艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり
「明石です! この鎮守府では艦娘の建造、修復、兵器の開発、解体などを担当しています。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
明石が手を差し出すと、寺西は手を握って握手した。
「明石さん」
明石に時雨が話しかける。
「どうしたの? 時雨ちゃん」
「少将が1100時に会議室に集合して欲しいって言ってたよ」
「少将さんが? それは珍しいけど、何かあったかな」
「行ってみればわかるよ。たぶん明石さんはびっくりすると思うけど」
「うーん、分かりました。特に怒られるようなことはしてないと思うんだけどなぁ……」
時雨はふふっと微笑むと、今度は寺西に向き直る。
「さて、隣の建物も見てみようか」
「あ、見学中ですか。どうぞごゆっくり見ていってくださいね!」
明石は元気よく敬礼すると、作業場の奥の方へと戻っていった。
整備棟の建物の入り口は、先ほどの鉄扉ほどではないが、人が通るには大きな入り口になっていた。
「ここも普通の入り口と比べたら一回りくらい大きいね」
「ボクたちが艤装をここにしまう必要があるからね。艤装を装備したまま入れるように配慮されてるんだよ」
中に入ると、向かって右側には「女」と書かれたのれんがあり、向かって左側には入口のドアと同じ大きさの鉄扉がもう1つあった。
「……ここは温泉なのかい?」
「ちがうちがう。こののれんの向こうは入渠施設があるんだよ。ボクら艦娘は、入渠施設にある特殊なお風呂で戦いでの怪我を治すことができるんだ」
「ここが例の入渠施設か……本当にそんなので治るの?」
「治るよ。言葉にするととても奇怪だけど、こればっかりはそういうものとして慣れてもらうしかないよ――左側は、ボクたち艦娘の艤装を管理しておく倉庫だね」
時雨がドアを開けると、そこにはトラックを何台並べられるか考えてしまうほど広い、コンクリートの壁の部屋が広がっていた。天井では轟々と換気扇が回り、部屋の中には棚の厚さが一般家庭で使われるようなものより三倍ほどある、しっかりとした金属製の棚が一面に並んでいる。棚の上には、小銃と同じくらいの長さがある大砲や魚雷発射管などが整然と置かれていた。
「今は6艦しかいないけど、いつかこの倉庫を艤装で埋めることができるくらいには、仲間ができるといいな」
「そうか……そうだね」
倉庫の中を見回しつつ、少しの間だけ静寂な雰囲気が2人を包む。
「……さて、次のところに行くとしようか。司令官、ついてきて」
今度は2人は鎮守府の土地を、西側の海を望みつつ北から南へ横断するように進む。先程よりも白みを帯びた陽は深い青空を高く登り、ジリジリと照りつける日光が全身に突き刺さる。そんな中、暑さをものともせずに時雨が先行してスタスタ歩いていると、ふっと左のほうに向いた。あとから続くバテ気味の彼も時雨と同じく左側を向くと、そこには先ほど会話にあがった主に荷物積み下ろしに使われるドック、揚げられた資材を保管するであろう倉庫群と広い運動場が設けられていた。時雨は話しだす。
「ボクたち艦娘も、戦いに出るとなれば艤装を支える体力や筋力が必要だからね。こうやって陸の運動場を使って鍛えるのさ」
「そうか、艦娘の戦い方は艤装と妖精さんに頼りきりなものかと思っていたけど、確かにそれを支えるのは本体である艦娘自身だからね。でも、ボクらみたいな普通の人間だと艤装は装備することすらできない。やっぱりそこには何らかの――解明されてない”力”が働いているんだろう?」
「そう……だとは思う。でも、ボクら自身もボクらのことはよくわかってないんだ。なんでボクらだけが艤装を装備して使いこなせるのか、なんでボクらの艤装だけが深海棲艦に攻撃ができるのか――でも、君の言う”力”も万能ってわけじゃない。あの重い艤装を戦闘中に支えるのは、他でもない生身のボクたちの仕事だよ」
「そうか……ごめん、なんか変なことを聞いちゃって」
「いいさ、ボクも自分自身のことは気になるしね……でも、そうやってちゃんとボクの気持ちを汲んでくれるのは嬉しいよ」
そう言うと、ちらっと時雨はこちらを向いて微笑んだ。それに対して彼も少し口角を上げて返事をする。
作品名:艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり 作家名:瀬戸信浩