Lovin' you 4
「うん。それも、とびっきりのエリート。で、私は16歳の、チョット前まで一般人だったひよっこ兵。」
「それって勝負になるんですか?」
カミーユが冷や汗をかきながら聞く。
「始めは押されっぱなしだったよ。本当に死ぬかと思った。あの人容赦なかったしね。でも、火事場の馬鹿力?みたいな感じで必死に向かっていって、最後は相打ち。あの人の剣がここに突き刺さって、私の剣があの人の額に刺さって…。でも、あっちはヘルメットしてたから大した怪我じゃなかったんだよね。」
『『いやいや!!素人に額を刺された時点でプロとしては大敗だろう!多分ヘルメットがなければ即死だよ!あの人のあの額の傷はこの人がつけたものだったんだ!!』』
2人は顔を見合わせ、驚愕する。
「その時、身体が結構密着したせいで女だってバレちゃったんだよね」
『『それは…、ダブルショックだったかも…。素人の、それも女の子に負けたんだから…』』
2人は少し男に同情してしまう。
「その後はどうしたんですか?」
カミーユの問いに、
「そこにセイラさん…あの人の妹が来て、私達を止めてくれたんだ…。…その後、あの人、何を思ったのか私に同士になれって、一緒に来いって言ってきてさ」
『『ああ、色々吹っ切れちゃったんだな…、きっと。』』
「さすがについて行けないし、断ろうと思ったら、近くで爆発があって、私だけその爆風で飛ばされちゃって、それっきり」
あっけらかんと話すアムロに二人は開いた口が塞がらない。だが、アムロに強い執着心を向ける男の事が少し分かったような気がした。
あの男にとっては己を追い込み、負かしたファーストニュータイプ"アムロ・レイ"という存在はこの世で唯一無二の存在なのだろう…。
section13
アウドムラは補給の為、ホンコンシティに到着した。
騒めく街の雑踏の中でカミーユは連邦の強化人間である、フォウ・ムラサメに出逢う。
彼女は自分の記憶を取り戻す為、軍の命令に従い、心を通わせたカミーユと戦った。
その切ない戦いにアムロは過去の少女との出会いが重なり心が締め付けられる。
「ララァ…」
自分が殺してしまった少女、あの人が愛した…。
カミーユに同じ悲しみを背負ってもらいたくなくて、彼女に近づくなと言ってしまった。
けれど…、本当に彼女に近づきたくなかったのは自分自身だった…。彼女とサイコガンダムからは自分の気配がした…。それもとても歪んだ気配。
ホンコンシティを離れるアウドムラの自室で自身の身体を抱きしめるように掴み、ベッドにうずくまる。
『彼女は、私の実験データをベースに強化されたんだ…。私のせいであんなに苦しんで…。』
「ごめん、ごめん」
届かないと分かっていても強化人間の少女に謝る。そして、カミーユにも…。
強いニュータイプ能力を持つカミーユは、彼女に共感し、引き合ってしまった。
次に彼女に会った時、カミーユは戦えるだろうか…。きっと辛い思いをする。もしかしたら、彼女に銃を向ける事が出来ずに殺されてしまうかもしれない…!
思い悩んでいると、部屋をノックする音がした。
『カミーユだ…。』扉を開けなくても気配で分かった。身体を起こし、部屋のロックを外した。
「アムロさん…。」
カミーユが辛そうな顏で入ってくる。
「カミーユ…。」
カミーユは私の元まで来ると床に膝をついて私を見上げる。
「アムロさんがそんなに責任を感じて苦しまないで下さい。」
ーーーカミーユに私の思惟が伝わってしまったんだ…。
「でも、彼女は私の実験データで強化されてしまったんだ。私が実験体になんてならなければ…。」
アムロは膝に置いた拳を強く握りしめる。
「それはアムロさんのせいじゃありません。貴女は被害者だ。貴女が苦しむ事はないんです。」
カミーユの手がアムロの握りしめる拳を包み込む。
「それに、魂が通じ合う相手に出逢えた事は俺にとって凄く嬉しい事なんです。これから何が起こるかわかりませんが、俺は彼女を救いたい。いえ、必ず救ってみせます。」
カミーユは決意を滲ませた瞳をアムロに向ける、
「だから、貴女は苦しまないで…。貴女が苦しむと俺も苦しいです。」
「カミーユ…」
「それに、お母さんが辛いと、きっとお腹の子も悲しくなっちゃいますよ」
カミーユにそう言われ、少し大きくなったお腹に手を当てる。
「そっか…、ごめんね」
お腹の子供にそっと呟く。と、その瞬間、ズキリとお腹に痛みが走る。
「うっ…、つ、痛っ」
「アムロさん!?」
苦しむアムロを支え、カミーユは急いで医務室に緊急コールをした。
「アムロさん!アムロさん!しっかり!今、ドクターが来ますから!!」
医務室では、鎮痛剤で眠るアムロがベッドに横たわっていた。
「ドクター、アムロの具合は?」
報告を受け、医務室に駆けつけたハヤトがドクター尋ねる。
「あまり良くはありません。切迫流産とまではいきませんが、安静が必要です。出来ればどこかの病院に入院させた方がいい。」
「かなり無理をさせてしまったからな…。」
蒼い顔で眠るアムロ見ると、ハヤトは決心した様に話す。
「了解しました。キリマンジャロに行く前にヨーロッパに寄って、知人の病院に入院させます。カイ・シデンという男が以前からその知人にコンタクトを取ってくれていたので大丈夫でしょう。」
アルはホッとするとハヤトに一つお願いをする。
「艦長、出来れば私も一緒に降りたいのですが…。主治医として最後まで面倒見たいんです。」
アルの願いに少し考え込むと
「わかりました。代わりの医師も知人に紹介してもらいます。」
「ありがとうございます!艦長!」
アルはハヤトの手を握り感謝する。
「こちらこそ、アムロの薬への抗体の事もありますし、私としてもドクターが付き添ってくれると心強い。よろしくお願いします。」
そして、アムロはヨーロッパにある、マス財団が所有する病院へと入院する事となった。
"コンコン" 病室のドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
アムロが答えると、あの男と同じ金髪にアイスブルー瞳をしたセイラ・マスが病室へと入って来た。
「ご機嫌は如何?アムロ」
「セイラさん…。はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
ベッドの横にある椅子に座ると、アムロの額に手を当てる。
「アムロの大丈夫は当てにならないわね。少し熱があってよ?」
「あ…、すみません」
「ふふふ、良いのよ。とりあえず、流産の危険は無くなったけど、無理は禁物よ。」
セイラはアムロの髪を撫ぜると、優しく微笑む。その顔や仕草があの人に似ていて、少し切なくなる。
『あの人に会いたい…』
そして数ヶ月後、アムロは予定日よりもひと月程早く男の子を出産した。
その子供は、アムロと同じ赤茶色のくせ毛に、
地球の空の色を思わせるアイスブルーの瞳を持って生まれて来た。
next section14
作品名:Lovin' you 4 作家名:koyuho