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彼岸島短文詰め

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【sign】

互いの竹刀を収め、向かい合った篤の表情が不意に緩んで、視線が自分を越えたさらに後ろを見た。
明もつられてゆっくりと振り向き、道場の入口に立つ女性の姿を認めた。
「涼子」
婚約者に歩み寄る兄の後姿を見ながら、面を取って汗をぬぐった。無意識に眉をひそめていたのに気が付き、苦々しいものを飲み下し、明は談笑する二人に背を向けて道具を片付け始めた。

やがて戻ってきた篤が、申し訳なさそうな顔をしている。
「明、悪いけど今日は…」
明は兄の言葉を途中で遮ぎった。
「行ってきなよ。涼子さん待たせるの悪いだろ。後は俺がやっとくからさ」
「ああ、いや、まだ時間は大丈夫だから。鍵だけ返して置いてくれるか」
手伝おうとする篤に明はさっさと行けと手で追い払う仕草をした。
「久し振りに稽古付き合ってもらったし、いいって、ほら」
そう言って後ろに目配せをする。篤もそうかと笑顔を見せ、恋人と連れ立ち道場を出て行った。

二人の気配がなくなったところで、片付ける手が止まる。明は二人の前では出せなかったため息を吐きだした。近頃はふと気が付くとこうしてぼんやりしてしまう。

正直なところ、最初から今回の婚約は明にとって兄の幸せを嬉しく思うよりも、戸惑いの方が大きかった。篤に恋人がいるのを知ったのもつい最近で、そのせいか婚約の話はずいぶん唐突に思われた。もともと内向的な自分と違って随分と明け透けな人だから、余計そう思ったのかもしれない。
戸惑いはすぐに去るものと思っていた。美しく聡明な女性は自分も好意を持つに十分で、兄が幸せな顔でいるのなら、幼い頃から、いつだって自分も嬉しかったはずなのだから。

なのに何故こんな気持ちでいるのだろう。同性でこの年頃の兄弟ならば、自分と兄はおそらく仲が良い方だとは思うが、兄弟が他人と一緒に居るのを見るのが嫌だなんて。
肉親の知らない面を受け入れ難いだけなのか。親しい間柄の人間に持つ子供っぽい独占欲なのか。それとも。

開いた扉から吹き込んだ風が、体の汗を冷やし明は我に返った。思考を頭から追いだして、目の前の仕事を再開する。
探り当てそうになるものを、明は確かめない。
日に日に心を重くしていく、得体の知れない漠然とした予感めいた何かが。決して現実になどなりはしないように。
作品名:彼岸島短文詰め 作家名:あお