同調率99%の少女(12) - 鎮守府Aの物語
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那珂と川内の同調する様子をマジマジと捉える神通。見た目は変わらないが、はっきり感じ取れた。今自分の側にいる那珂と川内は、一般的な人間とは呼べない存在になった。人ならざる者と言ってしまっても過言ではないかもしれないと神通はうつむきながら、心の中で思う。
昔艦娘になったという近所の女性も、こうして変身したのかと思うと、途端に怖さが湧き上がる。外見は変化がないのに、中身がまったくの別物になるということ。
自分を変えたいと願って志願し、そして艦娘部として加わり正式に着任した。それはもしかしたら、考えの甘い迂闊な行為だったのかもと思考がネガティブな方向に及ぶ。
神通の精神状態は不安定だったが、彼女は頭を軽く振り、思考を切り替えたつもりで同調し始めた。
ドクン
神通の精神状態がコアユニットに伝わる。コアユニットがその精神状態を感知して各部位に伝達し始めた。前回と同じ感覚が一瞬全身を支配する。コアユニットからその他の艤装のパーツに、幸としての精神状態と意識、その状態を媒介として、軍艦神通のありとあらゆる情報が流れ込んで馴染んでいく。
先ほどの那珂の説明通り、各部位の艤装からかすかに響く動作音が神通の耳に入ってくる。自分で一から装備した艤装と同調できている。先程までの妙な恐怖やネガティブな思考が消えた。そう感じた。
次の瞬間、先の二人と同様に神先幸は、軽巡洋艦艦娘神通に完全に切り替わった。
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これで、同調した完全な川内型艦娘が一同の前に揃った。最後に同調した神通は先二人のような一息をつくことなく、黙ったまま立っている。
「神通ちゃんには特別にかるーく腕や足を動かすのを許したげる。やってみて。」
那珂の指示を聞いた神通は、本当にそうっと腕を上げてみた。前回の時はほとんど動くことなく同調を切って戻ってしまったが、今回は違う。そうっと動かしたつもりの腕振りが、ボクサーがジャブを打つかのようにシュバッと風を切る音を立てた。神通は今までの自分とは違う感覚で行動を起こしたことに驚きを隠せない。それで満足した神通は那珂に伝える。
「全部装備した艦娘って、こういう感覚なんですね……。すごい……。」
「喜んでもらえてなによりだよ。まだ動くのに慣れてないだろうから、一旦同調切って。重くてしんどくなるだろーけど、写真撮るから場所移動しよ?」
そう言った那珂は光主那美恵だった頃となんら全く変わりなくテキパキ動いて移動し始める。一方の川内と神通は那珂の言いつけどおり同調を切っていたため艤装の本来の重さがのしかかっていた。三千花や和子・三戸からすると少々面白いくらいにスローな動きで移動しようとしている。
「プッ。フハハハ!なんだよ内田さんその動き!面白すぎだよ!」
三戸は思わず笑いを漏らしてしまった。そんな彼に川内はキッと睨みをきかせる。本当は冗談っぽく腕をあげたかったが、そんなことをする気も失せたので表情だけで怒ってみせた。
「さっちゃん……ゴメンね。面白い……!」
和子は両手で口を塞いでうつむいて肩をプルプルさせながら笑っていた。そんなに友人の姿を見て俯いてショック隠せないでいる。
「そういえば、私も一番最初の頃はあんなだったわ。提督に大笑いされたの思い出しちゃった。不知火はどうだったのかしら?」
五十鈴は遠い目をして自分の訓練初日の様子を思い出していた。聞かれた不知火もコクリと頷いて思い出すように言った。
「……似たようでした。」
すでに艦娘である二人も似たような状態であったことをポロリと打ち明ける。そのことは一番近くにいた三千花や三戸の耳に真っ先に入ってきた。
「五十鈴さんもそうだったんですか?想像したら……笑ったらいけないんでしょうけど、フフッ。ゴメンナサイ。」
「中村さんにまで笑われるなんてショックだわ……。それはそうと、私のことは本名で呼んでもらってもどっちでもかまわないわよ。」
「え? ……それじゃあ私のことも、気軽に名前で呼んでもらってもいいですよ、凛花さん。」
「了解よ。三千花さん。」
懇親会でたくさん話して打ち解けたためか、五十鈴は三千花と軽く冗談を言える仲にまで進展していた。そのため五十鈴は自身の本名で呼ぶことを三千花に許す。それを受けて三千花も逆に自身を苗字ではなく、名前で呼ぶよう願い入れて返事とした。
それを側で見ていた三戸はすかさず話に割って入る。
「じゃあ俺も五十鈴さんのことそう呼んd
「申し訳ないけどあなたは勘弁して頂戴。」
言い終わるがはやいか、五十鈴から口調は丁寧だが鋭い拒否の言葉が三戸に突き刺さる。五十鈴と三戸の関係のなさからして、当たり前の反応だった。
「おーい、あたしたち準備おっけーだから、早く写真撮ってよ〜。」
那珂が三千花たちに催促の言葉を投げかける。カメラを持っていた三戸がそれに反応した。
「はーい。了解っす。そこでいいんすね?」
「三戸くん!早く早く!」
カメラを掲げながら数歩進んで近寄る三戸が再確認すると、那珂のとなりにいた川内が両手で手招きをして三戸を急かした。三戸はそんなに急かさんでもと文句を言ったその顔はにやけていた。
「じゃあいくっすよ〜。はい。一足す一は……」
「にっ!!」
言葉を発したのは那珂と川内だけだったが、黙っていた神通も、珍しく和子以外の人でもわかるくらいのはにかんだ表情を浮かべていた。その後、那珂だけ、川内だけ、神通だけ、川内と三戸、神通と和子、仲の良い者同士で撮りあって、川内型艦娘の真の姿を青春の思い出の一つにした。
川内と神通はこれからの艦娘生活に期待と不安を持ちながらこれからに臨む決意をした、三千花、三戸、和子の三人は大事な友人が少しだけ遠い世界に行くことに一抹の寂しさを覚えつつも門出を祝った、大切な土曜日となった。
作品名:同調率99%の少女(12) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis