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はろ☆どき
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流れ星をとらえし者 RE【冬コミ91新刊(再録)】

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✶✶✶

   一章(抜粋)




 エドワード・エルリックが旅先から呼び戻されたのは、前回イーストシティを発ってから丸三ヶ月が経過した頃のことだった。
 エドワードは普段は軍務に縛られず、自由に旅をすることが許されている。その代わり、最低限月に一度は後見人の管轄である東方司令部へ報告を入れるという義務があった。軍属として課されるには非常に緩い義務である。
 だがその義務を意図的に数度怠ったうえに、電話一本の連絡すら入れないでいた結果、銀行口座を凍結されるという強行手段に訴えられることとなった。
 国家錬金術師には研究費用という名目で、毎月過分な額が対象者名義の銀行口座へ振り込まれている。エドワードのように他に職を持たず、しかもあちこち旅をして回っているとなると、それが唯一の財源――研究だけでなく生活費までの――である。つまり口座を凍結されると、日々の食事や寝床を確保することすらままならなくなってしまうのだ。
 そんなわけで、エドワードは口座凍結を解除してもらうべく、やむを得ずイーストシティへ戻ってきた。場合によっては、駅に着いた時点で憲兵か軍人に囲まれて司令部まで連行されるかと覚悟していたが、そんな気配もなく至ってスムーズに司令部まで辿り着いた。
 少々肩透かしを食らった気持ちになりつつも、いつもどおり入口で国家錬金術師の証である銀時計を取り出す。門衛に見せれば、鎧の弟と二人、速やかに中へ通してもらえた。
 エドワードが十二歳で資格を取ってから、一年と少し経っている。最近でこそすんなり中へ入れてもらえるようになったが、兄弟が旅を始めた当初はそうはいかなかった。どうやっても子供にしか見えない兄と、どうやってもその弟には見えない厳つい鎧姿の二人連れでは、あからさまに怪しまれたものだ。銀時計もよくできた偽物だなどと、盗人扱いされる始末だった。
 そして、門の外でエドワードが憤慨して喚き散らしていると、後見人である男がふらりと姿を現し――恐らく報告がいくようになっているのだろう――、人の悪い笑みを浮かべながら門衛に取りなしてくれるのが常だった。
 他人に貸しを作ることを良しとしないエドワードには、その事が大層不満だった。だが男は体のいいさぼりの言い訳にしていたようだったので、それでチャラにしてやるという寛大さでもってやり過ごすことにしていた。
にも関わらず、男は毎度のように蒸し返しては嫌みを言ったり面白がってからかったりするので、エドワードの後見人に対する態度は悪化する一方だった。
「今日も直ぐに入れてもらえてよかったね、兄さん。きっと大佐が話を通してくれていたんだよ」
 受付でも銀時計をちらと見せるだけで通過でき、弟のアルフォンスが嬉しそうに――鎧なので表情はよく判らないのだが――話かけてくる。
 しかしエドワードの方は、これも毎度のことながら素直に頷くことはできなかった。
「けっ、いたいけな青少年の生活費を差し押さえるような奴がどうなんだか。見つけたら取っ捕まえろとか、指示してたに違いないさ」
 そう言い捨てると、エドワードはズボンのポケットに両手を突っ込んだまま歩き始める。どかどかと柄の悪い雰囲気を醸しながら、後見人のいる執務室へと歩みを進めた。
 できることならその方向に進みたくはない。だが、怠っていた報告義務を果たし、場合によっては不義理の詫びを入れ(るフリをし)て、あわよくば新たな情報をもぎ取る為には行かねばならない。
 兄弟は自分達の身体を取り戻すことを目的に、実在するのかも不確かな伝説級の「賢者の石」を探す旅をしている。エドワードが国家錬金術師となり軍属となったのは、その為の手段でしかないのだ。
 何より、その原因を作ったのは自分なのだから、時には頭を下げるくらいやって見せねばならない。そうエドワードにしてはたいへん殊勝に、心の内でそんなことを考えていたのだが。
「もう、兄さんたら! 三ヶ月も報告書を出さずにいたからでしょ。僕は一度戻ろうって何度も言ったのに」
 弟の至って正論且つ己を正当化する発言によって、エドワードの殊勝な思考は遮られることとなった。
「どの件で足がついたのかなぁ。心当たりがあり過ぎて、僕胃が痛いよ……」
 可愛らしい声で嘆きつつ、頑強そうな鎧の腹の辺りを押さえて見せる。
「んなわけねーだろ! 言ってろよ、まったく……」
 可愛らしい声のする鎧の中身は空洞だ。アルフォンスは鎧に定着した魂のみの存在である。従って痛覚というものはない……はずである。つまりそれは兄に対する嫌味のパフォーマンスなのだが、この程度のやりとりは幼い頃からお互いに慣れっこなので、単なるじゃれあいの一環だった。
 なんやかんやと仲良く賑かに二人は司令部の奥へと進んで行く。時折すれ違う軍人達は、皆一様に微笑ましげな視線を送っていた。それが意識せずとも帰る家のない兄弟をほっとさせる要因となっている。故郷でもないのに、「帰ってきた」という気にさせられるのだ。他の司令部では得られない感覚だった。
 そうこうしているうちに、二人は目的地である執務室の前へと辿り着く。エドワードは固く閉じた扉を前にして立ち止まり、さて、と息をついた。
 常ならばよほど立て込んでいない限り、受付から連絡を受けた顔見知りの誰かしらが入口まで迎えに来るなり、執務室へ取り次ぐなりしてくれる。しかし今日に限っては、誰も姿を現さなかった。今回など、呼び出した本人が入口で待ち構えていてもおかしくないほどなのに。ここに来るまでの間に垣間見た司令部の様子も、特に慌ただしい雰囲気はなかったと思うのだが。
 偶々顔見知りは皆出払っているか、或いはその面々に限って立て込んでいるのか――軍部内にも敵の多い上官の元であれば、彼の腹心の部下達だけが何か画策していて慌ただしいということもあり得るだろう。上官本人も対応に追われているのかもしれない。
 しかし例えこの部屋の主が忙しかろうが、ひょっとして今ここには不在であろうとも、強行な呼び出しを受けてここまで来たからには訪れたという事実が重要だ。
 エドワードはそう結論付けると、気を取り直していつもどおり(正にいつもどおり)に、ノックもせずに勢いよく執務室の扉を開け放った。上官にあたる相手に対する挨拶としては、凡そ相応しくない台詞を発しながら。
「よお、大佐! 呼ばれたから仕方なくきてやった……ぜ……?」
 扉が開いた瞬間、部屋の中にいた数人の視線が一斉にこちらへ向いた。それはもう、痛いと感じるほどだった。いつもなら執務室の手前で顔を合わせる面々が一同に会していて、皆至極深刻そうな面持ちをしている。
 これはやはり緊急の某かがあったのだろう。今ここに足を踏み入れてはならない。エドワードの直感はそう告げていたが、踏み込んだ一歩を後退りするために浮かすより先に、彼らが畳みかけるように次々と声をかけてきた。

「よお、大将。あいかわらず元気いいな」
咥えタバコにヒヨコ頭の長身はハボック少尉。

「強引に呼び出して悪かったな、エド」
恰幅のよい腹をした中背の男はブレダ少尉。

「緊急の事態が起きていましてね」
ひょろりとした風貌に細い糸目のファルマン准尉。