艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり
2人が運動場の横を通り過ぎると、右手には2階建ての団地くらい大きな、レンガ造りの建物が見えた。
「これはボクら艦娘用の寮だね」
「だいぶ大きな建物だけど、ここで艦娘全員が暮らしているのかい?」
「そうだよ。部屋は決まってるけど、艦種で分けたりとかはしていないから、結構みんな自由な部屋割りで使ってるよ」
なるほどね、とつぶやきつつ、彼はいま来た道の先の方へ視線を向けた。寮の後ろに生えている松やくすのきの林の中には、ガッチリとした金属製の高い塀が見える。どうやらそこで行き止まりらしかった。
「さて、これで鎮守府の紹介はあらかた終わったよ。何か聞きたいことはあるかい?」
「そうだね……艦娘は存在自体公表されてないから、鎮守府の警備はがっちりしてるのかと思ったけど、警務官はいないのかい? 見まわってる人を1人も見ないけど」
「警務官? ああ、憲兵のことだね。憲兵は正面の門にしかいないね。でも、あそこにあるみたいにこの鎮守府全体が3メートルの鉄の塀で覆われているし、防犯カメラ、電気柵とかいうものも置いてるから、警備体制は万全らしいよ」
「なるほどね。他は……ないかな。今後、分からないことがあったら、その時にまた教えてもらってもいいかい?」
「もちろんさ。いざ仕事をやってみて分かることもあるだろうから、その時はボクに聞いてよ」
「そう言ってくれると助かるよ」
寺西は鎮守府見学を終えると、時雨に連れられて、司令部棟2階奥にある会議室へ来た。会議室は木製で深茶色のしっかりとした長机がロの字型に並び、椅子が十数個並べてある。入って左側の壁には横須賀周辺の海図が、右側には日本地図が取り付けられており、正面の壁にはそういったものが何もつけられていない代わりに、天井に吊るされたプロジェクターから映像を映したり、書き込んだりするためのホワイトボードが取り付けられていた。天井には裸電球が取り付けられ、窓のない会議室全体を暖かな光で照らしている。
奥側の椅子には、富山少将と大淀が座っており、入り口側の机の端の方に明石が座っていた。時雨と寺西が大会議室に入室したタイミングで全員が立ち上がり、2人の方を向いた。寺西は少し緊張しつつも敬礼して、椅子の前まで移動した。
「座ってくれ」
富山がそう言うと、その場にいた全員が席に着く。さらに彼は続ける。
「本来ならすぐにでもこの鎮守府全員の紹介をすべきところなんだが、訓示は明日の0700の朝礼で行う。その場で自己紹介と正式な艦隊再編を行う予定だ。だから、今のうちに少佐のこれからやることを手短に伝えよう」
そう言うと富山は立ち上がり、日本地図の方へと向かった。
「現在、我が日本海軍は軽巡洋艦大淀を旗艦とした、第1艦隊のみが活動している状態だ。現在も、吹雪、白雪、叢雲、綾波、時雨の5隻は、日本近海を警備のために巡視している。だが日夜、深海棲艦は太平洋側を中心に、本土沿岸の幅広い地域で目撃されている。あってはならないことではあるが、我々が間に合わなかったことで、沿岸施設で被害が出ることも少なくない」
寺西はゴクリと唾をのむ。
「そこで、少佐には新たに第2艦隊を編成してもらう。その上で、ここ横須賀鎮守府から西側を中心に、日本の領海内にて作戦行動を行ってもらいたい」
「了解です」
「あと、ここにいる時雨と明石は明日0700をもって第2艦隊に転属だ。2人とも、少佐のサポートをよろしく頼むぞ」
「はい」
「お任せください!」
そう言う時雨と明石を見て、富山はうんうんと頷く。
「俺から話すことは以上だ。他には……何かあるか、大淀?」
「ありません」
「よし、じゃあ朝に渡した冊子を参考に執務にあたってくれ。時雨は俺の執務を手伝ってもらったりしたこともあるから、分からないことは時雨に聞いてもらえれば大丈夫だ。もちろん、必要があれば俺や大淀に聞いてもらってもいいぞ」
そこまで言うと、富山は立ち上がった。それを合図に他の全員も立ち上がり、敬礼する。富山が歩き出すと、その少し後に大淀が続いて、2人はそのまま部屋を退出した。扉が閉じた後、時雨が寺西に話しかけてくる。
作品名:艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり 作家名:瀬戸信浩