ハルシオンの夜
強い酔いの為か、何時涙が零れ落ちてもおかしくない様な溶けた瞳で、それでも真っ直ぐに、綱吉は雲雀を見つめた。
「本当は逃げたいけど、悪いのは全部俺だから、逃げずに受け入れて腹に落として行かなくちゃいけないんです。消化していかなくちゃいけないんです」
「己の行動から逃げずに、受け入れようとした姿勢は認めるよ。でも結局君は、逃げているのと変わらない」
雲雀の一言で、先程まで強靭な光を宿していた琥珀は簡単に揺らいだ。他人の一言にこうも簡単に左右されるようでは、ボスなんてやっていられないだろうにと、それが、昼間の綱吉ならば絶対に侵さない失敗だと知りながら尚、雲雀は胸中で綱吉を詰った。
「何をしたところで、君が奪った命があるという事実は変わらないし、君がどんなに思ったところで、亡くなった君の部下が戻ってくる事は有り得ない。過去をいくら嘆いたところで、失ったものは取り戻せない」
君が今している事は、全力でその事実から逃げているだけだ。
言えば綱吉は漸く、きっと抗争の最中から溜め続けて、吐き出す事の出来なかった感情を、そっと瞼から零した。たった一筋、静かに頬を伝ったそれを、きっと気づいていないのだろうと思いながら、雲雀は綱吉を見る。
「君に必要な事は、命を削って己の暗い夜を飲み込む事じゃなくて、ただ静かに朝を迎え入れる事じゃないかい?」
そこまで聞いて漸く、綱吉はくしゃくしゃに顔を歪めて、まるで幼い子供のように泣き始めた。雲雀はそれを拒絶することなく、ただ静かに、まるで幼子にするように綱吉の背を叩く。
やがて泣き疲れたのか、薬の効果か、人形のように眠ってしまった綱吉を、雲雀は腕に抱いて眠った。
次の朝、目蓋を真っ赤に腫らせながら、雲雀の腕の中から抜け出して朝日を見つめた綱吉は、やっと苦しみを飲み込んで、少しだけ泣いて、盛大に笑っていた。
雲雀はその頭を思い切り殴ってやった。