【ダイヤのA】(サンプル)Things Among Us
光の中の君
「初詣に行きましょう!」
新年が明けて寮に戻ってきた沢村が、受験生である三年生の部屋に来て、クリスを誘った。部屋に招き入れると相当勢い込んできたのか、ずいずいずい、と押し迫ってくる。鼻息も荒く見上げてくる沢村が可愛くてならない。だが、笑いでもしたらすぐに拗ねてしまうだろう。そんな彼を甘やかして、わがままを言うところを見るのもまた可愛くて仕方がないのだが、男として対等な恋人として扱って欲しい沢村の気持ちも判る。だから、クリスは笑みを懸命な努力で引っ込めると、至極真面目な顔で尋ねた。
「なんだ、地元で行かなかったのか?」
「違いますよ」
沢村がちょっと頬を膨らませる。
「クリス先輩と行きたいんス」
その気持ちが嬉しい。そして、意に反して自分でも判るほど頬が赤くなる。沢村も頬を染めている。
「……そうか」
「っス!」
幸いなことに明日はまだオフだ。
「十時にどうすか」
「判った」
そう答えたクリスに、沢村が物言いたげにもじもじする。
「どうした?」
鼻の下を擦って照れたように笑うと、沢村がそっとクリスに近寄ってくる。腕がクリスの胴にまわされてぴたりと身体がくっついた。
ずっとレギュラーで捕手を勤めていたが、怪我を負ってその座も後輩に譲らざるを得なかった。再び捕手を目指すためにリハビリに励むクリスだったが、それは思うよりも長い道のりで、チームメイトの気遣いが嬉しくも、申し訳なく、倦んでもいたし、捻くれてもいた。ただ、それでも再び捕手として試合に出るのだ、それだけが励みだった。そんなクリスに最初沢村は事情を知らぬせいもあり、また正捕手の御幸になかなか相手にされなかったせいもあってか、反感を持っていたらしい。
作品名:【ダイヤのA】(サンプル)Things Among Us 作家名:せんり