Lovin' you 2
section7
アウドムラの艦長室。
そこではハヤトとクワトロの二人が医務室でのアムロと医師の話を盗聴している。
先程、ハヤトの爆弾発言でパニックになった医務室では驚愕の顔をする男性陣に対し、蒼白な顔で固まったアムロの顔があった。
医師のアルフレッド・ウォレスはアムロの悲壮な様子に男性陣の退出を促した。
「えっと。すみません。非常にデリケートな問題であり、未成年には如何な内容かと思いますので、この件については医師である僕に任せて頂けないでしょうか?」
ハヤトに目配せをし、そっと自分の耳に指を当て別室で聞く様に合図した。
男性陣が退出した医務室ではアムロと医師のアルフレッドが二人向き合って座っている。
緊張するアムロを前に笑顔で向き直ると先ずは自己紹介から始めた。
「アムロ大尉。僕はカラバの医師でアルフレッド・ウォレスと言います。どうぞよろしく。あ、歳もあまり変わらない様ですし良ければアルと呼んでください。」
握手を求め、差し出された手に戸惑いつつも答える。
アムロは自分より少し年上と思われる金髪の若い医師の気さくな言葉に少し緊張を和らげ、ぎこちないながらも笑顔を返した。
「こちらこそよろしく。私の事もアムロで結構です。」
その反応にアルは胸を撫で下ろすと共にアムロに対して少し庇護欲の様なものを感じた。
『こんな頼りなげな女性が本当にあの白い悪魔なのか?』
「先ずは、その肩の傷についてですが、幸い太い血管や神経などは傷つけてはいなかったので、1週間程で完全に塞がると思います。」
けれどあまり無理はしない様にと付け加える。
そして一呼吸おき本題へと入る。
「先程ハヤト艦長が言っていた妊娠の件ですが、これは本当ですか?」
ストレートな問いにアムロはビクリと肩を震わせ目を伏せる。
暫くの沈黙の後、コクリと首を縦に振り頷いた。
「……そうですか。わかりました。」
別室ではクワトロがその問いにアムロが肯定の意を返した事を悟り、強く拳を握り締める。
『なんということだ。彼女は既に誰かのものなのか!?』
「今の身体の感じからするとまだ妊娠初期だと思われるのですが、何ヶ月くらいになりますか?」
アルはゆっくりと優しく問う。それにアムロは小さく答える。
「…3ヶ月って博士は言っていました。」
「博士?」
アルは医師ではなく"博士"と言う言葉に疑問を投げかける。
「……」
その問いに沈黙してしまったアムロに別の質問をする。
「…ええと、それでは父親は?」
下を向いたまま膝の上で組んだ手に力を込めて小さく答える。
「……わかりません。」
「わからない?」
「はい」
「…それは…、どういう事なんでしょうか?」
アルは"博士"と言う単語と相手がわからないというアムロの言葉、傷の手当てをした時に見た無数の注射痕や電極の痕から嫌な想像を巡らせる。
「…博士は、ニュータイプの遺伝性の研究だと言っていました…。
それで…体外受精で、私の卵子とニュータイプの男性の精子を受精させて私の子宮に受精卵を戻したと…。
相手の人の名前とかは聞いていません。」
自分の嫌な想像が当たっていた事にアルは目を閉じ眉間に皺を寄せる。
『何て事だ!連邦は1年戦争の英雄であり、ファーストニュータイプである彼女にそんな事を!』
別室ではハヤトが拳を机を叩きつけ、歯を食い縛って怒りに耐えている。
クワトロも握った拳を更に強く握り締めた。
長い沈黙の後、アルは口を開く。
「アムロ。この妊娠は君の望んだものではないんだね?」
コクリとアムロは頷く。
一呼吸おいてアルは告げる。
「まだ初期だし中絶手術をすることも可能だよ。」
ビクリと身体を震わせこちらを見入るアムロに言葉を続ける。
「此処では設備が無いから無理だけれど、この後行く予定のホンコンシティなら病院を紹介出来るよ。」
「え?…あ…、でも…。」
"中絶"という言葉にそんな事を考えもしていなかった自分に驚く。
ただ…、はじめは気持ち悪くて怖くて、それから逃げ出したくて、いっそ自分ごと消えてしまいたいとは思った。だから衝動的に手首を切ってしまった。でも、子供を殺してしまうという発想は欠片もなかった。
思いつめるアムロに「ゆっくりでいいから」とアルが優しく肩を叩く。
アムロはそっとお腹に手を当てた。
この子の事を恐怖して嫌悪しながらも自分と切り離しては考えていなかったのだと気付く。そしてフラウの言葉を思い出し、心を決める。
「…たいです。」
「え?」
微かに聞こえたアムロの声に聞き返す。すると、アムロは顔を上げ、先程からの不安気な瞳とは違う、決意を固めた強い瞳でこちらを見上げる。
「できれば…産みたいです。」
その琥珀色の瞳に息を止める。
『なんて強くて綺麗な瞳だ。』
彼女は英雄と呼ばれるに相応しい、強い心を持った人だと、強い衝撃を受けた。
けれど、その答えに疑問も覚える。
「…でも、いいのかい?望んでできた子供ではないだろう?」
「…はい」
やはり女性と男性ではその辺りの感覚や考え方が違うのだろうか?
自分の疑問につい「何故?」と聞いてしまう。
少し間をおいて、アムロはポツリ、ポツリと話し始める。
「…始めは、突然冷たい診察台の上に乗せられて、薬で眠らされて…、目が覚めたら子供がお腹に居て…。
あまりの嫌悪感と恐怖で気が狂いそうでした。あ…ちょっと狂ってたのかな。衝動で気付いたら手首を切ってたし。」
そっと左の手首の傷跡に触れる。
「結局、監視員に見つかって死ぬ事も出来なくて…。凄く辛かった。」
悲痛な表情のアムロに胸が締め付けられる。
「でも、フラウが…あ、私の幼馴染みでハヤトの奥さんなんですけど、彼女が訪ねてきてくれて、私を抱きしめて言ってくれたんです。経緯はどうあれ血を分けたこの子を愛してあげられないかって。この子はきっと私の家族になってくれるって…。」
瞳に涙を浮かべ、少し微笑んでこちらを見上げるアムロに更に胸が締め付けられる。
「だから…産みたいと思います。」
その美しい笑顔に心を打たれ、気付いた時には彼女を抱きしめていた。
「ア…、アル!?」
突然の抱擁に戸惑うアムロをよそに、抱きしめる手を強める。
「…わかった。わかったよ。」
驚いていたものの、こちらの思惟を感じ取ってくれていたのか、アムロは大人しく腕の中にいてくれた。
しばらくの間抱きしめた後、少し冷静になってアムロを離す。
「辛い事を話させてしまったね。でも、君の気持ちはわかったから…。医師としてこの子を産む手伝いをするよ。」
アムロはそっと微笑むと「ありがとう」返事を返した。
section8
医務室の診察台に横になるアムロのお腹をアルはエコーで診察する。
「専門医では無いから詳しくは言えないけど、ココに見えるのが胎児だよ。」
モニターの画像を見ながらアルが説明する。
「ほら、ココが頭でこう体があってココが足。そしてこれが心臓。トクトク動いているのがわかるかい?」
画像の中には三頭身くらいの人っぽいものが身体を丸めて映っている。
なんだか不思議なものを見ている気分だった。
「なんか信じられない…。本当にココで生きてるんだね…。」
アウドムラの艦長室。
そこではハヤトとクワトロの二人が医務室でのアムロと医師の話を盗聴している。
先程、ハヤトの爆弾発言でパニックになった医務室では驚愕の顔をする男性陣に対し、蒼白な顔で固まったアムロの顔があった。
医師のアルフレッド・ウォレスはアムロの悲壮な様子に男性陣の退出を促した。
「えっと。すみません。非常にデリケートな問題であり、未成年には如何な内容かと思いますので、この件については医師である僕に任せて頂けないでしょうか?」
ハヤトに目配せをし、そっと自分の耳に指を当て別室で聞く様に合図した。
男性陣が退出した医務室ではアムロと医師のアルフレッドが二人向き合って座っている。
緊張するアムロを前に笑顔で向き直ると先ずは自己紹介から始めた。
「アムロ大尉。僕はカラバの医師でアルフレッド・ウォレスと言います。どうぞよろしく。あ、歳もあまり変わらない様ですし良ければアルと呼んでください。」
握手を求め、差し出された手に戸惑いつつも答える。
アムロは自分より少し年上と思われる金髪の若い医師の気さくな言葉に少し緊張を和らげ、ぎこちないながらも笑顔を返した。
「こちらこそよろしく。私の事もアムロで結構です。」
その反応にアルは胸を撫で下ろすと共にアムロに対して少し庇護欲の様なものを感じた。
『こんな頼りなげな女性が本当にあの白い悪魔なのか?』
「先ずは、その肩の傷についてですが、幸い太い血管や神経などは傷つけてはいなかったので、1週間程で完全に塞がると思います。」
けれどあまり無理はしない様にと付け加える。
そして一呼吸おき本題へと入る。
「先程ハヤト艦長が言っていた妊娠の件ですが、これは本当ですか?」
ストレートな問いにアムロはビクリと肩を震わせ目を伏せる。
暫くの沈黙の後、コクリと首を縦に振り頷いた。
「……そうですか。わかりました。」
別室ではクワトロがその問いにアムロが肯定の意を返した事を悟り、強く拳を握り締める。
『なんということだ。彼女は既に誰かのものなのか!?』
「今の身体の感じからするとまだ妊娠初期だと思われるのですが、何ヶ月くらいになりますか?」
アルはゆっくりと優しく問う。それにアムロは小さく答える。
「…3ヶ月って博士は言っていました。」
「博士?」
アルは医師ではなく"博士"と言う言葉に疑問を投げかける。
「……」
その問いに沈黙してしまったアムロに別の質問をする。
「…ええと、それでは父親は?」
下を向いたまま膝の上で組んだ手に力を込めて小さく答える。
「……わかりません。」
「わからない?」
「はい」
「…それは…、どういう事なんでしょうか?」
アルは"博士"と言う単語と相手がわからないというアムロの言葉、傷の手当てをした時に見た無数の注射痕や電極の痕から嫌な想像を巡らせる。
「…博士は、ニュータイプの遺伝性の研究だと言っていました…。
それで…体外受精で、私の卵子とニュータイプの男性の精子を受精させて私の子宮に受精卵を戻したと…。
相手の人の名前とかは聞いていません。」
自分の嫌な想像が当たっていた事にアルは目を閉じ眉間に皺を寄せる。
『何て事だ!連邦は1年戦争の英雄であり、ファーストニュータイプである彼女にそんな事を!』
別室ではハヤトが拳を机を叩きつけ、歯を食い縛って怒りに耐えている。
クワトロも握った拳を更に強く握り締めた。
長い沈黙の後、アルは口を開く。
「アムロ。この妊娠は君の望んだものではないんだね?」
コクリとアムロは頷く。
一呼吸おいてアルは告げる。
「まだ初期だし中絶手術をすることも可能だよ。」
ビクリと身体を震わせこちらを見入るアムロに言葉を続ける。
「此処では設備が無いから無理だけれど、この後行く予定のホンコンシティなら病院を紹介出来るよ。」
「え?…あ…、でも…。」
"中絶"という言葉にそんな事を考えもしていなかった自分に驚く。
ただ…、はじめは気持ち悪くて怖くて、それから逃げ出したくて、いっそ自分ごと消えてしまいたいとは思った。だから衝動的に手首を切ってしまった。でも、子供を殺してしまうという発想は欠片もなかった。
思いつめるアムロに「ゆっくりでいいから」とアルが優しく肩を叩く。
アムロはそっとお腹に手を当てた。
この子の事を恐怖して嫌悪しながらも自分と切り離しては考えていなかったのだと気付く。そしてフラウの言葉を思い出し、心を決める。
「…たいです。」
「え?」
微かに聞こえたアムロの声に聞き返す。すると、アムロは顔を上げ、先程からの不安気な瞳とは違う、決意を固めた強い瞳でこちらを見上げる。
「できれば…産みたいです。」
その琥珀色の瞳に息を止める。
『なんて強くて綺麗な瞳だ。』
彼女は英雄と呼ばれるに相応しい、強い心を持った人だと、強い衝撃を受けた。
けれど、その答えに疑問も覚える。
「…でも、いいのかい?望んでできた子供ではないだろう?」
「…はい」
やはり女性と男性ではその辺りの感覚や考え方が違うのだろうか?
自分の疑問につい「何故?」と聞いてしまう。
少し間をおいて、アムロはポツリ、ポツリと話し始める。
「…始めは、突然冷たい診察台の上に乗せられて、薬で眠らされて…、目が覚めたら子供がお腹に居て…。
あまりの嫌悪感と恐怖で気が狂いそうでした。あ…ちょっと狂ってたのかな。衝動で気付いたら手首を切ってたし。」
そっと左の手首の傷跡に触れる。
「結局、監視員に見つかって死ぬ事も出来なくて…。凄く辛かった。」
悲痛な表情のアムロに胸が締め付けられる。
「でも、フラウが…あ、私の幼馴染みでハヤトの奥さんなんですけど、彼女が訪ねてきてくれて、私を抱きしめて言ってくれたんです。経緯はどうあれ血を分けたこの子を愛してあげられないかって。この子はきっと私の家族になってくれるって…。」
瞳に涙を浮かべ、少し微笑んでこちらを見上げるアムロに更に胸が締め付けられる。
「だから…産みたいと思います。」
その美しい笑顔に心を打たれ、気付いた時には彼女を抱きしめていた。
「ア…、アル!?」
突然の抱擁に戸惑うアムロをよそに、抱きしめる手を強める。
「…わかった。わかったよ。」
驚いていたものの、こちらの思惟を感じ取ってくれていたのか、アムロは大人しく腕の中にいてくれた。
しばらくの間抱きしめた後、少し冷静になってアムロを離す。
「辛い事を話させてしまったね。でも、君の気持ちはわかったから…。医師としてこの子を産む手伝いをするよ。」
アムロはそっと微笑むと「ありがとう」返事を返した。
section8
医務室の診察台に横になるアムロのお腹をアルはエコーで診察する。
「専門医では無いから詳しくは言えないけど、ココに見えるのが胎児だよ。」
モニターの画像を見ながらアルが説明する。
「ほら、ココが頭でこう体があってココが足。そしてこれが心臓。トクトク動いているのがわかるかい?」
画像の中には三頭身くらいの人っぽいものが身体を丸めて映っている。
なんだか不思議なものを見ている気分だった。
「なんか信じられない…。本当にココで生きてるんだね…。」
作品名:Lovin' you 2 作家名:koyuho