【青エク】(サンプル)踏ミ出シ往クハ
踏ミ分ケ往ク
ふあ、と大きな欠伸を洩らしながら、廉造はうん、と大きく伸びをした。寝間着代わりのジャージのもそもそした感触ではなく、寝具が直接素肌を滑る感覚に違和感を覚える。
あれ、なしてマッパなんやっけ?
浮かんだ疑問の答えを光の速さで思い出して、がばりと起き上がる。昨日勝呂を襲ったまま、彼の寝床で寝込んでしまったらしい。隣には残念ながら彼の姿はなく、寮の部屋の気配から察するに、勝呂は廉造の寝床を使うことにしたらしい。子猫丸の気配もあるから、恐らくは勝呂の寝床に潜り込んでいる理由を後で問い詰められることになるだろう。さて、なんと言い訳したものか。いや、いっそ言い訳しない方がいいのか?
まぁ、エエか。
枕元の時計を確認すれば、明け方の四時。今日は五時半に報告に来い、とイルミナティの連絡係《リエゾン》から言われている。その連絡係も人の予定なんぞ考慮もしてくれない幹部に、行って来い、と言われただけなのだろうから、そいつも気の毒なことだ。
堪忍してぇな。早いにも程があるわ。
そんな早くから起きたくない。文句の一つも言いたいところだが、ただの下っ端、いや、簡単に切り捨てられる存在、それがスパイだ――相手方の間諜だと正体がバレても存在が許されるなど、スパイとは言えないだろうが――。利用価値がある内は使われてやればいい。もちろん、こちらではなく向こう[#「向こう」に傍点]から情報を得られる限り、と言う意味だ。上手く立ち回らなければならないのは同じだが、その分こちらも動きやすいと言うものだ。
まだ一時間ほどは寝ていられる。床に脱ぎ散らかしたはずのジャージが寝床の足元に投げられていた。恐らく勝呂だろう。彼らしい行動によからぬ思いがこみ上げるのを堪えて、もそもそと身に着けると、共有スペースの卓袱台に乗った飲み残しの茶を飲む。
――えっろかったわぁ……。
勝呂の寝床に入り直して、一つ深呼吸をすると勝呂の匂いがした。ほう、と溜め息を一つ吐いて最初に脳裏に過ぎったのが、昨晩の勝呂が乱れる姿だ。我ながらどうかしていると思う。
作品名:【青エク】(サンプル)踏ミ出シ往クハ 作家名:せんり