いつか、また会えたら。
青ざめるエリザベータとは裏腹に、ギルベルトはとても落ち着いていた。
「なんでそんなに落ち着いてんの・・・?あんた、消えるのよ!?」
「んーわかんね。死ぬ前って逆に落ち着くんじゃね?」
「嫌よ・・・!」
「我儘言うなって。最後の俺の心残り、聞いてくれるか?」
「嫌、嫌よ!それが無くなったら、あんたいなくなっちゃうじゃない!」
「ちげーよ。言うからいなくなるんじゃない。いなくなるから言うんだ。」
ギルベルトは座り込むエリザベータを抱きしめた。
「好きだった。ずっと、好きだった。お前が坊ちゃんを好きなのも、これが叶わない想いだってことも、知ってるんだ。でも、これ言わないと、絶対俺後悔するから。愛してた、エリザ。」
「・・・知ってるわよ!ばか・・・バレバレなのよ、あんたの気持ちなんて!・・・・ごめんね、ギル。・・・・あんたの気持ちに応えられなくて、ごめん。でも、大好き。」
ぽたりぽたりとエリザベータの瞳から涙が零れる。
ギルベルトの腕は震えていた。
「本当は・・・本当は、すげー怖いんだ。俺、バカだから、みんなの前でかっこつけて別れてきたけど、死ぬの怖いんだよ。死にたくない。消えたくない。お前らとずっと一緒にいたい・・・!」
エリザベータは耳にあたる水滴を感じた。
ああ、やっぱり強がっていただけなんだ。
死を前にして恐れないものなど、どこにいるだろうか。
「うん・・・うん・・・。」
「ずっとヴェストに面倒見てて欲しい。フランシスやアントーニョと酒飲んでバカ騒ぎしたり、フェリシアーノちゃんとハグしたり、本田の家にも遊びに行きたい!坊ちゃんのピアノも聞きたい。お前とずっと一緒にいたい!」
「ギル・・・!」
ギルベルトの腕が半透明に透け始めた。
「さよなら」の前兆だった。
「もう、時間かよ・・・」
「ギル・・・ごめんね、なにもできなくて、ごめんね。」
エリザベータの涙は止まることなく溢れ出た。
「泣くなよ・・・俺、お前の笑ってる顔が好きなんだ。だから、笑ってくれ。最後に、笑ってるとこ見せてくれよ。」
「ん・・・バイバイ、ギル。」
「今まで、好きでいさせてくれて、ありがとな。」
ふわりと風が吹いて、ギルベルトはゆっくりと天に昇っていった。
最後に見た、愛する人の顔は、とびきりの笑顔だった。
さよなら、大好きな人たち。
Danke schön! Danke schön!
広い草原に、エリザベータの悲痛な叫びがこだました。
青く、青く、澄んだ空。
「彼」を連れていった空はよりいっそう青く、澄んだ色をしていた。
まるで、「彼」が空になったように。
例えば、いつかまた生まれ変わって出会えたら、君は俺を好きになってくれるのだろうか。
答えは「Nein」だ。
あいつは俺といるより、坊ちゃんといるほうがきっと幸せだから。
俺は、俺を好きなあいつは、きっと好きにならないだろうから。
何度生まれ変わっても、俺はあいつと幼馴染で、喧嘩仲間でいたいんだ。
さようなら。
いつかまた、どこかで。
「と、いう夢を見たんだ。」
「・・・・・ばかじゃないの?」
「本当にお馬鹿さんですね。」
「兄さんがそんな感動的にいなくなるわけないだろう。」
「ヴェー話聞いてるだけで涙でてきちゃったー」
「師匠・・・フェリシアーノくんを泣かせてはいけませんよ。」
「ギルが消滅とかワロスww」
「なんでそんな感動的な夢見てんww謎の感動www」
「しかもなんだかギルエリちっくですねww」
「ほんと!嫌んなっちゃうわ!出演料とるわよ!」
「・・・え?なにこれいじめ・・・?俺様結構朝から怖かったんですけど・・・!」
「つ・ま・り、ギルがいなくなるわけないってこと!」
「せやせや。ギルちゃんいなくなったら誰で遊べばいーん?」
「ギルベルトー!いなくなっちゃやだよー!!」
「兄さんにはまだやってもらわなければいけないことがたくさんあるんだからな・・・。掃除とか・・・あと・・・掃除とか・・・。」
「このお馬鹿さんが!エリザベータは渡しませんからね!」
「ピヨピヨ!」
ギルベルトはニッと笑った。
(親父、わりーな。そっちへ行くのは一生無理かもしんねー!!)
青く青く澄み渡る空。
世界は今日も、平和です。
作品名:いつか、また会えたら。 作家名:ずーか