break time-ある日のプリンスたち-
きっかけは、実に些細な事だった。
いつも昼食は、俺を慕ってくれるレディ達と楽しく食べるのが決まりなんだけど、その日はたまたま声をかけてきた友人達と、食事をする事にした。
クラスメイトの来栖翔と、そのルームメイトの四ノ宮那月。
食事に誘ってきたのは四ノ宮の方で、俺がOKしたら、来栖は意外そうにしてたっけ。
確かに意外かもしれないけれど、俺もたまには、いつもと違う事をしてみたい気分の時だってあるからね。
「いたいたレンくん、お待たせしました。ここ座ってもいいですか?」
俺が一足先に学食のテーブルに陣取っていると、後から四ノ宮と来栖がそろってやってきた。
「ああ、構わないよシノミー。そのために空けておいた席だからね。おチビちゃんもどうぞ」
「チビ言うな! って、うっわ何だそのカレー。見たことねー色してんな」
「ふと辛いものが食べたくなったから、ここで一番辛いカレーを頼みたいって言ったのさ。なかなかスパイシーな味わいだよ。食べてみるかい?」
「マジかよ。その注文の仕方、すげえチャレンジャーだな。じゃあ一口もらうぜ?」
「ずいぶん綺麗な赤い色ですねえ、何カレーなんですか」
「メニューの名前は確か・・・ああそうだ、MAX1000倍カレー」
「ぶっ!!」
「ああっ、翔ちゃんダメだよこぼしちゃ。慌てて食べるからだよ?」
「☆×○っ!!」
来栖が声にならない悲鳴を上げるが、天然でズレている四ノ宮にはその意味は伝わらない。
「もう、ほら、口元に付いてるよ。僕が拭いてあげる。ふふ可愛いなあ」
「げほっ、食いモン・・・っ、じゃねえぞ、これ・・・!」
「おーい。3人で昼メシ? 俺たちも混ぜてよー。あれ、どうしたの翔。ってねえ! 大丈夫?」
笑顔で現れた一十木音也が、来栖の様子を見た途端に目を丸くした。
そして、その後ろを付いてきた聖川真斗も、ひどく慌てた様子で来栖に声をかける。
「どうした来栖、涙目ではないか。しっかりしろ、何があったんだ?」
「うわあ、音也くんに真斗くん。奇遇ですね。2人も一緒にお昼ごはんを食べませんか?」
「音也!・・・頼む、みず・・・ぐっ」
「わかった、ちょっと待ってて! すぐ持って来るから!」
「まかせたぞ一十木。・・・おい、来栖の尋常でない様子はまさか、神宮寺・・・お前の仕業ではあるまいな」
そう言って聖川は、剣呑な瞳で俺を睨みつける。
「おいおい、人聞きが悪いな。クラスメイトの食べていたカレーをほんのスプーン一杯味見をしたら、ちょっとばかり口に合わなかった、それだけのことだろ?」
「翔、ほら水! 持ってきたから! さ、飲んで」
グラスに水を入れて戻って来た音也が、来栖にそれを渡す。
「ん・・・・・・サンキュ。はあ。助かったぜ。んぐ・・・まだ口ん中痛ぇけど」
「おチビちゃんは大げさだなぁ。まあ、まだ子供だからしょうがないか」
「子供言うな!! どう考えてもお前の味覚の方がおかしいだろ!!」
「そうかい? シノミーはどうだい?」
「はい、一口頂きました。ピリッとしてとっても美味しいですよ。どんなスパイスで味付けしてるのかなあ」
「だってさ」
「・・・味覚に関しては、四ノ宮やお前を基準にするべきではない。お前、分かっていてわざと言っているだろう」
「ね、あれ、あそこにいるのトキヤじゃない? おーい、トキヤー。ひとりー? こっち来なよー。一緒に食べよーよー」
俺達が険悪な雰囲気になりかけた時、音也が、学食内にルームメイトの一ノ瀬トキヤの姿を見つけて、呼び止める。
「・・・・・・・・・・・・」
大きく手を振って必死にアピールするも、当の本人は無言のまま、空席を探して食堂内を見渡すだけだった。
「おーいトキヤってばー。聞こえないのー? おーい!」
「トキヤくん、ぜんぜん振り向かないですね」
「あー、あのな音也、あれは聞こえてないっていうより・・・」
「トキヤってばー! ねー! トーキーヤー!」
そろそろかな。俺がそう思うと同時に、一ノ瀬は振り返って、きつい眼差しを音也に向けた。
「聞こえています! まったく騒々しい。何故、朝晩だけでなく昼食まであなたと一緒でなければならないのですか」
「えー。いーじゃん。みんなで食べるの楽しいしさー」
「それはあなたの価値観でしょう。私は静かに落ち着いてとる食事が好きなんです。私を巻き込まないでください」
「そう言わないでさ、たまにはつきあってくれてもいーじゃん。せっかくみんなそろってるし、七海と友千香も後から来るって言うしさ」
「わぁ、ハルちゃん達もくるんですか? 楽しみです!」
「・・・まったく・・・仕方がないですね」
「お? やけに素直じゃん。どうしたんだよ急に」
「もしや、レディが来ると聞いて気が変わったのかい?」
「別に。彼があまりにしつこいので、根負けしただけです」
「さあ、どうだか」
一ノ瀬は、ルームメイトの音也とは真逆な性格で、気難しくて素直じゃない。
しかし考えている事は案外わかりやすい方だという事に、自分ではあまり気づいてないらしくて、俺にはそこがおもしろい。
「座るなら、ここが空いているぞ一ノ瀬」
「ありがとうございます。失礼します」
聖川に勧められて、一ノ瀬は律儀に礼を言い、昼食を乗せたプレートをテーブルに置いて、席に座る。
隣の席になった来栖が、一ノ瀬の食事を見て、
「トキヤは野菜サンドとオニオンスープだけかよ。足りんのか?」
「昼食はいつもこのくらいですが、何か。少なくともその得体の知れない殺人料理を食べるよりは遙かに、健康的です」
「殺人料理とは失礼だな。ごく普通のカレーじゃないか」
「普通じゃねーよ!! マジ死ぬかと思ったんだぞ!」
「えー、美味しいですよー」
「アホか・・・っておい那月っ! お前、いつの間にもう一皿持ってきたんだよ?!」
見ると四ノ宮は、さっきまで俺が食べていたのと同じカレーライスを手にしていた。
「レン君のカレーが美味しかったから、もっと食べたくなって、僕も頼んじゃいました。はい、翔ちゃんもどうぞ。あーん」
「やめろぉぉおっ! それを近づけるなぁっ!!」
「四ノ宮は決して悪気があるわけではないだろうが・・・何かこう、見ていて不憫になるな」
「翔、普通に辛いのは好きなのにね。あっ、でも俺はね、カレーだったら甘口が好き! 辛いと味わかんないっていうかさー」
「誰もあなたの好みなど聞いていません」
「トキヤ冷たいぃー」
「一十木、今更あらためて言わなくとも、辛いものと苦いものが苦手な事は、以前に言っていたではないか」
ルームメイトの冷たい対応を見かねたのか、聖川がフォローを入れる。
「あれっ、そうだっけ?」
「確かあれは、自動販売機でお前がカフェオレを買っていた時だと思ったが。俺がブラックコーヒーを買ってるのを見て、驚いていただろう」
「あ! そうだ、言ったかも! ははっ忘れてた」
「良かったですね。聖川さんがあなたの話を真面目に聞いていてくれて。それに比べてあなたは・・・自分の発言くらい、きちんと覚えていなさい。失礼ですよ」
「うん。そうだね、俺いつも勢いとか思いつきで喋っちゃうから。ごめん、いつもありがと、マサ!」
いつも昼食は、俺を慕ってくれるレディ達と楽しく食べるのが決まりなんだけど、その日はたまたま声をかけてきた友人達と、食事をする事にした。
クラスメイトの来栖翔と、そのルームメイトの四ノ宮那月。
食事に誘ってきたのは四ノ宮の方で、俺がOKしたら、来栖は意外そうにしてたっけ。
確かに意外かもしれないけれど、俺もたまには、いつもと違う事をしてみたい気分の時だってあるからね。
「いたいたレンくん、お待たせしました。ここ座ってもいいですか?」
俺が一足先に学食のテーブルに陣取っていると、後から四ノ宮と来栖がそろってやってきた。
「ああ、構わないよシノミー。そのために空けておいた席だからね。おチビちゃんもどうぞ」
「チビ言うな! って、うっわ何だそのカレー。見たことねー色してんな」
「ふと辛いものが食べたくなったから、ここで一番辛いカレーを頼みたいって言ったのさ。なかなかスパイシーな味わいだよ。食べてみるかい?」
「マジかよ。その注文の仕方、すげえチャレンジャーだな。じゃあ一口もらうぜ?」
「ずいぶん綺麗な赤い色ですねえ、何カレーなんですか」
「メニューの名前は確か・・・ああそうだ、MAX1000倍カレー」
「ぶっ!!」
「ああっ、翔ちゃんダメだよこぼしちゃ。慌てて食べるからだよ?」
「☆×○っ!!」
来栖が声にならない悲鳴を上げるが、天然でズレている四ノ宮にはその意味は伝わらない。
「もう、ほら、口元に付いてるよ。僕が拭いてあげる。ふふ可愛いなあ」
「げほっ、食いモン・・・っ、じゃねえぞ、これ・・・!」
「おーい。3人で昼メシ? 俺たちも混ぜてよー。あれ、どうしたの翔。ってねえ! 大丈夫?」
笑顔で現れた一十木音也が、来栖の様子を見た途端に目を丸くした。
そして、その後ろを付いてきた聖川真斗も、ひどく慌てた様子で来栖に声をかける。
「どうした来栖、涙目ではないか。しっかりしろ、何があったんだ?」
「うわあ、音也くんに真斗くん。奇遇ですね。2人も一緒にお昼ごはんを食べませんか?」
「音也!・・・頼む、みず・・・ぐっ」
「わかった、ちょっと待ってて! すぐ持って来るから!」
「まかせたぞ一十木。・・・おい、来栖の尋常でない様子はまさか、神宮寺・・・お前の仕業ではあるまいな」
そう言って聖川は、剣呑な瞳で俺を睨みつける。
「おいおい、人聞きが悪いな。クラスメイトの食べていたカレーをほんのスプーン一杯味見をしたら、ちょっとばかり口に合わなかった、それだけのことだろ?」
「翔、ほら水! 持ってきたから! さ、飲んで」
グラスに水を入れて戻って来た音也が、来栖にそれを渡す。
「ん・・・・・・サンキュ。はあ。助かったぜ。んぐ・・・まだ口ん中痛ぇけど」
「おチビちゃんは大げさだなぁ。まあ、まだ子供だからしょうがないか」
「子供言うな!! どう考えてもお前の味覚の方がおかしいだろ!!」
「そうかい? シノミーはどうだい?」
「はい、一口頂きました。ピリッとしてとっても美味しいですよ。どんなスパイスで味付けしてるのかなあ」
「だってさ」
「・・・味覚に関しては、四ノ宮やお前を基準にするべきではない。お前、分かっていてわざと言っているだろう」
「ね、あれ、あそこにいるのトキヤじゃない? おーい、トキヤー。ひとりー? こっち来なよー。一緒に食べよーよー」
俺達が険悪な雰囲気になりかけた時、音也が、学食内にルームメイトの一ノ瀬トキヤの姿を見つけて、呼び止める。
「・・・・・・・・・・・・」
大きく手を振って必死にアピールするも、当の本人は無言のまま、空席を探して食堂内を見渡すだけだった。
「おーいトキヤってばー。聞こえないのー? おーい!」
「トキヤくん、ぜんぜん振り向かないですね」
「あー、あのな音也、あれは聞こえてないっていうより・・・」
「トキヤってばー! ねー! トーキーヤー!」
そろそろかな。俺がそう思うと同時に、一ノ瀬は振り返って、きつい眼差しを音也に向けた。
「聞こえています! まったく騒々しい。何故、朝晩だけでなく昼食まであなたと一緒でなければならないのですか」
「えー。いーじゃん。みんなで食べるの楽しいしさー」
「それはあなたの価値観でしょう。私は静かに落ち着いてとる食事が好きなんです。私を巻き込まないでください」
「そう言わないでさ、たまにはつきあってくれてもいーじゃん。せっかくみんなそろってるし、七海と友千香も後から来るって言うしさ」
「わぁ、ハルちゃん達もくるんですか? 楽しみです!」
「・・・まったく・・・仕方がないですね」
「お? やけに素直じゃん。どうしたんだよ急に」
「もしや、レディが来ると聞いて気が変わったのかい?」
「別に。彼があまりにしつこいので、根負けしただけです」
「さあ、どうだか」
一ノ瀬は、ルームメイトの音也とは真逆な性格で、気難しくて素直じゃない。
しかし考えている事は案外わかりやすい方だという事に、自分ではあまり気づいてないらしくて、俺にはそこがおもしろい。
「座るなら、ここが空いているぞ一ノ瀬」
「ありがとうございます。失礼します」
聖川に勧められて、一ノ瀬は律儀に礼を言い、昼食を乗せたプレートをテーブルに置いて、席に座る。
隣の席になった来栖が、一ノ瀬の食事を見て、
「トキヤは野菜サンドとオニオンスープだけかよ。足りんのか?」
「昼食はいつもこのくらいですが、何か。少なくともその得体の知れない殺人料理を食べるよりは遙かに、健康的です」
「殺人料理とは失礼だな。ごく普通のカレーじゃないか」
「普通じゃねーよ!! マジ死ぬかと思ったんだぞ!」
「えー、美味しいですよー」
「アホか・・・っておい那月っ! お前、いつの間にもう一皿持ってきたんだよ?!」
見ると四ノ宮は、さっきまで俺が食べていたのと同じカレーライスを手にしていた。
「レン君のカレーが美味しかったから、もっと食べたくなって、僕も頼んじゃいました。はい、翔ちゃんもどうぞ。あーん」
「やめろぉぉおっ! それを近づけるなぁっ!!」
「四ノ宮は決して悪気があるわけではないだろうが・・・何かこう、見ていて不憫になるな」
「翔、普通に辛いのは好きなのにね。あっ、でも俺はね、カレーだったら甘口が好き! 辛いと味わかんないっていうかさー」
「誰もあなたの好みなど聞いていません」
「トキヤ冷たいぃー」
「一十木、今更あらためて言わなくとも、辛いものと苦いものが苦手な事は、以前に言っていたではないか」
ルームメイトの冷たい対応を見かねたのか、聖川がフォローを入れる。
「あれっ、そうだっけ?」
「確かあれは、自動販売機でお前がカフェオレを買っていた時だと思ったが。俺がブラックコーヒーを買ってるのを見て、驚いていただろう」
「あ! そうだ、言ったかも! ははっ忘れてた」
「良かったですね。聖川さんがあなたの話を真面目に聞いていてくれて。それに比べてあなたは・・・自分の発言くらい、きちんと覚えていなさい。失礼ですよ」
「うん。そうだね、俺いつも勢いとか思いつきで喋っちゃうから。ごめん、いつもありがと、マサ!」
作品名:break time-ある日のプリンスたち- 作家名:透野サツキ