神だ。いけない。人間が神様に恋をしちゃいけない。
「彼氏にふられた日、一人で部屋の隅っこで今みたいに、大泣きしてたら平野がきて、その時黙って私の頭を撫でたんだ、そして私に笑いかけてくれて…」
もう誰に対しても発していない言葉。ひとつひとつ話していく度、頭の中であの日の光景が思いだらせていく。あの時の平野の笑顔はとても美しくて、目が優しくて、見た目は私よりずっと年下の筈なのに、何故か、何故か、何歳も歳上に見えて。あぁ、やっぱり彼は神様なんだって、そう、あの時私はもう一度平野に惚れたんだ。
「あー!!平野!!大好きで大嫌い!!」
「主、もう今日はお開きにしよ?ね?」
「そうだよ、酒は楽しく飲むもんさ!!それにお迎えも来てるし行っておいで」
「部屋は僕達が片付けとくから!」
みだらんに背中を押され、障子を開くとそこには
「平野…?」
顔を真っ赤にした平野だ。
あ、これ夢だわ。夢っていうかもうなんでいいけど平野いるわ、それだけで幸せだわ。
酒のせいでまともな思考回路を働かせない私を平野はやすやすと横抱きにする。
「あ、これは夢ですわ」
「現実ですよ!」
「だって平野が私をお姫様抱っこしているんだよ?夢だよ」
すたすたと廊下の歩く音だけがきこえる。
否定しないのは私の言っていることが正しいからだろう。でも女の子の夢である好きな人にお姫様抱っこを満喫しようと思う。これは夢だから何をしてもいいのだ、今だけは平野に甘えてもいいのだ。
「降ろしますよ」
「ん…ありがとう」
部屋つくと既に布団はひかれており、そこに私はおろされる。
「では、僕はこれで」
「まって」