break time-ある日のプリンスたち-
「ん、ああ。別段、俺は気にしていないが・・・お前のそういう素直さは美徳だな」
「? 何のこと?」
「分からないならいいが。一ノ瀬はどう思う?」
「・・・否定はしません。ただ、彼を褒めるのはほどほどにして下さい。増長しては困ります」
「トキヤくん、何だか音也くんのお母さんみたいですね」
「っ」
一ノ瀬の顔色が変わる。
「…いくら四ノ宮さんでも、妙なことを言うのはやめて下さい」
相手が四ノ宮だけに、一ノ瀬は感情を抑えながら言う。
「うわ、あんまトキヤを怒らすなよ那月」
「え、僕何か変なこと言いました?」
きょとんとする四ノ宮に俺は薄く笑って、
「心配ないさ、シノミー。イッチーは照れてるだけだよ」
「あなたはわざと言っているでしょう。少しは慎んで下さい」
「はいはい。物静かな奴ほど、怒ると怖いんだよね」
「あ、でもね、トキヤは確かに怒ると怖いけど、悪いことは悪いって言ってくれるし、勉強も熱心に教えてくれるし、優しいところもいっぱいあるよ」
「音也! あなたも黙っていなさい」
「だとさ。心の広いルームメイトで良かったじゃないか。ただ、このカレーの大人の味は、まだわからない様だけどね」
「いやー、それは俺あんまりわかりたくないかも・・・」
「神宮寺。味の好みは人それぞれだ。押しつけるものではない。それに、いたずらに濃い味付けはどうかと思うが。少なくとも俺の好みではない」
「同感ですね。仮にもアイドル志望なのだから、刺激物は控えるべきでしょう。胃腸の調子や、肌にも影響しますから」
「さっきから思ってたけど、お前ら何気に意見合うよな」
立て続けに反論してくる二人に、来栖が妙に感心して言う。
「そうそう。普段も、顔合わせるとよく話し込んでるよね二人。そんなに何話してるんだろうってくらい」
「へえ~。そうなんですか? 真斗くん」
「うむ。確かに一ノ瀬とは何かと話題も合うし、知識も豊富で、得る物が多いな」
「・・・それほどでもありません。常識の範囲です」
「あれっ、トキヤ照れてる?」
「違います。何ですか、あなたまで」
「照れてるって。隠さなくてもいいのにー。でもホント二人とも落ち着いてるし、頭もいいし、器用だし、料理もうまいよねえ」
「え、お前、トキヤの料理なんか食ったことあるの」
「うん、こないだ朝食作ってもらったんだ!」
「あれは、あなたが人の食事を勝手につまみ食いしたのでしょう。しかも、出来上がった目玉焼きの上に勝手にケチャップをかけて。予定が狂ってしまったので、仕方なく二人分作っただけの事です」
「やっぱなぁ。そんなことだろうと思ったぜ」
「ふふ、音也君、子供みたいですねえ」
「待て。目玉焼きに・・・ケチャップだと?」
「うわぁ、反応そこかよ」
「え。なんか変? マサはやらないの?」
「・・・少なくとも、俺は初めて聞いたのだが、それは一般的な食べ方なのだろうか」
「そうだよ。同じ卵料理でもオムレツにケチャップかけるじゃん? それと一緒じゃない?」
「む、そう言われると確かに一理あるな・・・一度、試してみるべきか」
「うん。結構いけるよ! やってみて!」
「ああ、そうしよう。そう言えば一ノ瀬は何をかけるつもりだったんだ?」
「私は大抵ソースを。聖川さんの好みはやはり醤油ですか」
「うむ。好みと言うより、ごく自然にそう思っていた」
「俺は断然、タバスコを推すけどね。おチビちゃんは? お子サマらしく砂糖でもかけるのかい?」
「んなわけあるか! つーかタバスコってマジかよ」
「風味が良くなるよ。食べてみるかい?」
「断る。俺はその日の気分でいろいろだけど、多いのはやっぱ醤油かな。一緒に塩コショウかけてさ」
「僕はイチゴジャ・・・」
「言うな。食欲が失せる」
「へー、おんなじ目玉焼きでも、食べ方はみんな結構バラバラなんだね、おもしろいなあ」
「ああ、勉強になるな」
「勉強ねえ。いちいちお堅いなお前は」
「決して馬鹿にはできん。味の好みや習慣は、育った環境に大きく左右されるものだ。自分にとって当たり前のものが、そうでなかったりする事も多い。違うものに触れる事も、時には必要だろう」
「環境・・・なるほど、確かにそうですね」
「え、トキヤ何で俺の方見てるの? 何か付いてる?」
「今の話、あなたは、自分にも当てはまることだと思いませんか」
「俺?」
「あなたは施設育ちだと言っていましたね。施設には年の幼い子供も多くいたのでしょう」
「うん。そうだよ。大人になったら自立して出ていくから、基本、小さい子が多いよね。それがどうかした?」
「おそらく食事のメニューや味はその子たちに合わせていたのではないですか? きっとあなたの味覚はその影響を受けているのでしょう」
「あ、そっか! トキヤ頭いいね! なんだ、そっかあ・・・。へへっ」
「ん? 嬉しそうだね、イッキ」
「だって俺、施設のみんなの事、大好きだったから。あそこでの暮らしが今でも自分の一部になってるんだなって思うとさ、なんか嬉しいんだ」
音也は無邪気に笑う。両親がいなくて施設育ち、なんて生い立ちを音也は少しも感じさせない。
常に明るくて素直で、軽快でエネルギッシュだ。大したものだと思う。
「そうだ、今度みんなでホームパーティーをしませんか?」
四ノ宮が唐突に言い出す。
「は? いきなりホームパーティーって…大体俺ら寮生活だし」
「わあ、いいね、楽しそう!」
すかさずツッコミを入れたのは来栖で、賛同したのは音也だった。
トキヤと聖川は予期せぬ展開についていけず、固まっている。
「シノミー、ホームパーティーって言ってもいろいろあるけど、どんなイメージなんだい?」
「ここにいるみんなで集まって、何かひとつの料理を作るんです…カレーとか、お鍋もいいですね。食べながらお喋りしたり、何かゲームをしたり、きっと楽しいです!」
「ふうん、なるほどね。それなら別に寮の部屋でもいいんじゃないか? 各部屋にキッチンはあるわけだし。難しくはないよ」
「それもそうだな。そんじゃいっちょやるか!」
「俺はカレーがいいな! みんなで相談しながら作ろうよ! 俺マッシュルーム入れたい!」
「うむ。そう言う事なら、鍋や食器は俺が用意しよう。場所はどうする?」
一歩遅れて聖川が話に参加してくる。
「俺らの部屋でいいんじゃねえ? ちょっと散らかってるけど、気楽に使えるだろ。那月も良いよな?」
「はい、大歓迎です! ウサちゃんやクマちゃんもみんな喜びます!!」
「いやそれは片づけろ。入れねーだろ、人」
「えー、せっかくのパーティーなのにー」
「よしっ決まりだね。わあ、楽しみだな! トキヤも来るでしょ?」
「・・・検討します」
「また、もったいぶるね」
「即答しろとは言わねーけど、人数の都合もあるから早めに決めてくれよ。ドタキャンはダメだかんな」
来栖に促されると、一ノ瀬は小さくため息をついて、
「日程次第です。要望を取り入れて頂けるなら参加しますよ」
「じゃあ、授業がない週末でトキヤが来られる日にしよう! いいよね?」
「確かに、この中で最も多忙なのは一ノ瀬だろう。開けられる日はあるか?」
「そうですね…少し先になるかもしれませんが…」
作品名:break time-ある日のプリンスたち- 作家名:透野サツキ