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いいこ、わるいこ、すなおなこ。

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 淡く色づいたカーテンの隙間から、陽射しが差し込んでいる。抜けるように軽く明るい鳥のさえずりが聞こえてくる。外界からのお裾分けは、どこまでも広がる青空の存在を感じさせる。
 爽やかな朝とはかくあるべきだと体現した、まさに、そんな朝。

 本土から飛行機で南に1時間、船で10時間。果てを感じさせない青海に囲まれた南国の島にだって、冬は等しく訪れるわけで。
 暖房設備のないオンボロ木造校舎の角部屋で、容赦無く冷え込む空気に晒された顔が、身を刺す寒さを伝えてくれる。そして、その冷たさまでもが、熱を溜め込んだ布団に包まれた体の温かさを再確認させてくれた。
 すべてが心地いい、そんな最高の朝……

 べチッ

「いてっ!?」
 夢心地、まどろみながら穏やかな時間を過ごす俺の顔に、思いっきり、白いものが振り下ろされた。
「ん〜、ごめ……」
 こちら側に寝返りをうった奈緒子の左腕が、目一杯の反動をつけて、俺の顔面に直撃したらしい。冷えた顔に触れる柔らかな腕は、いつも以上に温かかった。
「寝てんの? 起きてんの?」
「起きて……ぅ」
「おはよ。そういうの、寝ぼけてるって言うんだぞ」
 しかも、典型的。
「ん……おはよ……」
 掠れた声で小さく呟きながら、もぞもぞと動き、左腕だけでなく左脚までも俺に預けてくる。わかりやすく言えば、されるがままに抱き枕状態。
 ここに断言する。この人はやっぱり、完全に寝ぼけている。
「ん〜」
 ただ、本人の宣言通り、一応起きてはいるらしく、なかなか器用に、そして一方的に、俺は抱き締められていた。

「いま、なんじ〜?」
 特殊な朝のご挨拶を満足いくまで堪能したのか、頭が冴えてきたのか、ほんの少し反応速度を速めた奈緒子が、ようやくまとまりのある言葉を紡ぐ。
「う〜ん?」
 諸般の精神的理由から身動きが取れないため、首をひねり、枕元に置かれた小さな目覚まし時計を探す。
 今日から晴れて冬休み。その主たる任は解かれた目覚まし時計も、時を刻む秒針の音だけは、頭上でしっかりと鳴り響かせていた。

「ふあぁぁぁ……」
 そして、温かさと柔らかさに充ち満ちた体勢を崩すのがもったいないという俺の至極当然の望みは、自ら時計を見るために、大口を開けながら体を起こした奈緒子によって、破られた。
「ん……?」
「ん?」
「んん?」
 とはいっても、俺も時間は気になる。昨夜はパーティやら何やらで疲れて眠ってしまっていたし、それに学園が休みになると100倍くらい気が緩む。寝坊で朝食を食べ損ねるなんて事態は、世界一厳しく優しい寮則において、あってはならないことだ。
「何時?」
 奈緒子に合わせて体を起こすと……
「これ」
「あ」
 奈緒子の手には、見覚えのある、白い箱が握られていた。

「航が置いたの?」
「知らない。全然知らない」
 ……ことになっている。
「航が置いたの〜?」
「知らないってば」
「そ。なんだろな〜」
 “そ”いうことにしてくれた奈緒子が、しなやかな指先で、その包装を、丁寧に、解く。
「…………」
 中身は、目的を伏せて聞き込みした、女の子に関する事柄のプロフェッショナルや、身近な現役女子学園生数名や、奈緒子と仲良しな自称大人の女性の意見を参考にしたから、たぶん、大丈夫なはず。……目的は筒抜けな気がしなくもないけれど。

「わ……」
 そして、口数が少なくなったその横顔を見る分には、たぶん、成功。
「奈緒子が1年間いい子だったから、サンタさん来たんじゃねーの?」
 嬉しさとか、楽しさとか、期待とか、いろいろ入り混じったにやにや顔を自覚せずにはいられない俺にお見舞いされたのは、
「…………」
「わっ!?」
 全体重をかけたのしかかりと、
「…………」
「こら、ぶつなって」
 キメる気の見られない、頬をぺちぺちと撫ぜる緩い拳。