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愛よりも恋よりも深く

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『あいかわらず、無茶してるんじゃねーのか?
 だいたい、お前は後先考えずに突っ走るのが悪い癖なんだよな。
 探偵たるもの、常に冷静な目を持ってねーといけねーんだから。
 お前にいっても聞くわけないと思うけど、とりあえず無茶だけはすんなよ。


 それから、もうすぐ中間があるだろ。
 せいぜい頭使って、点数増やしておけよ。                         
                                         工藤』






 大阪で起きた事件に平次が関わって、しかも解決したという情報をどこかで仕入れてきたんだろう、全部お見通しだという文面に平次は微苦笑を浮かべた。
(かなわんなぁ)
 メールをするのも電話をするのも積極性を持っているのは常に平次で、こうやってたまに向こうが自発的にメールを送ってきて嬉しがってみれば、内容に甘い言葉の一つも並んでなんていなくて。新一らしい文面に、思わず微苦笑を平次はもらしながら、目でゆっくりと文字をもう一度ゆっくりとなぞっていった。
「素直やないねんから」
引っ掛かったのは最後の文面。
(『頭』を使え、か)
 文頭を取って繋げてみても意味を成さない言葉に違うのかと考え直し、次の『点数増やして…』の所に重点を置く。
「普通、増やしてやなくて、稼いでとかちゃうんかい。日本語間違ごうとるで…工藤」
 らしくない、それがまた平次の心に引っ掛かる。暗号でも隠してあるのかと疑ってみたが、もう一度読み返してみてもさっぱり解らなかった。結局当たり障りのないものなのかと、携帯をベッドに放り投げようとして、ピタリと手が止まる。
「増やして…?」
 その前の点は除外してみて、数増やして…と呟きながら平次はさっきのメール内容をもう一度見直した。ディスプレイには無機質な文字が並び、その液晶を通して呆れ顔の新一の顔が浮かび上がるが、それは一瞬にして打ち消されていく。
 代わりに脳裏に表れたのは……。
(ほんま、ひねくれとるなぁ)
 頭から一行ごとに一文字ずつ増やして数えていき、その場所の文字を拾っていけば、



『あ』
『い』
『た』
『い』



 という言葉が浮かび上がってくる。


 どんな気持ちで新一はこれを打ったんだろうか。
 以前の様に頻繁に会わなくなって、今は電話やメールだけの繋がりで保たれている自分達の関係。
 新一へ向ける感情がだんだん大きくなり、今では友情という域を超えてしまっている。自覚してからは、なるべく東の地を踏まないようにしているのに、こうやって新一からのメッセージを受け取ってしまうと居ても立ってもいられなくなってしまう。
 いつかこの想いが風化してくれたら…と願えば願う程、反比例するかの様に相手を求める気持ちが大きくなってしまうのを止められなかった。
(往生際が悪いっちゅーねん…、ほんま)
 メールを貰って嬉しいと感じる自分がいる。今すぐにでも会いたいのは平次だって同じだ。
 会わない代わりだからと、頻繁に連絡をいれている辺りが未練の現れだと自覚もしている。
「……諦められへんもんやな」
 新一の誕生日から約一ヶ月。あの時も衝動的に会いにいってしまった。
 結局答えはあの時に出ていたのかもしれない。
 新一から逃げようとしていたのがそもそもの間違いだったんだろうと、平次は自嘲の笑みを口元に滲ませる。向こうは無意識に平次が避けているのを感じ取っていたのかもしれないと、さっきのメールが伝えている様な気がして。
(こないな暗号送らせるぐらい放っておいたんやもんな…)
 すまんかった…と呟きを落とし、平次は制服から私服に手早く着替え、財布と鞄を持って部屋を出る。母親に行き先を告げた途端困った顔をされたが、それでも「迷惑かけんときや」と呆れ声と共に送り出してくれた。
 今日は金曜で、明日は土曜。帰るのは日曜日として、二日弱は一緒に居られる。
 平次はタクシーを止めて乗り込むと、「新大阪」と運転手に告げた。





   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇





『今新幹線の中やし、あと少ししたらそっち着くわ。
 やから、家におってな。


                  服部』


 たったそれだけのメール。
 いつも唐突で、いつも新一を驚かせてくれる。
(服部のやつ……)
 隠された言葉に気づいたんだろう、そうじゃなければここに来るはずがなかった。
 ただの我が儘でしかないものを簡単な暗号にして送ったのは、つい一時間程前。
 それを解読した平次は、新一の隠した言葉に応えてくれている。
「ほんと、馬鹿だあいつ」
 関西と関東には『距離』という壁があって、自分達はまだ未成年だから出歩く行動範囲も大体決まっている。それに、お互いの日常があるわけだから、頻繁に会えないのは承知していた筈なのに……。
 それでも、自分が小学生の姿をしていた時にしょっちゅう顔を出しては二人で事件を解決した。
 少し説明をしただけで、平次は言いたいことの全容を把握して、自分の推理を聞かせてくれる。お互い盲点で見えなかった場所を見つけ、また推理論を繰り返し最終的に犯人の目星をつけていった。
 自分と同じ視点。
 けれど、自分とは違う方向を向いている相手に背中を預けていた。
「なあ、聞いてくれるか……?」
 新一は眺めている携帯のディスプレイに向かって呟く。
 今はここにいない相手。そして、もうすぐ新一に会いにいくからとメッセージをくれた平次。
 弱い心を晒したくないのと同時に、もたれ掛かりたいと思う自分が存在した。
 甘えたくないのに、一人じゃ立てないからと縋りたくなる。矛盾さに苦笑しながらも、早く来て欲しいと願う。
(今日、依頼人が自殺未遂をしたんだ。犯人追いつめて、その人まで追いつめちまった……)
 誰も死なせたくない。
 誰も傷ついて欲しくない。
 なのに、結果的には誰かの心に消えない傷を残して、血を流させてしまった。
 探偵なんてエゴの塊だと誰かが言っていたが、そうなのかもしれないと、今は痛切にその言葉が心に沁みていく。袋小路に追いつめる行為を、純粋に楽しいと感じる自分がどこかに存在しているのかもしれない。けれど、追いつめた先に待っているものが真実だとしても、それを振り翳すのが正義だとは思えなかった。
 いつも馴染みの警部は新一のせいじゃないと否定したが、自分が自殺を引き起こす要因を生み出した事に変わりはない。
 リビングのソファーにもたれ掛かり、携帯を握りしめた。
 しんとした静寂の中に、たった一人きりでいるとどんどん思考がマイナスに傾いていく。
「…不用心すぎや、工藤」
 玄関の鍵開いとったで…と、耳に届く独特のイントネーション。
「は…っとり……?」
「自分から呼び出しといて、何ボケとんねん。せっかく来てんから、もっと明るく出迎えんかい」
「…悪かったな」
 一瞬むっとして拗ねれば、平次は新一の傍に寄って茶封筒を差し出した。
「工藤の家の近くで高木刑事に会うたで。事件の調査書とか言うてたけど、工藤が落ち込んどるのはこれが原因やんな」
「なんで、そんな事解んだよ」
「さっき高木刑事から聞いたんや。きっと気にしてるからてな」
作品名:愛よりも恋よりも深く 作家名:サエコ